第3話 三人組

(注意 この話は暴力描写が出てきます)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「バッカー!」


 振り向いてその名を呼んだカリーナの声がけわしい。


「なんだ、そいつは新しい客か? 悪いことは言わねえ、その女はよしておいた方がいいぜ。なんたって成功率が低い。オレ様の方がずっと役に立つぞ?」


 並びの悪い歯を見せてニヤリと笑ったバッカーは巨漢だ。体はしっかりと鍛えているのか、黒い革ジャンの下の胸板がやたらと分厚い。その両隣の二人の男もヘラヘラと笑っているが、人相が悪くどう見たって良い人には見えない。


随分ずいぶんと勝手な嘘を言ってくれるじゃない。行きましょ。こんなのと話すだけ無駄だわ」


 銅貨を四枚テーブルの上に置いたカリーナが言い、立ち上がる。


「おいおい、連れないことを言うなよ、カリーナ。この街じゃあ、オレ様と仲良くしておいた方が身のためだぜ? 色々とな」


「へっへっへっ」「くっくっくっ」


 そう言って三人組の男はニヤつきながら、カリーナと僕が乗ってきたスカイウォーカーに手をかけた。


「それに触るな! そいつはアタシの大事な商売道具だよ!」


 カリーナが猫のようなアーモンド型の目をカッと見開き、毛を逆立てたかのような剣幕で怒鳴る。


「はっ、ならオレ様が乗り心地を確かめて調整してやるよ」


「よせっ! アンタには無理だっての」


 カリーナがバッカスを止めようとしたが、その前にバッカスがスカイウォーカーの円盤の上に乗り込み、ハンドル部分のスロットルをひねっていた。


 その途端――


「うおっ!?」


「「 兄貴!? 」」


 急加速した円盤についていけず、もんどり打ってその場でバッカーが転んだ。それを眺めていた数人の野次馬から失笑が湧き起こった。

 

「だから言ったでしょ? アンタにはこの子は扱えないわ。アタシ専用にチューンしてあるんだし」


 腰に手を当て呆れ顔でカリーナが言う。


「いてて……くそっ、なんてデタラメなピーキーパワーにしてやがる。安全装置も取りやがったな?」


「ええ、それが?」


「違法だッ! お前の違法行為でオレ様が怪我をした。そうだな?」


「イエス! 兄貴!」「ヤー! 兄貴!」


 二人の取り巻きらしき男が即座に同意したが、なんだかなぁ。


「よし、ならこれは没収だ」


「ハァ?! ちょっと待ちな!」


 カリーナが取り戻そうと手を伸ばすが、バッカーがカウンター気味に彼女の顔をグーで殴った。


「ぐっ!」


 たまらず尻餅をつくカリーナ。


「カリーナさん!」


 僕はすぐさま彼女に駆け寄り助け起こそうとしたが、その前に彼女が自分で起き上がるとバッカーに殴りかかってしまった。


「やったわねぇ! この!」


 無茶だ。

 相手は男三人、しかもバッカーは筋肉質の大男だ。喧嘩して勝てるわけがない。


「くっ、ここには警察はいないのか!?」


 どうして良いか分からず僕は周囲を見回すが、警官や交番らしきものは見えない。


「誰か、兵士を呼んでおくれ!」


 女将さんが叫んだが、この時代の治安維持は警察ではなく、兵士が担っているようだ。

 だが、どちらにしたってすぐに駆けつけてくれるものでもないだろう。


 

 ――仕方ないな。

 

「下がってください、カリーナさん。僕がこの人達の相手をします」


 僕は前に出る。


「ええ? 無理しなくたっていいよ。アタシだってこんなうすのろには負けないし、言っちゃなんだけど、アンタはどう見たって戦士って体つきじゃないよ?」


 カリーナが怪訝な顔で僕を見るが、別に見栄だとか義務だとか、そんな感情で動いてるわけじゃない。

 これは純粋な損得だ。

 100パーセントこの三人に勝てると、僕が確信したからに他ならない。

 カリーナが一人で戦えば、勝つにしてももう二発三発は殴られそうだった。


 なら、怪我の心配がいらない・・・・僕の方がいいだろう。


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