第13話 君と初めて会った日
「でも、
「へー、男子ってばそんなのが好きなんだ」
それが、
「ん?君って確か隣のクラスの……碧海さん、だっけ?」
この時から既に一部の生徒で紫月は有名だった為、俺は面識なくても彼女の名前を知っていた。
とっても可愛くて、男女分け隔てなく接してくる女の子だとか。
「ピンポーン♪せいかーい!」
まさに噂通りの子で、むしろ活発さもあって好感をもてた。
「それで君は……。えーっと」
どうやら元から俺に用があった訳では俺が読んでた本に興味を惹かれて声をかけてきたようだった。
まぁ、隣のクラスで普段接することは無いから仕方ない。
「あぁ、名前か。桃乃だよ。
俺は軽く自己紹介をすることにした。
自己紹介と言うにはあまりにも簡素だったけれど。
「ありがとう。そう、桃乃くんね。……うん、覚えた!」
紫月は人の名前を覚えるのは得意だったようで、ブツブツとした後、満足気に俺の方を見た。
「お、おう……そうか。それは良かった、ね?」
感情がすぐさま顔に出る紫月の様子に俺はたじろいだ。
今までそんなに人と接してこなかったというのもあるが、ここまで感情の振れ幅がはっきりしている子は初めてでその時の俺は驚いていた。
「それで、桃乃くんに質問なんだけどさ、男子ってそういうのが好きなの?」
そんな動揺している俺を気にする様子もなく、視線は俺が右手に持っていた雑誌の方へと向いていた。
「えっと、そういうのって……このコスプレ専門誌のこと言ってる?」
今更ながら、俺はアニメオタクである。コスプレ雑誌もその一環。
まぁ、コスプレをするのではなく眺めるのが趣味な訳だが。
と、そんな俺のどうでもいい情報を整理していると
「そうそれ。男子はそういうのが好きなのかなぁって」
より一層興味を示した。
「男子が好きというより、これはただの俺の趣味だよ」
誤解が生まれないよう、俺は訂正をしたのだけれど
「そうなんだ。ふーん……」
それを聞いた彼女は何やら途端に難しい表情をする。
「まだ何かあるの?」
彼女の様子が気になり、俺はついつい自分から質問をしてしまっていた。
すると
「ねぇ、その“ コスプレ”って言うの、やってみたいんだけどどうしたらいい?」
紫月は突然そんなことを言い出した。
「…………えっ?」
俺は思わず声が裏返ってしまった。
そしてまたしても俺の事を気にする様子もなく
「少し興味出ちゃった。それに少しは男子の好みが分かりそうな気がするし」
勝手に話を進める紫月。
「まぁ、碧海さんがそう言うなら俺は止めないけどさ」
この時の俺は、彼女の役に立つはずない、どうせすぐに飽きるだろうと思っていたからか、あっさりと軽めの返事をしたのだった。
このように、無意識に自分を
「それじゃあ、今日早速桃乃くんの家に行ってもいい?」
こういった、普通の男子なら飛び跳ねて喜びそうな女子の来訪イベントにも
「いきなりだなぁ。俺は別にいいけど」
淡白に返事をしていたのだ。
「てことは、いいのね?」
俺があまりにもあっさりと返事をしたのが少し不安になったのか、紫月は確認をしてきた。
そのおかげか、俺はふとあることを思い出すことが出来た。
「ただ、蜜がいいって言うかどうか……」
「蜜?」
「あぁ、妹だよ。今中3の」
「妹さんいたんだね」
一つ下の妹、桃乃 蜜のことを。
決して普段から忘れている訳では無いが、誰かを家に連れていくなんてことは滅多に無く、目の前の紫月と話すことで手一杯だったのだ。
「まぁね、とりあえずは蜜次第ってことで。気が変わらなかったら放課後また声掛けて」
と、こうは言ったものの、蜜は別に俺が友達を呼ぶことに特に抵抗感は無い。
むしろ、あまりにも人を呼ばないからかボッチになってないのか、と疑うレベルで俺のことを心配してくれている。
『 友達を作って家に呼べ!誰でもいいから!』
とチクチク言うくらいには。
蜜次第と言ったのは、そう言えば少しは紫月が引いてくれるだろうと、当時の俺が考えたからである。
「わかった!それじゃあまた後でね!」
むしろもう来なくていいよ、と心の中でそう言いながらその時は、笑顔で彼女を見送った。
まさか数時間後にまた俺の席に来るとは思わなかったけれど。
「桃乃くんおまたせ!」
「……気が変わらなかったのね」
明るい口調でニコニコ笑顔な紫月に俺はげっそりとなる。
なんで来ちゃったのかなぁ、と。
「たった数時間で変わるわけないじゃない!」
「確かに」
むしろ変わってて欲しかったなぁ、と心の中で思っていると
「それで少し考えたんだけどね」
「うん?」
やや困りげな顔をして紫月が悩みだしたのだった。
「コスプレやっぱ止めるって言うのかな?まぁその方が正直助かるけど……」
紫月に聞こえないように俺は独り言を始めた。
「今から家に行くとなると妹さんもいるんだよね?」
俺の独り言には気づかず紫月は話を続けた。
「蜜のこと聞くって事は、やっぱ家に行くのやめる、ってパターンかな……?」
ブツブツとこんな風に考え事をしていると、当然俺からの反応の無い為、紫月は不審に思うわけで
「桃乃くん……?」
不安そうな声で俺の名前を呼ぶのだった。
「あ、あぁごめん。聞いてる聞いてる」
考え事をしてる最中に名前を呼ばれた為、俺は思わずビクッと体が一瞬だけ緊張で硬直したがすぐさまそれは解けた。
俺が話を聞いてることの確認が取れると、彼女は再び話を始めた。
「それでさ、下の名前で呼ばないと不便じゃない?ほら、妹さんも同じ苗字なんだし」
「あっ、そっちね」
「だから、桜夜くんって呼ぶことにするね。私の事も紫月って呼んでくれていいから」
「お、おう」
あっさりと下の名前で呼び合うよう提案する紫月のコミュニケーション能力の高さに俺はただただ、驚くしか無かった。
そして俺と紫月はその日の授業の話をしながら俺の家へと向かった。
「ん?私は全然構わないけど?と言うか女の子の友達なんていたんだね。あ、遠慮せず上がってください」
家に着くと、既に学校から帰宅していた蜜は俺と紫月を見るとあっさりと紫月を迎え入れるのだった。
「妹さんの許可取れたしこれで万事OKだね、桜夜くん!」
俺の方を見てウインクする紫月。
その様子を見ていた蜜は
「……桜夜くん?ねぇ、どゆことお兄ちゃん?」
何となく黒いオーラを放っていた。
「すまん、後で説明するから。……とりあえず碧海さんは俺の部屋に来て」
嫌な予感がした俺は、紫月を連れて2階にある自分の部屋へと連れていくことにした。
「下の名前の紫月でいいって言ったのに……。あ、おじゃましまーす」
そう言って、靴を整えてから俺の後を追ってくるのだった。
「……下の名前で呼んでいい?これは後でお兄ちゃんを問い詰めないと……」
階段下から聞こえてくる蜜の声が怖く、その時だけは下を見るのが怖かったのを覚えている。
もう間もなくで、紫月が俺の部屋へ入ろうとするその時だった。
「……夜?桜夜?大丈夫?」
「ん?あぁ、紫月か。どうした?」
紫月に肩をゆらされ、現在へと意識が引き戻されたのだった。
「どうしたじゃないわよ、ボーッとして。それよりお昼だよ?ご飯食べよ!」
さっきまで見ていた紫月と今の紫月との接し方の違いが、より鮮明に感じられた。
「それより、何か考え事でもしてたの?やっぱさっきの墨谷先輩のこと?」
「うん?あぁ……。ちょっとな」
“ 紫月と初めて会った日のことを思い出してた”、なんてこと言えるはずもなかった。
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