第24話 共闘の提案
スギミヤさんが出ていった扉を見ながら、俺は放心していた。
『独善的』『覚悟がない』『薄っぺら』
言われた言葉が頭の中をぐるぐると回る。正直反論したいことは幾つもあった。でも、何も言えない自分がいた。
どのくらいそうしていただろう?
視線を動かすと俺を見つめるエリーゼちゃんがいた。スギミヤさんと一緒に帰らなかったのだろうか? どう声を掛けていい分からない。俺が困惑していると彼女の方ほうから口を開いた。
「レイジさんを嫌いにならないであげてください」
そんな風に言われた。むしろ彼のほうが俺を拒絶した気がするんだけど……
「レイジさんも必死なんです。少なくともこの願いに全てを賭けていると言えるくらい……」
どこか訴え掛ける様に俺を見つめてくる。
「それでも私は『戦いたくない』というニシダさんの気持ちも分かりますし間違ってないと思います」
彼女は俺の言葉を『戦いを止めたい』ではなく『戦いたくない』と言った。果たして俺の気持ちはどっちだったんだろうか?
「私がニシダさんに言えることは今はありません。ですが、良ければ私たちと一緒にアーリシア大陸まで行ってみませんか? ニシダさんはまだこの世界を少ししか見てないと思います。この世界にも色んな場所があって色んな人がいます。一度私たちと一緒にそれを見てみませんか? 」
彼女がそんな風に提案してくる。確かに俺はまだウィーレストとこのフォートブルクしか見ていない。この世界を見て回れば違ったものが見えてくるかもしれない。
「少し考えさせてもらってもいいかな? 」
俺は窺がう様にエリーゼちゃんに聞いた。
「もちろんです! どの道もう少しお金が貯まるまでは動けませんし」
彼女は少し申し訳なさそうに言う。恐らく資金の調達を全てスギミヤさんに任せているのが心苦しいのだろう。
「ありがとう。あと俺のことはノブヒトでいいよ」
何だか歳下の女の子に慰められたのが少し恥ずかしい気もして、俺は頬を掻きながら視線を少し彼女から逸らした。
彼女は「分かりました! 」と微笑んで「今日はこれで失礼しますね! 」と頭を下げて部屋を出ていった。
俺はその後ろ姿を見送ってもう一度、今度はもっと真剣にこれからのことを考え始めた。
翌朝、はっきりとした答えが出ないまま先にもう一つの気になることを片付けるためにギルドで依頼を物色していた。
そう、俺はもう一度あのクリーチャーを操っていた少年と話をしようと思っていた。
あの時、最初に俺と目が合った瞬間、少年の口は確かに『
彼の様子は明らかにどこかおかしかった。ネジが外れてしまった様なあの笑い方が気になってもう一度彼に接触してみる気になったのだ。
しかし、俺は彼がどこにいるか知らない。また森に現れるかも分からない。だが、向こうもこちらに接触したい、いや、殺したいと思っているならまた森に来る可能性は高いと思う。
とはいえ闇雲に森に潜っても仕方ない。とりあえず依頼か、手頃なものがなければそれなりに買取が出ているものを狩ろうとギルドに調べに来ていた。
掲示板を確認していると入口がざわついた。そちらに目をやるとちょうどスギミヤさんが入ってきた所だった。恐らく噂になっていた黒鎧と勘違いされているのだろう。周りでは冒険者たちがヒソヒソと何か囁きあっている。
スギミヤさんは掲示板を見るつもりかこちらにやって来る。俺に気付いたのか一瞬ハッとした顔をしたが、すぐ無表情になった。
俺は気まずいものがあったがここで拗らせてもいいことはない。グッと堪えて軽く会釈をする。スギミヤさんは意外そうな顔をしたが、軽く頷いて俺の隣までやって来た。
少しの間、気まずい沈黙が流れる。
元々それ程口数が多いタイプでも無いのだろう。スギミヤさんは特に気にした風もなく掲示板を見ている。俺は思い切って話し掛けることにした。
「昨日はどうも。言われたことを一晩考えましたが正直結論は出てません。でも、俺はやっぱり戦いを止めたいと思ってます」
俺がそう言うと、スギミヤさんは見極めるように目を細めてから、一言「そうか」と呟いてまた視線を掲示板に戻した。
ここで俺は一つ提案をすることにした。
「昨日の話とは別、いや、全く別でもないんですが……とにかく一ついいですか? 」
スギミヤさんはチラッと俺の方を見て顎をしゃくる。続けろ、ということだろう。
「一昨日あった少年、彼も恐らく勇者候補だと思うんです。俺は彼とも話してみたいと思うんですが良かったら依頼のついでで構いませんから探すのに協力してくれませんか? 」
スギミヤさんは余程意外だったのかマジマジと俺の顔を見る。
「それは構わないが、話も聞かずに殺され掛けたのだろう? 話が通じるとは思えんが? 俺は勇者候補を自分の願いの為に殺すつもりでいる。それでもいいのか? 」
そんな答えが帰ってきた。
「とりあえずもう一度会って話してみたいんです。どうしてあんな反応をしたのかも含めて、ですね。スギミヤさんはスギミヤさんの目的で動いてくれて構いません。俺は全力でそれを阻止するだけですから」
俺がそう言うと彼は今度こそ本当に驚いたという顔をした。そうして暫く考えていたが、もう一度こちらを見て「いいだろう」と頷いた。
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「それで当てはあるのか? 」
適当な依頼を見つけた俺たちは森へ移動しながら打ち合わせという程ではないが簡単な擦り合わせを行っていた。
「『当て』という程明確ではないんですが彼は俺と目が合った時、『見つけた』と呟いていた気がするんです。声を聞いたと言うより唇を読んだ感じですけど、その後の反応からも恐らく間違いないと思います。なので向こうも俺を探してると思うんですよね」
俺は彼の印象と根拠とまでは言わないが、再度森で会える可能性が高いことを告げる。
「なるほどな。確かにそれならまた森で会う可能性はあるな。しかし、あの辺りから一番近い街はフォートブルクなのだろう? 逆方向に逃げたとはいえあの街で見かけなかったのは何故だろうな? 」
「ちょうど街で普通は群れないクリーチャーが群れを作ってると話題になってました。それが人に操られている、というのを隠したかったんじゃないですかね? 」
これは俺が推測したことだが、少なくとも俺が聞いた噂に『クリーチャーの近くに人がいた』なんてものはなかった。そこから考えるに、群れを見られるのはいいが自分を見られてはいけないという意図がある様な気がした。
「ふむ。確かにその可能性はあるか。で、どうする? 話を聞く限りだがこちらの話が通じる相手とは思えないが? 」
なんだかんだ言ってはいるがスギミヤさんも話を聞くくらいの協力はしてくれるつもりのようだ。
「とりあえず取り押さえてでも一度は話をしてみます。森で何をしてたのか、こちらに来てからどうしていたのか、その辺りは確認しておきたいですからね」
「まあクリーチャーを使役していた以上はジョブは十中八九【
そう、あの少年はフード付きのマント以外、装備らしい装備をしていなかった上にクリーチャーを護衛に割いていた。本人の戦闘能力が高くないなら取り押さえるくらいは出来るだろう。
「あとは使役出来るクリーチャーの強さだな」
スギミヤさんが呟く。
一昨日は数はいたが個体で見ればそれほど強力なクリーチャーは従えていなかった。それがたまたまなのか能力に制限があるのか、個の強さに限界はあっても数はどうなのか、あれから補充されているのか、など考えられることは色々ある。
「とりあえずある程度臨機応変に対応出来るような作戦を考えましょう」
俺たちは森に着くまで色々と作戦を相談した。
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