記念SS 3 後継者の男(第101話ー第106話)
(遅れてやってきたサブヒロインは結構したたかだったというお話)
あたいの夫となる男、ハリスの家に到着する。一介の冒険者という触れ込みの男が住んでいるには立派な建物だった。まあ当然だろう。元の持ち主を考えればむしろ質素と言えるぐらいだ。あたいを外に残してハリスは家の中に入っていく。呼び入れるまで待っていろという話だったが、いつまでも待っていられない。
扉を開けると華奢な少女が気づかわし気にハリスのあごに手を伸ばしているのが見えた。かすり傷だと指摘するとハリスは勝手に家に入ってきたことを咎める。
「女をいつまでも待たせるもんじゃないでしょ」
あたいは文句を言いながら少女の様子を観察した。
顔立ちはまあまあだが幼さが目立つ。体も細くてぜんぜん色気を感じさせなかった。ふふ。これならあたいの勝ちね。えーと、他にも女性がいるようだけど……。冷たい顔の魔法士っぽい女とちょっと儚げな女の二人。ふーん。しがない冒険者と自称していたけど、色々なタイプを囲い込んでいるんじゃない。借家人がいるとは聞いていたけど怪しいなあ。
最悪の場合、あたいが四人目の妻ということになるのか。まあ、現時点で争う必要はないけどね。所詮は強力なバックも持たない平民なのだし、ハリスの真価も知らないのだろう。あたいの父の勢力は無視できないし、いずれ誰がハリスの正妻にふさわしいかは周囲が判断することになる。
それに女っぷりだってあたいの方が上だ。出発前に母からマーキト族に伝わる秘伝の男女の道についてはたっぷりと講義を受けてきたし、ハリスを篭絡するのなんて難しくないはず。だから、家の外に天幕を張って生活することになったときも素直に従った。もちろん、ハリスとティアナとが同室と知ってからは夜寝るときは押しかけたけれど。
ハリスは最初は部屋を出ていくように言っていたけど、なんとティアナが擁護してくれた。あたいに恩を売って上位に立つつもりかと思ったがそうでもないらしい。純粋にあたいの心配をしてくれているようだ。ただ、ハリスを譲るつもりはないらしい。ハリスの右腕に胸をこすりつけるように抱きつくと左腕をしっかり確保していた。
ハリスが無駄に魅力を振りまく女神官に連れられて出かけるときには、お守りとして下着を渡す。想い人に自分の身につけている物を渡して無事を祈る習慣というのは嘘じゃない。まあ、普段はハンカチとかが多いんだけど。対抗してティアナが持ってきたものは色気の欠片もない代物だった。
それで、ティアナ相手なら楽勝と思っていたが、ハリスが彼女をどれほど気遣っているかを感じさせられる出来事が起こる。妙に女を感じさせるようになったエイリアさんにライバル宣言をされた翌日のこと、あたいはティアナの案内でノルンの町を散策していた。いきなり横付けされた馬車の中へとティアナが引きずり込まれる。これは僥倖。
あたいはゆったりとした袖の中に隠しておいた棍を取り出すと御者台に駆け上がり、そこにいた覆面男を思い切り殴った。走り出さない馬車に不審を抱いたのか、馬車からぞろぞろと男たちが飛び出す。
「何をしやがる、このくそアマ」
「ついでにこの女もさらっちまえ」
女一人だと侮ったのだろう。だらしない笑みを浮かべた男たちが迫ってくる。とっさのことだし御者は仕方なかったけど、こんな汚い男たちと戦いたくはないな。あたいは陰で護衛を務めるリュー、ノール、フランの三人組に大声で命じた。
「やっておしまい」
この三人の連携攻撃をしのげる戦士はそうそう居ない。覆面をした男たちはあっという間にうめき声をあげて地面に横たわることになった。この間抜けな連中には少しは感謝しなければならないだろう。ティアナを大切にするハリスに労せずしてアピールをする機会を与えてくれるなんて。
ハリスは義理を大切にする男だ。意外に優しいところもある。大事にしていた女がいなくなってすぐに他の女に目移りするような性格ではなかった。まあ、そんな男ならあたいの方でもお断りだし、あの人の後継者にふさわしくない。あたいは警備兵の詰所でティアナを慰めながら、ハリスの帰還を待った。
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