第85話「それは高等部だよ」

 昼休み、トラフォード家のジョットに誘われて一緒に昼飯を食べることになった。


 他にも二人の男子が一緒で、俺はもちろんジーナを同行させる。


 本当は彼女にも独自の交友関係を作ってもらって、新しい情報源を得たいところが焦らないほうがいいだろう。


 帝国の皇子という肩書だけで、周囲の注目を集めていることが予想できるからだ。


「どうかな、王国での暮らしは?」


「王国はいいところだよな。街並みには歴史と情緒を感じるし、食べ物も美味しい」


 トラフォード家に聞かれたのでリップサービスのつもりで返事する。


「へえ、そう思ってくれたなら、僕としてもうれしいね」


 言葉ほどジョットはうれしそうじゃなかった。

 まあ相手は伯爵家の息子だから、社交辞令は聞きなれているんだろう。


 学園は平民もいるということで給仕はいないんだが、トラフォード家は自前の従者にやらせるようだ。


 会話になかなか入ってこない残り二人も同じことをさせ、背後にひかえさせている。


 俺もジーナにやってもらっているので文句はない。


 従者が彼女一人だけと知った時、一瞬だけジョットは変な顔をしたのだが、口には出さなかった。


 まだ知り合ったばかりで踏み込んだ会話ができる仲じゃないからな。


「見たところラスターは魔法使いかな?」


「そうだよ。そう言う君のクラスは神官のようだね」

 

 ジョットの問いに俺は切り返す。


 魔法使いや戦士、ローグといった職業(クラス)と、パン屋鍛冶師といった仕事(ジョブ)は、原作やこの世界では分けて扱われる。


 原作知識を持っていなかったら絶対に混乱していたなと、正直思っていた。


「ああ。奥が深いよ。魔法使いだってそうだろうけど」


 とジョットはクラスに対する誇りをにじませながら答える。


「たしかにね。どのクラスだって奥は深く、道のりはけわしそうだ」


 そう答えておくと、ジョットは共感の色を青い瞳に浮かべた。


 何となくだが学者や研究者っぽいなと感じて、それっぽいことを言ってみただけだったんだが、功を奏したらしい。


「そう言えば質問なんだが、カリキュラムでダンジョン探索ってないのかな?」


 と問いかけてみる。

 一応紙で資料はもらったんだが、特に見当たらなかったんだよな。


 前世の日本で言うところの体育に該当しそうな、基礎鍛錬ならあったが。


 単に中等部での王国的言い回しを俺が理解できなかっただけなのか、たしかめておきたかったのだ。


「……それは高等部だよ。中等部にそんなものはない。勘違いがあるようだね」


 ジョットは微笑しながら言う。


 帝国人が王国人の学校の授業を勘違いしていると考えるのは、彼の立場を思えば自然なことだ。


 そうだったのか、中等部にはないのか。

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