02 カメ

― 考えてもみてごらん ―

カメは言いました

― 宇宙はとても大きいんだ

君が考えているよりもずっとね

宇宙は遥か昔からいつまでも続くんだ

この宇宙が消えてもそのかすみから

また次の宇宙が生まれてくる

ずっと繰り返すんだ

君が悲しんでいる時間なんて

あっという間さ

君が生きている時間だって

あっという間さ

君が生まれてきても宇宙はあるし

君が死んだからって宇宙はあるんだ

何も変わらないんだ ―

― じゃあ、どうしてうまれてきたの ―

― わからない ―

カメは言いました

― ずっと考えているんだ

何年も

何千年も

何百万年も

何億光年も ―

― カメはいくつなの ―

― わからない ―

― 忘れてしまった ―

カメは言い直しました

― いつからここにいるの ―

― わからない・・・ ―

カメはつぶやきました

― わすれちゃったの ―

― そのようだ

グホッグホッグホッ ―

カメは笑いました

― いつまでここにいるの ―

― わかるまで ―

カメは言いました

― わかるまで考えなくては

わかるまで生きているのさ ―

― いつわかるの ―

― 死ぬまでわからんだろ ―

カメは少し悲しそうでした

― わかるまでいきて

しぬまでわからないの ―

― そうだな ―

カメは言いました

― そしたらいつまでたってもわからないよ ―

― そうだな ―

カメはとても悲しそうでした

― ボク、てつだってあげようか ―

― グホッグホッグホッ ―

カメはまた笑いました

― ありがとう、坊や

だが、あいにく私の頭と君の頭は別々にあるんだ

君の頭は君が考える

私の頭は私が考える

手伝うことは出来ないんだよ

お互いにね ―

― ふーん、そーか ―


― じゃあ、ボク

いっしょにいてあげるよ ―

― グホッグホッグホッ ―

カメはまた笑いました

― 坊やは優しいな

ただ、その優しさはいつか坊やを苦しめるかもしれないね ―

― じゃあ、やさしさはいらないの ―

― いや、誰でも自分に与えられた優しさは持ち続けねばならない

優しさは坊やを苦しめ

そして強さを与えるのだから ―

― わかった

よし

ずっとボクここにいてあげるよ ―

― グホッグホッグホッ ―

カメはまた笑いました

― 君には甲羅がないだろう

ここでじっとしていることなんて

甲羅がなければできないのさ ―


― その代わり君には二本の足がある

私には四本も足があるけど

君は二本だけでずっと早く歩ける

もっと素晴らしいことに

君には二本の手があるのだよ

私は立ち止まるために進む

君は進むために立ち止まるのだ

さあ、でかけなさい ―

― わかったよ

でもどこへ ―

― グホッグホッグホッ ―

カメはまた笑いました

― それは私が考えることではないよ

君が考えることだ

私は何故ここにいるか考える

君は何処へ行くか考える ―

― うん、わかったよ ―

― 君はものわかりがいいな ―

カメは静かに言いました

― ありがとう ―

― これは誉め言葉ではないんだよ ―

カメはもっと静かに言いました

― ものわかりのよさは君から考えることを奪ってしまうのだよ

考える前にわかったと思ってしまう

本当は考えてからわかるのにね ―



― さあ、でかけなさい ―

しばらくしてカメは言いました

― さようなら

カメさん ―

― グホッグホッグホッ ―

カメは笑いました

― 君と会えてよかったよ ―

― ボクもだ ―


少年は出発しました

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