第5話 ポーション?
それから僕らは靴屋と服屋に行き、必要な物をそろえた。お金はカリーナが全部立て替えてくれている。申し訳なさそうにする僕に彼女は「でも、靴と服は無いと困るでしょ」と屈託なく笑うばかりだ。
「これでよし! うん、なかなか様になってるじゃない、マモル」
カリーナが服と靴をそろえた僕を上から下まで眺めて満足げにうなずく。
服は上下に分かれた布服で、材質は綿だと思われる。ボタン留めの白いシャツに革ジャンの上着。下は少しモコモコしたズボンに長めのブーツを装着。ブーツは柔らかめの登山靴のような形状で紐で締めるタイプだったから、これは履いたり脱いだりが少し面倒そうだ。だけど、腰の太いベルトはちょっとカッコイイ。
「じゃ、ガラス瓶を買ったら、一度アタシの家、『何でも屋』の店に戻るわよ」
カリーナが言う。
「ガラス瓶か。何に使うの?」
「ポーションを入れる瓶よ。ポーションは分かる?」
カリーナに聞かれ、僕は曖昧に笑う。
「いやー……、ゲームじゃ回復薬だよね?」
「分かってるじゃん。薬草を煎じて瓶に詰めてギルドに卸したり、道具屋へ持って行くのよ」
どこまで本気で言っているのか、からかわれているのかよく分からないけれど、ともかく僕は彼女のお供をすることにする。
目的地はすぐ近くのようで、カリーナはスカイウォーカーを脇に引っ張ったままで歩く。スカイウォーカーは円盤の下に小さな車輪が付いていて、引っ張るのも簡単そうだ。路地を一つ越えたところで道具屋に到着した。
「ここ! ここが道具屋だから、覚えておいて。君をお使いに出すかもしれないし」
「うん、分かった」
そこは棚にいろんな物が並んでいる雑貨屋という感じの店だった。ボタンや糸などの裁縫道具から、木のコップや皿などの食器類、鎌や鍬などの農作業用の器具、その隣には化粧品にインク瓶に麻袋と、品揃えはやたらカオスである。
「こんにちはー」
「ああ、カリーナ、今日は何が要るんだい?」
店長らしき中年の男が、馴染み客のようで、気さくに注文を聞いてきた。
「ポーション用の瓶をありったけ全部頂戴」
「二十個あるけど、じゃあ六十ゴルドのところを、五十にしてやろう」
「もう一声、四十五でお願い」
「仕方ないな、じゃあ、それでいいよ。ちょいと待ってな」
「それと、この子はマモル。うちでしばらく預かる事になったから、名前と顔、覚えておいて」
カリーナが紹介してくれたので、僕は頭を下げる。
「あ、どうも」
「ふうん、ああ、お前が昨日、町医者のところへ運んでいったコールドスリープ患者か」
「そういうこと」
どうやらカリーナが僕をこの街へ運んできたらしい。装置はかなり大きいし重いと思うのだが、スカイウォーカーで引っ張ったのだろうか。ロープで乱暴に引きずって? 割れ物注意なのに? ちょっと気になる。僕が運び方について要らぬ心配をしていると、道具屋の店主が話しかけてきた。
「マモル、カリーナのところはこき使われるだけで、給料は良くないぞ? どうだ、うちで店番をやらないか?」
「ええ?」
「ちょっとちょっと、おじさん、アタシの先客を横取りしないでよ。服も靴もアタシが買ってあげたし、マモルも手伝うって言ってくれてるんだから。それに、ここだって大して儲からないでしょ?」
「ま、お前さんみたいに値切ってくる連中が多いからな」
中年店長が肩をすくめて認めた。
「どうせ元は取れてるでしょ」
「まあ、それは当然だな。ほら、瓶だ。袋も付けてやるから、ポーションを詰めたらこっちにも卸してくれ」
「分かったわ。ありがと」
「おう」
カリーナは瓶の入った袋を背中に担ぎ、スカイウォーカーの白い円盤の上に乗った。
「また、それに、乗るの?」
「いいから乗る。瓶もあるから飛ばさないし、大丈夫よ。だっ、かっ、らっ! 今度は変なところ、触らないで」
「了解」
僕はカリーナの腰のベルトを掴む。
「ダメダメ、危ないから腰に手をきちんと回して。それじゃ落っこちちゃうわ」
「歩きでもいいんだけど……」
「それじゃ私の家が分からないし、時間かかるでしょ。ほら、行くよ」
「うひっ」
空気を噴射して浮き上がるスカイウォーカーはやはり手加減無しでスピードを上げた。
「速いよ、カリーナ、もっと緩めてくれ」
「大丈夫大丈夫」
僕は全然大丈夫じゃないのだが、カリーナは「いやっほー!」などと無駄に上機嫌な声を上げると、街並みをすいすいと滑るように移動していった。
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次話は明日12日19時投稿予定です。その後もしばらく日刊で同じ時間に投稿すると思います。
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