幼馴染を救いました
ちょこっと
幼馴染を助けました
太陽は燦々と地面を焼き日本特有の湿度の高い外気が蒸し暑い夏を作っている。
そんな中で俺こと
自分で言うのもなんだがこんな日に母親の頼みを聞いて外に出る男子高校生は少ないはずだ。
「はぁ暑い、暑すぎる」
歩いているだけで汗がポタポタと地面に滴り落ちた、と思えばその汗の痕跡はすぐさま跡形もなく消えて無くなった。
ただただ、ぼーーっと歩いている途中で横断歩道を渡ろうとしている幼馴染こと
横断歩道の信号機の色は赤だ。
暑さにやられてぼーーっとしているのかは分からないが赤である横断歩道をトボトボと渡っている。
「何やってんだあいつ」
思わずポロっと口から出た言葉だった。
突然胸騒ぎがして後ろを振り返った俺は携帯を弄りながら運転している一台の車を視界に捉えた。
「あぁ、最悪だ」
頭で考えるより先に体が動いていた。
初めての感覚に驚いたがそんなものすぐに捨て去った。
「紫乃!!」
ドンっと紫乃の背中を強く押した。
「きゃっ!」
後ろを振り返った紫乃と久々に目が合った。
中学に上がる頃から紫乃に避けられるようになった俺は高校生になってもそれが続いていたため、目を合わせる事は一切なかった。
「やっぱり可愛いな、紫乃」
走馬灯が見えたり時間がゆっくり進むように見えると言うが俺が見たのは紫乃の驚いている顔だけだった。
ゴンッ!!!
『かーーしーーーで!!』
紫乃の声が聞こえる。
何を言っているかは分からない。
ただ、久々に聞いた紫乃の声はとても心地よかった。
☆☆☆
私は悩んでいた。
中学生になる頃から友人達に「天宮くんと付き合ってるの?」と聞かれるようになり恥ずかしさから奏多を避けるようになってしまった。
あの時、自分の気持ちに素直になれていたならこんなに悩むことがなかっただろう。
もう、五年近くまともに会話をしていない。
奏多が話しかけてくれても冷酷な態度であしらうだけ。
一ヶ月ほど経つ頃にはすれ違っても何も言ってくれなくなった。
私はどうしても素直になれないこの性格が嫌いだ。
もっと奏多と話したい。
もっと奏多と一緒にいたい。
もっと奏多と笑い合いたい。
私は私が大嫌いだ。
そんな事を外出中に考えていたのが間違いだったのだろうか。
私は切らしてしまったシャープペンシルの芯を買いに行く途中の横断歩道が赤になっていることに気付かずに渡ってしまったのだ。
「紫乃!!」
昔、聴き慣れた声が後ろから突然聞こえてきたのと同時に、ドンっと背中が強く押された。
「きゃっ!」
後ろを振り返った私は久々に奏多と目が合った。
「やっぱり可愛いな、紫乃」
そんな言葉が聞こえたような気がした。
気のせいかもしれない、でも嬉しかった。
私は今の状況を理解できていなかった。
ゴンッ!!!
何故奏多に背中を押されたのか考えている時には奏多は車に撥ねられていた。
五メートル近く飛んだだろうか。
私は、無我夢中で奏多に駆け寄った。
「かなた死なないで!!」
私は馬鹿だった。
奏多の事が好きで好きで仕方が無かったのに私は奏多の事を避け続け、挙げ句の果てには奏多を失くしてしまった。
取り返しのつかないことをしてしまった。
私は大声で叫んでいた。
「なんでもするから! 奏多を返して!」と。
こんなに叫んだのは生まれて初めてだった。
好きな人のためならこんな事も出来たのか。
もっと早く知れていれば良かったのに。
後悔してももう遅いことは分かっている。
私の世界から色が消えていく。
「ごめんね、奏多……」
だから、私は私が大嫌いなんだ。
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