第47話 天然ボケ
「うわあ。本物の聖騎士だ」
はしゃぎ飛び跳ねるタック。
「ハリス。随分と華やかになったな。ひょっとして家は間違えてないよな」
相変わらずの男前ぶりを発揮しまくっているゼークトがとぼけたことを言う。
家の主としてお互いを紹介せざるをえず、義務的に済ませた。いつものようにゼークトが女性陣の注目の的になり話題の中心になることに内心身構える。しかし、そうはならなかった。はしゃいでいるのはタックだけ。ちゃっかり握手してもらい得意の絶頂。カーライルは虚無な笑顔をしていた。まあ、自分よりいい男オーラ全開のナイスガイが現れたら、なまじ整った顔をしているだけにああいう顔になるのだろう。
そして、肝心の女性たちだったが、意外と反応が薄い。ティアナは丁寧に頭を下げたが自分の机に戻って勉強を再開しジーナはそれにつきそう。エイリアは上品に笑みを浮かべて挨拶をし、唯一キャリーが興味深そうな表情をしているがそれだけだった。え? この世にたった5人しかいない聖騎士様だぜ? しかもこんないい男なのに関心薄くねえか?
「取り込み中のようなので手短に用件をいうぞ。これから、ちょっと使いに出て戻ってきたら、レッケンバーグの先の廃坑に行くから付き合え」
「ちょっと待て。そんな遠くまではるばる行くほど暇じゃねえぞ」
「大丈夫だ。大トンネルを使う」
「おい。大トンネルって。第5層相当のバケモンが出るんだぞ。お前はいいだろうが、2人で通るなんて俺には自殺行為だ。分かってんだろ? 最低でも腕のたつ前衛がもう1人と高位の神官がいないと冗談抜きで命がいくつあっても足りん」
「まあ10日ぐらいあるからメンバー集めておいてくれ。最悪2人でも行く」
「おいおい。ちょっと強引すぎるぞ。ゼークト」
「悪いな。事情はちょっと話せんが、お前のためだ。それじゃあ、約束だぞ」
「ちょっと待て!」
来た時と同様に慌ただしくゼークトは去っていった。
ありゃなんだ? どうせ使いの行き先は神龍王の元だろうな。王都からこの方面だとそれしか考えられない。相変わらずそちら方面はぴりぴりしていることから行方不明の神龍姫が見つかっていないに違いない。そんな大事なときなのに俺とのんきに廃坑の探索するだと? しかもヤバい大トンネルを使ってまで?
振り向くとエイリアがにっこりとほほ笑んだ。
「これでお互いに手助けできそうですね」
確かにエイリアがいれば何かあっても安心だ。死にさえしなければ、高度な治癒魔法でなんとかなるだろう。
しかし、エイリアが向こうの用務で俺にこだわる理由が分からない。冒険者を雇う金が無いとも思えないし、仮にそうだとしても、それこそ俺に提案しているように別の探索に付き合えばいいはずだ。極度の顔見知りってわけでもなさそうだし、俺に好意を持ってるっていうのは……残念ながら一番ありえないな。
「ハリスさん。先日は恵まれない子供のために喜捨を頂いたそうでありがとうございます。本来は頂かなくてもいい治療費の形で頂いたと伺っていますわ。色々とハリスさんも物入りでしょうに、当節、このようなふるまいのできる方はなかなかいらっしゃいません」
ええと。ティアナの手足の傷の治療をしてもらった時のことか。
「今回の私の任務は高司祭様が受けた啓示によるものです。ハリスさんのような心正しい篤志家の方と共に挑むことができれば光栄ですわ」
「いや。それは買い被りというものですよ」
「いいえ。敢えてスカウトという裏方に徹しながら、その実、善行を重ねている心掛け、本当に頭が下がります」
後ろで鋭い眼光を放っているカーライルの目と合った。教会という狭い世界に生きているエイリアは人の善性ばかりが見えやすいに違いない。さらに多分に誤解も混じりやすく、弟としては姉がいつ羊の皮を被った狼に取って食われないか心配でならないのだろう。
まあ、エイリアのボケっぷりは強烈だ。俺はそこまで品行方正な善人じゃない。最近は表面上は取り繕う場面が増えてきたとの自覚はあるが、ティアナにいい人と思われたいという不純さ満点の動機からだ。こりゃあカーライルの気苦労も絶えないだろう。心の中で苦笑する。だからと言って俺をはめようとした件を許すつもりもないけどな。
「それで、ご協力お願いできますか?」
「もちろんです。ティアナの治療をしていただいた恩もありますし。あの古傷を治すのは大変だったでしょう? 失礼だが、この町の神官ではああは巧くいかなかったと思いますよ」
「私の力など微々たるもの。神のお導きです」
「それで、ご協力はしますが、戦士の当てはあるのですか?」
「いえ。サマード様にお願いはしていますが、まだお返事は頂いていません」
「え? うちのギルド長を知ってる?」
「はい。こちらの町まで同行頂きました。ちょうど王都のギルドにお越しでしたので、どうせ帰り道ということで。なかなか立派な方ですね」
「ああ、うん。えーと、それじゃあ、俺の弟子の戦士も参加でいいか?」
エイリアは頷く。そこへ、話のタイミングをうかがっていたキャリーが手を挙げた。
「その話、私も参加させてもらっていいか?」
「お礼は差し上げられませんが、よろしいのですか?」
「私も修行中の身。様々な経験を積めるし、神託とあれば功徳も積める」
キャリーは神妙な顔をしているが、あれは絶対にカーライルへの嫌がらせで同行するつもりだな。
「ありがとうございます。それで、急なのですが出立は明日でいいでしょうか?」
「ああ。構わないぜ」
「私も大丈夫。ギルドには私から伝えておこう」
「それじゃあ、コンバへの伝言もついでに頼む。ジョナサンに言えば手配してくれるはずだ」
「分かった。それでは明朝神殿に伺う」
キャリーが出て行くとエイリア達も辞去した。
「ご主人様」
「なんだ?」
「もしお許しが頂けるなら、エイリア様をお食事に招待して頂けないでしょうか?」
「ああ。手料理を振る舞いたいのか」
「はい」
「なんだ。そんなことならさっき自分で言えば良かったのに」
「私が勝手なことをしてはいけないかと……」
「ああ。分かった。都合を聞いてみるよ。任務が終わった後なら多分大丈夫だろう。お前の自慢の腕でご馳走してやるといい」
「はい。ありがとうございます」
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