第16話 よーいドン!

「おい、早く並べよ」


 田村くんが僕に言う。

 気が付くと学校のグラウンドにいた。横を見るとクラスメイト達が一列に並んでいる。


「よーい」


 どこからか声が聞こえた。


「ドン」


 その声を合図に全員が一斉に駆け出す。

 僕も訳も分からず走り出した。でも、うまく足が動いてくれない。


「あれ? ねぇ、ちょっと待って」


 前を走るクラスメイトに声を掛けるが、皆聞こえていないのか振り向きもしない。その間にも周りとの距離はどんどん離れていく。


「ねぇ! ちょっと待ってよ!」


 大きな声で叫んでみても、その声は誰にも届かない。


「なんで? もっと動いてよ!」


 僕は鼓舞こぶするように自分の足を叩く。それでも足はうまく動かない。それどころか水の中をもがいているかのように、どんどん動きは鈍くなっていく。


「なんで。なんで僕だけ……」


 僕は遥か遠くのクラスメイト達に手を伸ばす。その背中がどんどんと小さくなっていく。焦りからなのか、呼吸が次第に荒くなる。息が苦しい。


「……動かないんだ、足が……」


 僕のその呟きは、もう誰にも届かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る