陸戦用自在戦闘ユニット【オルトロス01】よりサルベージされた記録情報について

水沢 士道

メモリータイトル【3672】備考:意図的な記録のロックを確認。プロテクトを解除します。


 初めての頃は目に映るもの全てが物珍しさで溢れていたが、三度目ともなれば多少は周りを見られる程度には慣れる。

 施設内を様々に飾り付けする同僚たちを横目に、私は足早に妹のところへと向かっていた。


 『あ、お姉ちゃん』


 オルトロス02は、オルトロス01の姉妹として造られた子宮のない子供たちデザインベイビーであり、遺伝子情報としても私とほぼ同じ因子を持つその子は、相変わらずの弱気な上目遣いで私を見やる。


 同じお腹から生まれたわけではないが、同じベースで造られたため顔の作りすら限りなく似ているはずなのに、此方を伺うような表情は思わず庇護欲をそそらせる。

 姉である私ですらそうなのだから、他の同僚や指揮官アイツから見ても、私とあの子は全く違う存在として認識されているはずだ。


 私が規定された性能じんかくは何方かと言えば気の強い、自分の意見を押し通すタイプであるのとは対象的に、あの子は相手の意見を受け入れることを許容しがちだ。

 たまにそれがもどかしく、どうしてそうなんでも安請け合いするのか煩わしく思うときもあるが、少女型として「守ってあげたいと思わせる」のは、割と正しいような気もしている。


 少なくとも、私には無いものだ。


 「私が折角巡回任務パトロールを変わってあげたのに、まだアイツに何も言ってないの?」

 「今日のパーティーのあと、アイツ予定ないって言ってたじゃない」


 『そ、そんなに言われても……無理なものは無理だよぉ……』


 言われることが分かっていたのだろう。オルトロス02はビクリと全身を竦ませると、詰まりながらも抗議するかのように恨みがましく私を睨みつけた。

 普段誰の言うことでもほいほい聞いてしまうあの子にしてはかなりの強情を見せている通り、自分でも本当に無理だと思っているのだろう。


 姉に対してだから遠慮がない、ということもあるにはあるが。

 姉妹としての仲の良さを加味しても、あの子が面と向かって強く否定するのはとても珍しい。


 「ハァ……」


 ため息を一つ。

 これでは、なんのために分からないじゃないか


 「アンタねぇ……」


 全く。言葉では無理だ無理だと言いつつ、その実はアイツとの約束を取り付けたいと全身で表現しているじゃないか。


 「仕方がないわね……私も付いて行ってあげるから」


 『……ほんと?』


 「本当本当」


 『ありがとう……お姉ちゃん……!』


 ああもう。

 ずるいじゃないか。


 そんな笑顔を見せられてしまったら、私はあの子の背中を押すしかない。

 そういうカタチに造られてしまっている。


 少なくとも、私は。


 ―――――




 結局、あの子と指揮官はあの後約束を果たせたのだろうか。

 私はその前に市街の巡回にでなければならなかったため、見届けることは出来ていない。


 けれど、多分大丈夫だろう。

 私と同じベースから生まれているのだから、ここぞというときはきちんとアタックできるに違いない。

 伊達に私の持ち得ない【狙撃スキル】を引き継いだわけではないのだ。


 作戦行動中はどんなときでも背後からの攻撃に注意せよチェッキングシックスと言うが、その後ろを守っていたのは私である。

 最高の前衛アタッカーが態々後ろに回ってあげたのだから、成功してもらわなくては困る。


 他の“私達”に取られてしまったら、流石に私でも怒るかもしれない。


 まぁ、アイツもあの子のことを憎からず思っているだろうし、戦力比でも後衛がやや過剰になりつつある今の編成では一人くらいアイツの護衛に付けても問題ないだろう。


 だから、私はこの役回りこそが相応しいのだ。

 ショーウィンドウに戯れに書いた愛を、白い息で煙に巻く。

 


 「は、私に似合いやしないのよ―――――」



 そう言葉に出そうと、ガラスに反射した自分の顔を見て笑う。

 そこに写っていたのは、涙を薄っすらと浮かべた冴えない“私”と―――――

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