バレたら終わりの百合ゲーム!?

人生終了のお知らせ


最近流行っているらしいモーニングルーティーンというものを私なりに書き起こしてみる。

まず温もりを残したベッドから芋虫のように這いおりては我先にと洗面所を占領。そこはただの洗面所ではない。戦場と化した私だけのパーソナルスペース。

芯まで冷えるほど冷たい水で顔を洗っては鏡を見つめる。うん、今日もしっかり可愛いぞ私。

戦場ではやはり武器は必須であろう。右手にファンデのスポンジ、左手にチークの筆。これが本日向かう激戦区へのお供だ。よーし…


「戦闘開始じゃーい!」


***


ふっふふ…完璧や。誰がどこから見ても可愛いし褒めちぎる部分しか見当たらない。髪の手入れも忘れずにこなした。平日なので当たり前なのだがこれから向かう先は学校。無難に髪はおろしておくのが吉かな。清楚なイメージを焼き付けるために染めはしなかった。

全ては自分磨きのため、今日から入学式頑張るぞ!そう心の中で大きく宣言し洗面所から出ようと軽やかに一歩を踏み出した時だった。


「姉ちゃんおはよ」


欠伸と共に眠気の交じった声が聞こえてそちらに視線を向ける。


「おはよう我が妹よ」


「え、なにきもい」


きもいって!実の姉にキモイって言ったよこの子!?妹を目の前にしてジッと見つめる。本人は眉間にシワを寄せてあからさまに嫌な顔をした。だからそれは姉に向ける顔じゃありません。


「だから何よ」


「我が妹ながら可愛いなと」


叩かれた。褒めたはずなのに何だこの仕打ちは。


「そういう姉ちゃんこそ変わったよね」


「変わったって?」


「前はもっと…ほら、地味?だったじゃん。友達もいなかったし陰キャの代表みたいな、はっきり言ってあの時の姉ちゃんと会話もしたくなかったし」


「はっきり言い過ぎじゃない!?」


これからの姉妹生活を考えて一抹の不安を覚えた。姉の威厳を…もう遅い気がする。

歯ブラシを加えたまま妹が私を眺め回す。表面だけじゃなく心の中さえも覗き込まれているようで少しこそばゆい。あまり人の視線に慣れていない私はあと数秒続けばその場から逃げ出しているところだった。


「うん、変わった。可愛くなったし雰囲気もなんか…明るくなったのかな。いいと思うよ、なに好きな人でも出来たん?」


「いやそういう訳じゃないけど…ほら今日は入学式だし、高校デビューみたいな?」


高校デビュー。ずっと憧れていた言葉。中学生の頃の私は教室の隅で難しそうな本をひたすらに読んでいるような女の子だった。特に友達付き合いで失敗したわけでも、漫画であるような始業式に風邪で休んじゃってグループに入れなかった!とかそんな理由はない。むしろそんなものを理由にしていいのなら縋り付きたかった。じゃあどうして学校での居場所も見つけられず、ぼっち道を極めていたのかと言うと…


「姉ちゃんコミュ障だもんね〜寂しいくせに、好きで一人でいるんだから話しかけないでオーラ凄かったし」


まあ、そうなのだ。一言でいうなら私には圧倒的コミュ力が足りない。コソコソとゴキブリのように生命力だけが人よりも長けていた。いやいやゴキブリって。


朝学校に行くと私の机と椅子だけが廊下に放り出されていただとか、クラスの皆から無視されるなんてことは一切なかった。いじめとは無縁に生きてきた事だけは本当に良かったと思っている。だって私は"空気"だったから。

受験期、そんな自分を見つめ直してこれはやばいんじゃない?と人生の危機を初めて感じ取ったのが今の私を形作っている源泉。

だってこのままじゃ華のJKに移ろったって何も変わらないと思ったのだ。


ダサいメガネはゴミ箱に捨ててコンタクトに変えた。昔ながらの三つ編みもほどいてウザったいくせっ毛は縮毛矯正でさようなら。芋っ子のヒロインがいきなり可愛くなった!っていう展開があるけれど実際私がそうなのだ。ふむ、当たり前であるぞ。なぜなら目の前にいるクラスでも1位2位を争うほどの美貌を持つ妹と同じ血が流れているのだから…!


妹いわく「姉ちゃんは元は整ってるのに影薄いせいで誰にも気づいて貰えないだけ」らしい。ステルス姉。新ジャンル。

ちゃんと私も努力はしたのだ。それはもう、血のにじむほどの。親に泣いてねだって買ってもらった最新機種のスマホでひたすら『陽キャ コミュ力アップ なるには』と検索かけてヒットした記事を何万ページも読み込んだ。勿論本棚にはリア充先輩たちの伝記も押し込めてある。

私は今日から中学時代とは打って変わって360度変わるのだ!

イケてる女子のグループの中心に立って、放課後の予定なんかを決めてお休みの日には都会でタピオカとかデパコスとか買っちゃったりするもんね!


「360度なら一周回ってきちゃってるけど」


……

そんなこんなで私は努力に努力を重ねた。メイクの方法もばっちり勉強したし、家族以外と話せるようになるために話術も頭に詰め込んだ。話し相手になってくれた妹には頭が上がらない

人間、笑顔が出来れば大抵どうにかなるってテレビに出ていたモデルも言っていたし。芋女の代表みたいな私は春休みの間に毒であるソラニンを必死にくり抜いたのだ。

わざわざめんどくさい手続きをしなきゃいけないのにこの高校に編入した理由も私のことを知っている人に会わないため。私の事なんてパンに挟まっているピクルスくらいにしか覚えていないクラスメイトもこの新境地にはいない。


「お母様おはようございます。入学式に行ってきますわ!」


「あら、ちゃんとした人間みたい。行ってらっしゃい」


…ん?なにか引っかかるような言葉が聞こえた気がするがまあよくある聞き間違いってやつかな。ちゃんとしたインゲンって言ってたのよねきっと。…それはそれでどうなのだろう。


無駄に気合いを入れすぎた右腕で玄関のドアを開く。油を差し忘れてしまい錆びてしまったかのように関節がぎこちない。こんな所で緊張してどうするのだ。

放置しすぎるとホコリが積もってしまうのと同じように緊張も高ぶってしまう。それをかき消すように右足を踏み込んだ。傍から見ると小さな一歩だが私にとっては人生を左右するほど重要な歩み。重い、思いが詰まっている。

ここから始まる学生生活が私こと、山内 蛍のリスタート地点ってわけよ!


***


学校に着くと多くの生徒が磁石のように靴箱の前へ集まっていた。見るとクラス表が大きく張り出されている。順番に見て回ったが、うん。知り合いはいないようだ。そのまま自分のクラスを確認して指定された教室へ足を運ぶ。その途中ですれ違う生徒と何度も目が合っては二度見されたり、わざわざ振り返ってきて「ねぇ、あの子可愛くない?」なんて声が耳に入ってくる。ふへへ、そうかな?私の垂れ下がった自信も一気に復活。


「この瞬間が一番緊張するよねー…」


もう既に多くの生徒がこの小さな箱の中にぎっしりと固まっているのだろう。それは私の知らない世界だ。自分で望んで己で築き上げてきたこの道。

踏み外すわけにはいかないでしょ!


勢いよく教室のドアを開く。まず自分なりに分析するのはこのクラスのスクールカースト。席を確認し重い腰を落ち着ける。周りを遠慮がちに見回すとありがたいことに分かりやすかった。何が分かりやすいってこの教室の勢力分布のこと。


あそこは陽キャの集団でしょ…こっちはふーん、私と同じ匂いがしますな。あっ、絶対この人たち部活仲間だ。しかもスポーツ系の。

育った環境、周りの空気感、己に染み付いて切り離せないオーラ。そういうのを感じ取って自分なりにこのクラスの勢力図を頭に描き出す。本当にこういった能力だけは人一倍優秀になってしまった。使う場面なんてほぼないですけども。


なるべくイケてる人達へ簡単に目星をつけては「まあ、声かけるのは入学式の後でも遅くないっしょ…」なんてこの期に及んで弱腰になる。結局は私の根底で根を張っているのは陰キャの髭根。根っこが変わろうとしたって同じ水を吸い続けていることには変わりないのだ。だからせめて外見の花だけでもよく見せようと努力する。ど根性魂じゃい。

とりあえずは様子見といこう。昨日さんざん悩んで導き出した脳内コミュ力もすぐに実践するのは無理!


「あれ?見ない顔じゃん」


「もしかして編入生?」


そんなふうに少しだけ現実逃避をしていると後ろから二つ程の明るい声が耳に入ってくる。いきなりの展開に動揺を懐に隠しきれずビクッと肩を震わせた。いかんいかん。今の私は超絶キュートな女の子…クラスの中心に立つことだってありえるんだから!


「初めまして…!山内 蛍って言います。編入してきて友達もいなくて…そちらは?」


「私は南條 碧(なんじょう みどり)。よろしくね」


「はいはーい!自己紹介ね、西森 陽(にしもり ひなた)って言います。良かったら少しお話しようよ」


南條さん。薄くアッシュに染めたストレートロングを耳にかけており、目がキリッとしていてかっこいいなと思ったのが第一印象。

西森さんは濃いめのこげ茶色をした髪をボブにまとめており、まるでマスコットのようにふわふわしているイメージが脳内で思い浮かぶ。

高校デビュー、初の友達になるかもしれない二人。ここは慎重に空気を読まねば…


「てか山内さんめっちゃ可愛いね。教室に入ってきた瞬間から周りの空気感変わった!みたいな感じ。あ、蛍ちゃんって呼んでいい?むしろあだ名も付けたい」


「陽、少し落ち着いて?山内さんが怖がる。ただでさえ陽はうるさいんだから…」


「ええ!?酷い!!」


まるで飼い犬を叱咤するように窘める南條さん。今のやり取りだけで馴染みやすい人達なのだと理解するのには十分だった。


「ううん。あだ名とかめっちゃ好き!知り合いもいないから二人が友達になってくれると嬉しい…かも?」


本で読んだ。可愛い女の子の最強の武器。上目遣い発動!って必殺技みたいに言ってるけどこれ失敗したら白目剥くことになるから注意注意。


「も〜そんな子犬みたいな目で見られちゃ断る理由もないよね!話した時点でお友達でしょ」


「うん。この子は置いといて私も仲良くなりたいと思ったから」


「だから酷くない!?」


西森さんはいじられキャラ…って言うのかな?マスコットだ…


「ほたるん、もし今日暇だったらさ遊びに行かない?」


ほたるんとは私のあだ名か。うふふ、人生初のあだ名にテンション上がっちゃう。

もちろん返事はいぇすだ。しかしその言葉を口に出す前に第三者の発声で会話は途切れてしまった。


「おーい、席に付けー。出席確認と入学式前に委員長決めを行う。決まった委員長は入学式で先導するように」


少しだるそうな声で担任らしき人物が教卓の前に立っている。出席簿を肩たたきの代わりにしてトントンと入ってくる姿も先生には似つかわしくないと感じた。


「あちゃ、栞ちゃん来ちゃったか。それじゃほたるんまた後で!」


そう言って自分の席に戻る南條さんと西森さん。ああ、私の初めてのレクリエイションが…

でも最後に残った『また後で』という言葉に耳が癒される。ずっと聞いていたいセリフだった。


「あれ、一人足りん。確認しとくか…んーまあなんだ、編入してきて色々不安な奴もいると思うが…なんとかなるグッジョブ」


最初から薄々気づいていたけどこの先生随分と適当だな!?少し嫌な予感がするのは私の思い違いだろうか。そうだと言ってください。


「それで委員長決めなんだが…めんどくさいし一年務めてもらう。立候補はいないか?」


委員長か。中学生の頃はその場の空気の流れで自然と私が無理矢理させられていたから苦い思い出しかない。しかも委員長なのに誰も私の事覚えてないしね。絶対にやらないなーなんて明後日の方を向いて頭を空っぽにする。


「いないかぁ…よし、今日は4月の10日だから足してっと…うん、山内。お前が委員長やれ」


「ひぇあ!?」


驚きすぎて変な声が出た。だいたいどんな計算をしたら私になるんだよ。足しただけじゃ山内まで数字届かないでしょ…


「ん、嫌か?」


期待されるような目で見られる。何よりも生徒たちからの視線が痛かった。メンタル弱小の私にとってここで拒否する選択なんて最初から用意されていないのでは?


「あ…やります」


「さんきゅ。ほれ拍手」


まばらに手を叩く音が聞こえたが全然嬉しくない。でもまあポジティブに考えよう。委員長になれば目立つ(※中学の頃を除いて)。目立てば目立つほど友達が増える。よし、我ながらよく立て直した。

よく考えずに役割を請け負ったことにひたすら後悔することになるなんて、この時の私は気づくことも出来なかったけど。


***


「あ、山内」


体育館に向かうためにクラスメイトを廊下に並ばせようとしていた時だった。委員長お疲れ様、の声とともに担任である栞先生に呼び止められる。ええ、もう既に私のライフはゼロですクタクタです。


「すまんが頼まれ事をしてくれんか?」


罪悪感はあるのだろう、私に向かう先生は少しだけバツの悪そうな顔をしていた。要件を問うと、どうやら学校には来ているはずの生徒が一人どこかでサボっているらしい。そう言えば出席確認の時に前の方の席がひとつ空いていたような。入学式早々サボる生徒なんてこの学校にいるんだなぁとどこか他人事に考えていた。他人事に、考えていられたら幸せだったのだが。その生徒を探して欲しいなんてそうお願いされてしまっては話が違う。この先生は面倒事を私に押し付けたいだけなのでは?


「私も色々と準備で忙しいんだよ…入学式が終わったあとの昼休みにでもいいからちょっくら探索に行ってきてくれ」


そんな「ティッシュ取って」みたいな軽い感じでお願いされても。私の貴重な友達作りの時間はどこに用意されてるんですか!私の人生設計ぐちゃぐちゃですよ!まあこんなことで崩壊する人生設計なんて今すぐ破り捨てた方が正解なんだけどね!


そしてもうお分かりであろうが私は人の頼みを断れる性格などしていない。愛想笑いを振りまいてOKするしかないのであった。


***


「ええーっと…川中さーん?川中泉さんー?」


昼休み。先生に言われるがまま某生徒を探しによく知らない校舎を歩き回っている。南條さん達が「私達も一緒に探そうか?」なんて優しい事を言い出してくれたのだがあまり付き合わせても悪いだろうと丁重に断らせていただいた。こういう所が私の人付き合いに失敗する原因なのかもしれないけどね。

入学式をサボるならヤンキーだ!なんて安易な考えで屋上に登ったがそれらしい人物は見当たらない。というかヤンキーだったら嫌すぎるんですが。想像していたよりも思うようにはいかないもんだなぁ…なんて頭を抱える。少し頭痛がする気もした。


「もう帰ろっかな」


半ば諦めモードに突入していた私の気力は無いに等しい。だからと言ってはなんだが視界にちらりと映りこんだ旧校舎の影も知らないフリをしていたかった。

いやいやさすがに居ないでしょ、と頭を振る。でもここで確認しておかないと後でずっと気になってモヤモヤが残るのは嫌すぎるし…はぁ。



この旧校舎はもう完全に使われることは無いみたいで所々、塗装が禿げていたり窓ガラスにホコリが浮いていたりしている。普通の人間ならこんな汚い場所には寄り付きたくもないだろう。ただひたすら帰りたい気持ちと共に旧校舎の周りを探索する。幸い校舎の中は鍵が閉まっており、探す範囲は旧校舎周りだけ。サクッと終わらせて教室に戻ろうとした時だった。


スーッ


なにか空気の抜けるような音が小さく反響している。こんな人気のない場所でいきなり聞こえてくるものだから幽霊の類かと思いその場で飛び跳ねた。春だというのにうっすらと冷や汗すら浮かび上がるほど。私、ホラーとか苦手なタイプなんだって…

しかし怖いもの見たさが勝ってしまい、ついつい壁の裏をゆっくりと覗き込む。


そこに居たのは幽霊でも何でもなく制服を着たただの女の子。目を閉じて、規則正しく寝息をたてる彼女の寝顔を見てホッとしたのも束の間。


「柊さん…!?」


驚きのあまり口から飛び出した言葉を必死に飲み込む。ここで起こしてはならない。なぜなら彼女は私の"知り合い"だから。

胸の内からじわじわと焦燥感が広がってくるのを感じる。なんでこんな学校に柊さんみたいな生徒がいるんだ。


「大丈夫落ち着いて蛍。今の変わりきった私の姿を見て気づく人なんて誰もいないんだから…!いいから早く川中さんを探さないと…」


ここから逃げ出す理由を無理矢理作っておいて回れ右。私の素性がバレる恐れはないが、なるべくこの人には関わらないようにしよう…


「ん…誰?」


あと3秒あればこの場から風のように去っていた私に向かって柊さんは声をかけてきた。

少しハスキーな声が周りの空気を振動させる。そのぼやけた声を無視して走ればきっと何事もなく終われたかもしれないのに。いや逆に不審に思い追われたかも?


「あ、えっと…ある生徒を探していて。川中 泉さんって、ん?泉って…」


「それ私。何、なんか用?」


そうだ、思い出した。確か柊さんの下の名前って泉だったよね…ああー!もうこんな事ってあるの!?探してた人物が会いたくないクラスメイトでしたって!

しかもなんか用?じゃないよ!あなたがいらっしゃらないから私がここまで探しに来てるんでしょうが!


「いやそろそろ教室に戻らない?」


「もうそんな時間か。だる…委員長もどう?お昼寝でも」


「ダメだから!ほら、先生も困ってたし…」


…ん?今この子なんて言った?『委員長』って。

私、柊さんに委員長になったよなんて言ったっけ?


「ちょ、ちょっと待って!委員長って」


「ああ、中学の時ずっとそう呼んでたからつい。高校ではやらないの?」


この時私は全てを察した。もう既にバレているって。スーパーで中学時代のクラスメイトとすれ違っても気付かれたことないのに…

昔は誰も私の事なんて見ていなかったから。


「な、なんのことかな?」


「山内さんでしょ。外見はすっごい変わってるけど、うん。何か変?」


「ストーップ!」


つい柊さんの前で指をバツの形に作る。これは緊急事態よ蛍…もし昔のクラスメイトに私の正体がバレた時のAプランは


考えてねぇ…


***


「どうか他の人には黙っていてください」


直後、ハイスピードで土下座の形を取った私をきっと柊さんはドン引きした目で見ているのだろう。

顔を上げてないから分からないがそんな息遣いが聞こえてくるようだった。


「え、ちょ何。やめてよ」


「私は高校でやり直したいんです!」


私はそう言ってから、尚更深深と頭を下げる。こんなやり方しか思い浮かばなかった。ここはどうにかして柊さんには黙っていてもらおう。クラスに戻った瞬間「こいつ実は中学の頃〜」なんてペラペラ語り出されては身が持たない。


「ふーん…そういうこと」


何かを察したかのように声を上げる柊さんに少しビビる。私というちっちゃな存在を値踏みされているかのような視線を感じ、背中がむず痒い。


「山内さんは中学時代のことを話して欲しくない。イメチェンがバレたくない感じかな?だから誰もいなそうな高校に入学したけどそこで私と出くわしてしまった。それで焦ってるんだ?」


その通りでございます。察しがいいですね。


「うん、別にいいよ」


「ほんと!?」


柊さん見かけによらずいい人…!髪は明るくミルクティーに染め上げてピアスまでぶち開けちゃってるような人なのに!人は外見で判断してはいけないって本当だったんだ…下げていた顔を勢いよく上げる。そこに居たのは天使のように微笑んだ柊さん。…ではなく。


「その代わりと言っちゃなんだけどさ」


中学の頃から変わらない気だるそうな表情に加えてニヤリと口角を上げた柊さん。え、なに?私これから処刑でもされたりする?


「私と、ゲームしようよ」

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