第28話 ラブコメ格差社会
恭平がラキスケコンボをキメている頃。
港の集会所は、剣呑な雰囲気に包まれていた。
「獅子王に逃げられたって、テメェらフザケてんじゃねぇぞ!」
剣崎がテーブルを蹴り飛ばすと、男子たちは肩を震わせて委縮した。
「しかも狩奈並みに爆乳だった鬼島にまで逃げられたとか殺されてぇのか! おまけに女にボコられてお情けで治してもらって、テメェらどんだけオレの顔に泥を塗れば気が済むんだよ!」
怒りの現われか、威嚇のためか、剣崎は両手を岩で覆っていき、鈍く硬質な音を鳴らしていく。
「テメェらがヘマしていなけりゃ今頃オレは鬼島の全てを俺の全身で隅々までねぶりつくして童貞捨てて、キンタマが痛くなるまでナカ出ししまくってアヘ顔ダブルピースさせていたんだぞ!」
誰もが、『健司って童貞なんだ』と心の中で笑った。
「獅子王だって、あと数日もあれば心が屈してオレのナカ出しペットになっていたんだ!」
誰もが、『いや、あいつは一年経っても屈しないだろ』と心の中で馬鹿にした。
そんなことにも気が付かず、剣崎はヒステリックに叫び、地団太を踏みながら、猿のようにがなり倒した。
「あぁあああああ! ホント使えねぇ! マジで使えねぇ! なんでこんな無能共が俺の舎弟なんだよフザケんな! テメェら殺されたくなかったら今すぐ女連れてこい!」
「そういう自分はどうなんだよ……」
誰かの一言で、場に静寂が広がった。
「あん?」
鼻に無数のしわを刻みながら、剣崎は男子たちにメンチを切った。
すると、一人の男子が、苛立ちを募らせるように、握り拳を震わせた。
「そういう自分はどうだって聞いているんだよ!? 鬼島を乗せた海上自衛隊の船が来た後、自衛官を脅して補給物資を奪うとか言って、主要メンバー連れて船を追いかけたけど、なんか成果あったのかよ!?」
「ぐっ!」
男子の言う通りだった。
恭平たちが狩奈を助けに来た時、剣崎たちがいなかったのは、海上自衛隊の艦船を追いかけていたからだ。
しかし……。
「うっせぇ! じゃあテメェら、機関砲やバズーカ砲相手に戦ったことあんのかよ!?」
「そういう話してねぇだろ!? 俺が言ってんのは、自分だってなんの成果も出せてないのに俺らだけ責めるのおかしくねって話だよ!」
尻馬に乗って、他の男子たちも口々に声を荒らげた。
「つうか三屋だって女子たちに負けて逃げかえってきたし、お前ら本当に強いのかよ?」
「少なくともこの島に来た女子たちってバカ強ぇよな?」
「自衛隊にも負けたし、そもそも剣崎の言う、自分がこの島最強とか島の王になるとかいつか日本を征服して超能力者中心の国家を作るとか無理じゃね?」
「日本征服とかガキかよ」
「テメェら! オレを疑うのかァ!?」
剣崎は、顔を真っ赤にして、口角に泡を飛ばしながら叫んだ。
左右に控える側近面の男子たちも睨みつける。
でも、勢いに乗った男子たちにはどこ吹く風だった。
「そもそも剣崎が強いってのもネットの噂だろ? 実際に戦ったところみたことねぇし」
「動画なんて簡単に編集できるしヤラセかもだし……」
「なぁんかなぁ。今からでも女子たちに土下座して剣崎に脅されてたって正直に言えば向こうに行けるんじゃね?」
「そうしようぜ」
40人以上いる男子たちは、しらけた表情でダラけると、踵を返して集会場から出て行こうとした。
その光景に、剣崎は額に何本も立てていた青筋から血を流し、興奮しすぎて鼻からも血を出した。
――向こうに行く? オレを捨てて、朝倉のいる、あの陰キャのバケツ野郎の派閥に入るってのか?
剣崎の脳裏に、中高時代の記憶がよみがえった。
自分の便利なウォーターサーバーとして利用してきた恭平が、自分よりも上に行くなどあり得ない。
自分は、未来の日本王、最強の超能力者として、この世界に君臨して、一生を幸せに、栄華を極める存在なんだ。
剣崎は、理不尽な怒りと殺意で、頭が壊れそうだった。
――朝倉、それだけじゃない。
「テメェらぁ、ブッコロス!」
剣崎は、全身に岩盤をまとい、岩のモンスター、ガーゴイルへと変身していく。
「うっせ! もうてめぇなんか怖くないんだよ!」
「数はこっちのほうが上なんだ! みんな、剣崎なんてやっちまえ!」
「お前を殺せば女子たちも俺らを受け入れてくれるだろうぜ!」
みんな、それぞれの超能力を発動させると、集会所が壊れることもいとわず、一斉に剣崎とその側近たちに襲い掛かった。
だが剣崎は、もはや人としてのリミッターすら振り切っていた。
――もういい! オレの思い通りにならない奴は!
「みんな死ねぇええええええええええええええええええええええええ!」
超能力者剣崎健司は、癇癪を起こして、本能のまま、衝動に任せて暴れた。
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