第6話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドの前、流石に少しドキドキする。


 そんなに詳しい訳ではないが、そういった創作だと酒場が併設してあったりして、ガラの悪い冒険者がたむろしていたりする描写を見たことがある。街の雰囲気はそんな感じじゃなかったけど、ここは冒険者の本拠地。お約束ってやつがあるのだろうか……?


 いつまでも扉の前で固まっていても仕方ないので、思い切って扉を開けて中に入った。


 中に入ると時間帯的に報告や買取をしてる人が多いのか、フロアはざわざわしていた。興味津々で周囲を見回す。


 あれ?思ってたのとなんか違う?


 中は思った以上に広く、カウンターにはズラっと席が10席以上並んでいる。その上には『新規登録受付』やら『依頼受付』、『完了報告』等窓口名が書かれたボードがぶら下がっている。


 カウンターの冒険者が座る椅子の後ろには、通路を挟んで役所や銀行なんかで見る書類記載用のテーブルがあり、更に後ろには順番待ちのベンチがズラっと並んでいる。


 一応奥には打ち合わせ用のテーブル席もあるようだが、酒場などはなく、酒の匂いとタバコの煙が充満したアウトロー的な雰囲気は全くない。


(ここ冒険者ギルドだよ…な? )


 若干不安になる。とりあえずイリスを探すとベンチに座っているのを発見、合流しようとそちらに向かう。


「イリスさん、お待たせしました」


 座っているのイリスに話し掛ける。


「いえいえ。受付は済ませましたが、私の番号が呼ばれるまではまだ10人くらい前にいますから大丈夫ですよ」


 ニッコリされた。


「そうなんですね。では、申し訳ないですが、今のうちに冒険者登録をして来てもいいですか?」


「構いませんよ。新規登録の受付は一番奥の方のカウンターになると思います」


 イリスに礼を言い、教えてもらった奥のカウンターの方へ向かう。


 カウンターの上に『新規登録受付』と書かれたボードを見つけたが、流石にこの時間は他の新規登録者はいないようで、3席あるがどこも空いている。


(奥から詰めたほうがいいかな? )


 何となく一番奥の席へ向かい、受付の女性に声を掛ける。


「すみません。新規で冒険者登録したいんですが? 」


 すると受付の年配の女性が紙を渡してきた。


「かしこまりました。それでは後ろのテーブルでこちらの書類に必要事項を記入して、再度こちらの窓口までお越し頂けますか? 分からないところは空欄で構いません。また、登録には手数料として銅貨5枚が必要になりますので、予めご了承をお願い致します」


「分かりました」


 紙を受け取って後ろのテーブルへ移動する。カウンターが正面から見えるよう回り込み、ざっとカウンターを伺う。


(うーん、受付は年配の女性か男ばっかり。なんか想像してたのと違うなぁ。冒険者ギルドというより役所に来たみたいだ)


 そんなことを思いながら渡された書類に目を落とす。提出する書類だからか、ここで使われている紙は羊皮紙ではなく、和紙擬きだった。


 名前、年齢、ジョブ、使用武器、使用している宿名、依頼料の分配の希望やウィーレストの滞在期間等、「履歴書かっ! 」と思わずツッコミたくなる項目が並んでいる。記入出来るところは記入して宿名と滞在期間は空欄にした。


 書いた書類を持って先程と同じ受付に行く。


「記載出来ました」


 受付の女性(もうおばちゃんでいい? )に書類を手渡す。おばちゃんは書類をチェックすると、空欄について確認してきた。


「宿泊先の名前と滞在期間が空欄ですが、どうされますか? 」


「先程街に着いたばかりで、まだ宿泊先は決まっていません。滞在期間は入場の際に2週間で申告しましたが、延びる可能性もあるので空欄にしましたが、一応その期間で記載した方がいいでしょうか? 」


「かしこまりました。宿泊先は明日以降でも結構ですので、決まりましたらお知らせください。滞在期間が短いとパーティーを組む際に不利になることもありますので、このまま“未定”としておきましょう」


「分かりました」


「それではステータスカードの提出と手数料の銅貨5枚をお願いします」


 胸元に閉まった小袋を取り出し、中からステータスカードと大銅貨1枚を出しておばちゃんに渡す。


 おばちゃんは先程の書類の『滞在期間』に“未定”と書き込むと2つを持って奥にある機械らしき物に向かった。機械にカードと書類をセットして、何かを手に取りおばちゃんが戻ってくる。


「では、お先に手数料のお釣り銅貨5枚をお返しします。ご確認ください」


 おばちゃんから銅貨5枚を受け取り、確認して胸の小袋に戻す。


「次にこちらの水晶に手を置いて魔力を流してください」


 言われた通り水晶に手を乗せ魔力を流す。


「ありがとうございました。少々お待ちください」


 おばちゃんはそう言うと水晶を持って機械の方へ戻っていく。水晶を元の場所に戻し、機械から書類とステータスカード、それともう一つ板のような物を取り出す。取り出した一式を上司と思われる男性に渡すと、男性がチェックして書類に判子を押したようだ。

 

 書類はそのまま提出用なのか男性の前のボックスに入れられ、ステータスカードと板だけを持っておばちゃんが帰ってくる。


「ニシダ様、お待たせ致しました。まずはステータスカードをお返ししますので間違えがないかご確認ください」


 ステータスカードを渡されたので、魔力を流し自分の物か確認し、間違いないことを伝える。


「それでは続きましてこちらがニシダ様のギルドプレートになります」


 渡されたのは白くて粉っぽい石を加工した板だった。見た目は粉っぽいが表面はツルツルしている。


「それではギルドプレートについて説明させて頂きます。合わせて冒険者ランクについても説明させて頂きますが、如何なさいますか? 」


 ギルドプレートを眺めていると、おばちゃんからその様に言われたので説明をお願いする。


「それではまずギルドプレートですが、そちらは冒険者の証明書になります。魔力を流しますと登録支部の番号とニシダ様の登録番号、登録日が表示されますのでご確認ください」


 言われた通り魔力を流してみると、表面に数字の羅列が浮かび上がってきた。


「ご確認頂けましたね? ギルドプレートはこちらの紐を通して必ず見えるとこに身に付けてください。もし、紛失した場合には再発行出来ますが、その場合には再発行手数料で銀貨1枚を頂いておりますので、こちらも予めご了承をお願い致します」


「分かりました」


「では、次に冒険者ランクについてご説明致します。

 冒険者ランクは全部で7つに分かれております。登録時から順にストーン、アイアン、パール、エメラルド、サファイヤ、ルビー、ダイヤとなっており、依頼の達成状況によりランクアップしていきます。

 一般的に一人前と言われるパールまでは依頼の達成状況によりランクアップ出来ますが、エメラルド以上へのランクアップは一定以上の依頼達成度に達した後に昇格試験とギルドの審査を経てランクアップが可能となります。

 ただし、アイアン以降の昇格には必ず1件以上の討伐依頼と護衛依頼を受ける必要がありますのでご注意ください。

 ギルドプレートもランクに合わせて都度更新されます。ニシダ様は現在ストーンのランクですので普通の石に少し特殊な加工をしたプレートをお渡ししております。ここまでは宜しいでしょうか? 」


 特に問題無さそうなので「大丈夫です」と答えておく。


「では、続きまして依頼についてご説明致します。

 依頼は後ろにはあります掲示板にランク毎に貼り出されており、自分の現在のランクと一つ下のランクの依頼を受けることが可能です。

 ただし、ストーンに限り一つ上のアイアンの討伐依頼と護衛依頼は受けることが可能です。

 また、依頼は【パーティー依頼】というパーティー単位で募集されているものや複数パーティーを指定しているものもあります。こちらの依頼は単独では受注出来ませんのでご注意ください。

 最初はどの依頼が自分の実力に適正か判断が難しいと思いますので、分からないときは『受注窓口』にご相談ください。

 パーティーで依頼を受ける場合はパーティーメンバーの平均ランクがそのランクに達していれば受注可能です。パーティーについてのご説明も必要でしょうか? 」


 少し考え、念のため説明をお願いする。


「かしこまりました。

 それではパーティーについてご説明致します。パーティーには固定パーティーと臨時パーティーの2種類があります。

 固定パーティーはそのままメンバーが固定されたパーティーになります。ギルドのパーティー登録窓口に必要書類を提出頂くと登録出来ます。

 固定パーティーのメリットは、なんと言っても固定メンバーによる連携が可能になり、自分のランクより上の依頼が受注出来たり、単独に比べ依頼達成率が上がることです。

 反面、デメリットとしては一人あたりの取り分が少なくなること、パーティーに怪我や脱退で欠員が出た場合、活動が出来なくなる可能性がある点です。ここまでで質問はございませんか?」


 特に問題ないので、説明を続けてもらうよう促す。


「次に臨時パーティーについてですか、これは即席パーティーのことです。

 先程依頼のところでもご説明しましたが、依頼の中にはパーティーでしか受けられないものもあります。

 普段単独で活動されている方がそういった依頼を受注される場合は欠員が出たパーティーに臨時で加入するか単独の方同士でパーティーを組む必要があります。

 また、新規メンバー募集時などにも加入希望の方と臨時でパーティーを組んだりして相性を確認したりします。

 こちらの場合のメリットは単独では受注出来ない依頼を受注可能になること、デメリットは即席のパーティーですので連携は期待出来ず固定パーティーの様な相乗効果を望めない点になります。

 なお、固定パーティー、臨時パーティーの募集はどちらも依頼掲示板の横にありますメンバー募集掲示板に貼り出しております。応募を希望される際には募集用紙に記載されております募集番号をパーティー登録窓口にお伝えください」


 了承した旨を伝える。


「続きまして買取についてのですが、ご説明は必要でしょうか? 」


 イリスに基本的なことは聞いているが一応確認しておく。


「知り合いから手数料で一割、税で一割の合計二割が査定金額から引かれると聞いてますが、他に何か注意事項はありますか? 」


「基本的にはその認識で大丈夫です。

 付け加えるなら経費については通常冒険者負担ですが、依頼によっては依頼者負担になる場合がございます。

 とくに護衛依頼等に多いケースですが、そういった内容は依頼書の特記事項に記載がありますので、依頼を受ける際は必ずご確認ください」


 経費のことは考えてなかった。つまり経費がこちら負担になる場合は赤字にならないように予め掛かる経費を予想して報酬から差し引いて考えないとダメなんだな。確認しておいて良かった。


 おばちゃんに次の説明へ移ってもらうよう伝える。


「それでは最後に『指名依頼』とギルド登録特典についてご説明致します。

『指名依頼』とはその名の通り、冒険者個人もしくはパーティーを指名して出された依頼です。

『指名依頼』が発生した場合、通常依頼よりも優先度が高くなります。『指名依頼』を断られたり、ギルドへ未報告で街を離れられ依頼を受注出来ない場合、マイナス評価となりますのでご注意ください。

 街を移られる場合は必ず転出元のギルドへの報告と移動先にギルド支部がある場合には移動完了の報告をお願い致します。移動先にギルド支部がない場合は『指名依頼不可』となり、マイナス評価にはなりませんのでご安心ください。

『指名依頼』の説明は以上となりますが、質問や不明点はございませんか? 」


「大丈夫です」


「それでは最後に登録特典についてご説明致します。

 冒険者ギルドにご登録頂きますと直営店ならびに提携店舗でのご宿泊・ご飲食・お買い物が1~2割引でご利用頂けます。

 直営店は当ギルドでは2階に道具屋と素材屋、入り口を出られまして左に薬屋、右にございます同じ建物の別入り口が酒場・軽食の『宵の暁亭』となっております。その他提携店につきましてはこちらのリストをご覧下さい。なお、他の支部の提携店につきましては各支部でご確認ください。

 また、現在新規登録者向けに講習会を実施しております。受講料で銀貨1枚を頂きますが、2週間の講習で対クリーチャー、対人向けの戦闘訓練や採集、剥ぎ取りの仕方等をエメラルド以上の実践があるギルド職員が講師として指導致します。

 現役冒険者が引率の野外実習などもございますので興味がおありでしたら総合窓口でお申し込みください。なお、この講習中の買取に関しては非課税・買取手数料無料となっております。

 それではご説明は以上となりますが最後にご不明な点などはありませんか? 」


 一気に説明を受けたが、スマホの購入時の説明と同じ様な印象でとくに疑問点はなかった。


「かしこまりました。

 実際に活動していく中でご不明な点が出てきましたら総合窓口でご質問下さい。

 本日は冒険者ギルド ウィーレスト支部にご登録頂きましてありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました」


 おばちゃんにお礼を言って軽く頭を下げ受付から離れる。雰囲気から何から冒険者ギルドと言うより役所だったなぁ。行ったことないけどハローワークとかこんな感じなのだろうか?


 思ったより説明事項が多く時間が掛かってしまった。まだ、これから採集した素材の買取もしてもらわないといけないのに……


 イリスに一緒に買取手続きしてもらうようお願いすれば良かったと後悔しながら、彼女の待つ席へ向かった。

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