第12話 見通す魔女
「それで、
2限と3限の間にある20分間の休み時間、通称“ 中休み”がもうまもなく終わるという時に、俺は人気がまばらな廊下にて、学園の危険人物・墨谷
「何の用って言われても、さっき言ったじゃない。“詳しく聞かせて ”って」
そう言って、クスリと
やっぱりこの人は苦手だ。どうも、なにか見透かされてる気がする。
「……一応聞きますけど、なんの事か分かってますか?」
「文芸部の出し物のことでしょー?ちゃーんと分かってるわよ」
なんのことか分かってなかった場合、問答無用でお引き取り願おうと思ったがそういう訳にはいかなかったようだ。
ならばと
「何か表現できるんですか……?絵とかでもなんでもいいんですけど」
あえて具体的な質問をしてみた。
出来るのなら出来るで、諦めざるを得ないが、これまたできないというのであれば断れるチャンスが生まれる、そう考えた。
そして墨谷先輩からの答えは……。
「できるも何も、私こう見えて国語の成績いいんだよ?って桃乃くんは学年違うからしらないか」
自信満々な様子だった。
かかった……っ!
俺は思わず心の中で小さくガッツポーズをした。
「そうは言われても、やっぱそれはあくまで読み取り能力で、表現とは違いますし。いきなり表現未経験者が参加しても教える余裕はあんまりありませんし、仕方ないですね。というわけで、今回は縁がなかったということで。お疲れ様でしたー」
俺は意気揚々に、どこかの会社の面接官よろしくテンプレの如くスラスラと断り文句を言い連ねた。
流石にこれで諦めてくれるだろう。
そう思い、自分の教室に戻ろうと彼女から背を向けると
「ホラー物、書いたことあるって言っても?」
突然墨谷先輩がそんなことを言い出した。
「……マジですか?」
俺は驚きのあまり思わず、先輩にタメ語で話してしまった。
「マジよ。えぇっと、ちょっと待ってね」
そう言って、墨谷先輩は持ち歩いていた茶色のカバンを床に下ろすと、そのまま中身を探り始めた。
「これも違う、あれも違う。これは今日の実験用のやつで……っと、確か実験に煮詰まって気まぐれに書いたものが……」
彼女の茶色のカバンからは色んなものが出てくるでてくる。そしてそのほとんどが、授業に関係のなさそうなもので。
「カラスの羽に、白い布……。それに青い紙の切れ端……?一体普段どんな実験をしてるんだよ……」
しかも意外なことに全部ジップ○ックの袋に個包装されているのだ。
どうやら、墨谷先輩は変なところに几帳面らしい。
そんな誰得な先輩の性格を垣間見ていると、
「おっと、あったあった。はい、これ」
探し物が見つかったのだろうか、黒く小さなメモ帳を彼女から渡された。
「ええっと……?『奇妙な噂のラーメン屋 』……?」
メモ帳に貼ってあった付箋のページを開くと、1番上にそう書かれており、そしてその下には小説らしきものがあった。
「うん。なんか、その時の気分的にラーメンだったから書いてみたくなっちゃって」
少し照れている様子の墨谷先輩。
なんだ、墨谷先輩も照れる時はあるのか、そう思いながら墨谷先輩が書いた作品を読んでみることにした。
長さとしては、1600文字程度の文化祭レベルにはちょうどいい長さだった。
ただし内容が問題だった。
「……ラーメン食べたい気分の人が書く作品じゃない気がするんですが」
ラーメン屋のホラー、その考えが甘かった。
なんで店主の髪色がコロコロ変わって、しかもなんでその髪色のお客さんが店主が髪色を変えて以降来なくなるんだよ……。シンプルに怖ぇよ……。
「しょうがないじゃない。書いてる時、目の前に青い髪の子がチラチラと視界の前に無理やり入り込むんだから」
「止めればよかったんじゃ……」
逆になんで止めなかったのだろうか。
墨谷先輩が一言発せば正直、墨谷先輩の囲いの人達以外はあっさりと引くと思うのだが……。
そんなことを考えていると
「無理よ」
力強く墨谷先輩が否定する。
「どうしてですか?」
何故だろう、と疑問に思い俺は続けて問いかけた。
すると、その答えは……。
「だって霊だもの、その子」
「…………」
あまりの答えに、俺は沈黙するしか無かった。
と言うよりもこれ以外の反応が思いつかなかった。
このまま沈黙が続くのかと思っていたのだが、そう長くは続かなかった。
「でもとりあえずこれで、私も参加資格あるわよね?」
これまた、ニンマリと怪しげな笑顔を浮かべる墨谷先輩。
そう、『 なにか表現出来ますか?』というものの答えを墨谷先輩はきっちりと示したのだった。
ここまで来たら、もう諦めるしかなかった。
「分かりました……。とりあえず、後輩に今日か明日辺りに聞くので、返事はちょっと待ってください」
陽ちゃんが墨谷先輩NGを出すかもしれない、そう願うしか無かった。
学園の危険人物とは、極力関わりを持たないのに越したことはないのだから。
「いい返事を期待しておくわね♡」
また何かを見越したような目で、墨谷先輩は俺を見つめてくるのだった。今度は大人で、妖艶な笑顔で。
このまま教室に戻っても良かったのだが、しかし、文芸部の話とは別に墨谷先輩とはもう1つ話があるのだった。
その話というのは
「それで、墨谷先輩……?さっきの、
墨谷先輩が握ってるかもしれない、俺と
すると、何の話かすぐさま理解した墨谷先輩は
「ん?あ〜、もちろん言わないわよ。きちんと話を聞いてくれたから、あなたと
と快く他言無用を約束してくれた。
「ほっ……」
それを聞いた俺は心から安心した。
けれど、最後の最後まで油断してはいけなかった。
「でも、
グイッと、俺の腕を引っ張ると、誰にも聞かれないように、墨谷先輩は俺の耳元でそう囁くのだった。
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