05 青

少女はいばらの塔の底でうずくまっていました。

いばらの茂みの隙間から小さな空が見ていました。

でも少女は空を知りませんでした。

いばらの底で少女は思いました。


― あの青が欲しい ―


ある朝、少女はいばらを登り始めました。

少女の白い肌に一筋の赤が浮き立ちました。

少女は口をきゅっと結んで登りました。

少女の作った緑のトンネルを点々と赤が辿ります。

少女の澄んだ瞳は青だけを見ていました。


塔の縁の大きなとげが少女の胸を切り裂きました。

少女は歯を食いしばって登りきりました。


塔の外壁は花でおおわれていました。

塔のまわりはどこまでもどこまでも花園でした。


少女の瞳から涙がひとしずく零れ落ちました。

涙に沁みる傷口に少女は初めて気がつきました。


少女の傍らに大鷲の羽根が一つ落ちていました。

大鷲の羽根を手に少女は花園めがけて飛び降りました。


少女は一瞬、青に包まれたような気がしました。


次の瞬間、少女はいばらの中を落ちていきました。

少女は小さな悲鳴を上げました。

少女はいばらの底でうずくまりました。

少女の白い肌は赤にまみれていました。

涙で霞んだ瞳は緑におおわれた確かな青をそれでもとらえていました。

少女は空を知りませんでした。

いばらの底で少女は思いました。


― あの青をいつまた目指せるのだろう ―

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