第199話 慢心
1
眞昼ちゃんが箱根に来ている……?
少しだけ冷や汗をかいたが、よくよく考えてみれば何も問題はない。未夜ちゃんの話では、眞昼ちゃんが箱根に来ているのはバレー部の合宿のためだという。
いくら眞昼ちゃんが部長といえども、合宿の行き先を彼女の一存で決めることなどできるわけがない。
箱根、という場所が被ったのはただの偶然だ。
当然、眞昼ちゃんはバレー部の部員仲間と同じ宿に泊まるだろうし、行動も部員仲間と一緒にするはず。仮に自由行動の時間があって、この箱根の地で私たちと接触できたとして、眞昼ちゃんに何ができる?
未夜ちゃんや私の目があるところで勇にぃに何かをできるとは思えない。
できることといえば、自分も箱根の地にいる、ということを私に知らせて、私が大胆な行動をとれないように牽制することだが、それは今のところ考えられない。
私が眞昼ちゃんが箱根にいることを知ったのは、未夜ちゃんが偶然そのことを話題に出したからだ。ただ、これは逆に言うと、眞昼ちゃんは私に箱根への合宿について何も言わなかった――つまり、隠したがっていたということにはならないだろうか。
私の目を盗んで、何か策を講じようとしている可能性もある。
まぁ、私に知られないように箱根に来た眞昼ちゃんが何かをしようとしても、それは無駄なのだけれど。
私が勇にぃを落とすのは夜。
もし眞昼ちゃんが私たちと合流し、一緒に箱根観光に加わったとしても、しっぽりたっぷり楽しむ夜の時間になったら、その時にはもう眞昼ちゃんはバレー部の宿に戻らなくてはならないのだ。
部活動の一環として箱根に来ている以上、一人だけ別の宿に泊まるなんてことができるはずもない。
寝泊まりする宿が異なるのだから、湘南旅行の時のようにここぞというタイミングで妨害をすることなどできないのだ。
そう、何も問題はない。
というか、考えすぎだろう。
いくら眞昼ちゃんでも、今回の旅行で打てる手などあるはずがない。
私が常に勇にぃのそばにいるのだから、眞昼ちゃんが何か策を弄しようとも意味をなさない。
残念、眞昼ちゃん。
私が警戒すべきは未夜ちゃんの天然だけだ。
未夜ちゃんの天然はこちらに予測の余地がなく、それでいてかなりきわどいことを突然やらかすのだ。
今しがた眞昼ちゃんが箱根に来ていることをポロっと言ってしまったのも、見方を変えれば彼女の天然によるものだと考えられないだろうか。
いや、そこまで穿った見方をするのは警戒のし過ぎか……?
とにかく、今回の旅行で注意すべきは未夜ちゃんだ。夜になって勇にぃとしっぽり楽しもうというところで未夜ちゃんに天然を発動されては困る。
だが、難儀なことにこの天然は対策のしようがない。なので、発想を変えて根本を抑え込むことにした。
未夜ちゃんを抑え込む下準備はもうすでに始まっている。
実に単純だ。
未夜ちゃんはお転婆なところがあるが、体力や運動神経がいいわけではない。
つまり、箱根の観光を徒歩でたっぷり楽しんでもらい、彼女の体力を減らしていけばいいのだ。
観光を終えて〈あかつき亭〉に帰り着く頃には、未夜ちゃんはくたくたになっているだろう。そこへ美味しい食事に露天風呂とくれば、彼女は早いうちにうとうとし始めるはず。
そして夜も更けて、私と勇にぃが一つになる頃には未夜ちゃんはすやすや夢の中……
天然など発動するよしもない。
父が三人分の宿泊券を用意したと知った時はどうなることかと思ったが、もう何も問題はない。
念のため、眞昼ちゃんに牽制だけしておこうかな。
私はラインを開き、メッセージを送った。
『眞昼ちゃんも箱根で合宿なんだね。頑張ってね』
これで眞昼ちゃんが箱根に来ていることを私が知った、ということが眞昼ちゃんにも伝わった。
勝つのは私。
「ふふふ」
「朝華? どうしたの?」
「なんでもないよ。それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
そして私たちは箱根観光の続きを楽しんだ。
その間、私の目の届く範囲内で眞昼ちゃんが私たちの前に現れることはなく、何事も起こらないまま私たちは無事に〈あかつき亭〉へ帰り着いた。
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