第19話 別れ
あの後、死体を馬車に載せた俺たちはサリナスの街に入り、衛兵に死体を引き渡した。その間、俺は誰とも話さず、「引き渡したの際に衛兵から咎められるのでは? 」と思ったがそんなこともなく、淡々と手続きが進んでいくことにショックを受けた。
野盗の中にそこそこの大物がいたらしく懸賞金が出たが俺は受け取ることを拒否した。人を殺して得た金なんて受け取りたくなかった。
宿に着くと俺はさっさと部屋に入って引き篭った。
途中でイリスが部屋の前に来たようだが、昨日まで親しく話していた人たちが急に野蛮人に見えて、顔を見たくなかった。
なんだあれ? 気持ち悪い!
なんだあれ? 気持ち悪い!
なんだあれ? 気持ち悪い!
なんだあれ? 気持ち悪い!
気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!
気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!
気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!
気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!
頭の中でそんな言葉がぐるぐるしていた。
(俺は間違ったことは言ってないし、正しいことをしようとしたッ! おかしいのはアイツらだッ!! 勝手に殺すなんて有り得ないしそれを咎めず懸賞金を出す衛兵も間違ってるッ!! )
もうこんな所には居られない! ウィーレストに帰ったらギルドに申し出て街を出よう!!
(きっと同じ世界から来た勇者候補なら俺の正しさを分かってくれるはずだ! )
その晩は一睡も出来なかった。
次の日の朝、俺は他のメンバーと距離を置いていた。イリスがチラチラとこちらを見るのが鬱陶しい。
出発後も俺は一人だけ距離を空けて歩いた。とにかく誰とも話したくなかった。
夕方の少し前、ウィーレストの街に着いた。入場の手続きを済ませてギルドの前に着いたところで解散となった。
俺はすぐにギルドに入って依頼完了の手続きを終わらせて報酬を受け取った。すぐにでも街を出る手続きをしたかったが旅の用意をしないといけない。
今、ギルドに街を出ることを告げるとイリスに知られる可能性がある。引き留められたくなかったし出来れば何も言わずに街を出たかった。
ギルドから出ると外にイリスが立っていた。俺が前を通り過ぎると何か言おうと口を開き掛けていたが無視した。
少し時間を置いて宿の外を覗いてみた。「もしかしたらイリスがいるかも……」と思ったがさすがにそこまではしてなくて安心した。
そのまま宿を出て商店を回って旅に必要なものを買い揃えた。
一旦宿に戻って荷物を置くともう一度宿を出てギルドへ向かった。総合窓口で街を離れる手続きを済ませて宿に戻る。フロントで鍵を受け取り部屋へ向かうと扉の前にイリスがいるのが見えた。
そのまま踵を返し、「買い忘れがあった。夕食不要」と受付に鍵を預けて宿を出た。
普段あまり行かない南門の方へ歩き、適当な店に入って、適当に頼んだ晩飯を食ったが昨日から何を食べても味がしなかった。
時間を潰して宿に戻るとフロントにイリスから伝言を預かっていると言われたが正直内容が頭に入ってこなかった。
部屋に戻ると荷物の整理をした。必需品はカバンへ、それ以外はアイテムボックスへ放り込む。それが終わったら少しだけ仮眠を取った。
目が覚めるとまだ部屋は暗かった。
何時くらいか分からないが装備を身に付けて荷物を持って部屋を出る。受付に行くと厨房から音がしたので声を掛ける。今日で街を出ることを伝えると驚かれたが、残り数日分の宿泊費の返金はしなくていいと断って礼を言って宿を出た。
北門ではなく南門へ向かって歩く。
とにかくこの国を出たい。大国のガルド帝国ならもっときちんとした司法制度をしてるかもしれない。そちらに行ってみることに決めていた。
空が明るくなり始める頃、南門を出た俺はウィーレストに、ウィルゲイド王国に背を向けて無言の別れを告げた。
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