第4話 国境の街ウィーレスト
「ほぇ~」
思わず間抜けな声を上げて、外壁を見上げる。国境の街ウィーレストは四方を高さ10m程の外壁に囲まれた街だ。イリスから聞いた通り、森を抜けてから2時間ほどでウィーレストへ着いた。途中からその巨大な外壁は見えていたが、実際近くで見るとその巨大さに圧倒される。
高さ約10mと聞くと21世紀の日本の都市部を考えるとそれほど高く感じないかもしれない。が、何もない平原に立つ壁はなんとも言えない迫力があった。ダムの壁面を下から見上げるのを想像してもらうと分かりやすいかもしれない。何よりこれほどの外壁を重機を使わずに作ったということに圧倒された。
このウィーレストは大陸の東と西を繋ぐ北の橋を渡り南下するとすぐにある、ウィルゲイド王国と大陸西の一番南にあるガルド帝国の国境に位置するそうだ。『国境の街』と言ったが、正確にはこの街から南に更に半日ほど歩いた先に『ベルダ砦』という砦がガルド帝国との国境になるらしい。
ウィルゲイド王国は南にガルド帝国、南西にポセニア海洋連邦、西に湖と森を挟んでアーガイア都市国家と国境が接している。
ちなみに北の橋周辺は大陸の東西を繋ぐルートがほぼそこしかないため、東でも西でも周辺は非武装地域になっており、どこの国にも属していない。交通の要所であるこの地域を取ろうとすると、たちまち周辺国に攻められるのだそうだ。
話が逸れたがそんなウィーレストは人口約10万人、ウィルゲイド王国では2番目に大きな都市と言われているそうだ。
大河の森に近く、冒険者が集まり、素材を買い取る商人が集まり、ガルド帝国への輸出入の要所にもなっているため、非常に発展しているらしい。そのため、別名『冒険者の街』とも呼ばれるほど冒険者が多く集まる街だそうだ。
ただ、フェルガント大陸では大河の森が非常に豊かなため、森の近くにある街は大体『冒険者の街』と言われているそうだが…。なお、大河の森は地域によって微妙に植生や生態が異なるようで、広い地域に分布しているものもあればその地域でしか採集出来ない素材やクリーチャーもいるらしい。
さて、なぜウィーレストがこんな壁に囲まれているかと言うと、国境付近だからというだけではなく、大河の森が関係している。
大河の森では縄張り争いや強力な個体が誕生した際などにクリーチャーの移動が起こり、森からクリーチャーが溢れ出す【
この【
【
そんなウィーレストの街についてのあれこれをイリスに教えてもらいながら歩くこと約2時間(体感)、遂にウィーレストの門の前まで辿り着いた。ただし、門まではまだ遠く、入場待ちの列が50組くらい続いている。列について疑問に思い、イリスに聞いてみた。
「ああ、これはステータスカードのチェックと入場税の支払い待ちの列ですよ」
「どういうことですか? 」
「ステータスカードに犯罪歴がある人は入場出来ません。また、行商人や旅人はこの街に税金を納めていないので、入場の際に徴収します。一週間の滞在でだいたい大銅貨一枚ですね」
と教えてくれた。
ちなみに行商人は物を売った場合は街を出る際に売上の一割、物を仕入れる際は仕入れの際に一割の税金が掛かるそうで、冒険者の場合は冒険者ギルドが素材の買取時に税金とギルドの手数料で二割引かれるそうだ。
旅人の場合はとくにそう言った税金はないそうだが、一定以上の商品を購入する場合は商人ギルドを通すルールになっているので、旅人のふりをして商品を仕入れることは出来ないようになっているらしい。多少の取りこぼしはあるのだろうが、結局少量の仕入れを誤魔化したところで、売った商会からは税が取れるため、それほど大きなロスにはならないのだろうと思う。
そんな疑問に思ったことをイリスに聴きながら更に1時間ほど(しつこいようだが体感)並んでいると、漸く俺たちの番が回ってきた。門の前には同じ軽鎧を着て槍を持った衛兵らしき男が4人ほどいて、2人がステータスカードをチェックして、その先で別の2人が入場税を徴収しているようだ。
この街に住んでいるイリスが先にステータスカードを衛兵に見せ、奥にいる2人にもステータスカードを見せて街へ進んでいく。住人なので、入場税は必要ないのだろう。
「ステータスカードを出して」
衛兵に言われるままステータスカードを見せる。
「犯罪歴はなし。滞在の目的は? 」
入管のチェックみたいだ。まあ実質は同じようなものか。
「旅の途中で立ち寄りました。暫くは森で採集などをしたいので、合わせて冒険者ギルドに登録する予定です」
「ふむふむ、滞在期間は? 」
「今のところは二週間程度の予定です」
「分かった。問題ない。入場税は大銅貨2枚、奥の担当者に払ってくれ」
「ありがとうございます。」
軽く衛兵に会釈をして門の中に入り、奥の衛兵に話し掛ける。
「入場税を支払いたいのですが」
「滞在期間は? 」
「今のところ二週間の予定です」
「では、大銅貨2枚だ」
大銅貨2枚を渡す。
「では、こちらが滞在証明書になる。期間に間違いが無ければこちらにサインして。期間を過ぎても滞在する場合はもう一度手続きが必要になるから、またここに来てくれ。期間を過ぎても延長手続きがされてない場合、強制退去か場合によっては犯罪者奴隷に落ちることもあるから注意するように」
注意事項を説明されて書類を渡される。羊皮紙のような材質だ。和紙よりも少し上質な紙はあるようだが、まだまだ高価で、こういった書類を発行する際などはワンランク下がるこの紙が使用されるらしい。
さて、異世界の常識で読み・書きは大丈夫だが、この世界の暦は国や地域によって統一されていない。都市や国家間の移動も徒歩か馬車などで時間が掛かるため、時差の概念も曖昧で、暦の基準も太陽であったり月であったり星の配置であったりで非常に分かりにくい。
ウィルゲイド王国では、『〇〇の月 〇日目』という言い方をし、新月から新月までをひと月としている。このため、ひと月の日数にかなりバラつきがある。
一週間は5日を基準にしており、曜日という概念はない。
どうやら今は『緑の月 6日』という暦らしい。緑の月 16日まで滞在という書類を確認し、サインの欄に自分の名前を記載する。俺には日本語として認識されているが、実際は英語に近いアルファベットの文字で、文法としては日本語に近いという不思議な言語だった。
もう一枚同じ書類にサインをして、銀貨を渡したのとは別の衛兵に渡す。彼はそれをチェックして二枚を少しずらして重ねると、二枚の中間に判を押した。割印ということだろう。
それが終わると上の一枚をこちらに渡して「行っていいぞ」と言われた。軽く頭を下げ、「ありがとうございました」とお礼を述べる。
いよいよ異世界の街だ!めちゃくちゃな理由で異世界に飛ばされたが、不謹慎かもしれないが少しワクワクしている自分がいた。
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