第115話 事後処理②

「ところで……。この者たちは?」


 ハート様は首輪をした集団に視線を向けた。


 さて、どうしたものか……。正直、彼等に直接何かされたわけじゃないからなんとも思ってないんだよなぁー。まあ、逃してまた悪いことされるのも困るんだけどね。


 本当のこと言うとエルザさんも嫌いじゃないし、すご〜く優秀だから、彼女さえ良ければ執事を続けてほしいぐらいだ。首輪があるからもう私を暗殺することも出来ないだろうしね!


 私が悩んでいると、メリィちゃんが私の肩を叩いてパチンとウィンクをした。


(私に任せろってことかな?)


 私が了解の意味を込めて軽くうなずいた。


「彼等はチカの新しい使用人達ニャ!」


「使用人ですか? それにしては面白い格好をしているようですが……。そう。まるで暗殺者のような」


「ニャッ!? そ、それは色々と事情があってのことで……」


 ハート様の鋭い指摘を受けて、口ごもるメリィちゃん。


(メリィちゃん。ここからどうするつもりなんだろ? ハート様って結構鋭いから下手な嘘ついたらまずい気がするけどなぁー……)


 私がそんなことを考えながら静観していると、メリィちゃんが横目でチラッと私を見た。


「く、詳しいことはチカが説明するのニャ!」


「ええっ!?」


(ちょっと!? さっきの任せてアピールは一体なんだったの!? いきなり私に振られても困るんだけど!!)


「そうですか。それではチカ。この方々は本当に新しい使用人で間違いないのですか?」


「えーと。それはそのー……。駄目かな?」


 私の返答を聞いて、ハート様はキョトンとした顔で私を見つめた。


「ぷっ! ふふふっ……! そうですか。いえ構いませんよ。私としたことが余計なことを聞いてしまいましたね」


 口元を押さえてクスクスと肩を揺らすハート様を見て、兵士のひとりが声を上げた。


「陛下っ!! こいつらは恐らく……」


「黙っていなさい」


「し、しかし……」


「聞こえませんでしたか?」


「…………」


 威厳に満ちたハート様の態度と言葉に、押し黙る兵士のおじさん。


 ハート様はカップを口元に運ぶと、軽く溜息をついてから私の方を見つめた。


「うちの兵士がごめんなさいね。伯爵家が雇っていた黄昏と呼ばれる組織の捜索が難航しているせいで少し気が立っているの」


「い、いや全然大丈夫だから気にしないで! 早く見つかるといいね!」


「ふふっ、そうですね……」


 ハート様は首輪をつけた集団を少しの間、じーっと見つめてから、私に向かってニコッと微笑んだ。


「……もし黄昏のメンバーを見つけたら私に教えてくださいね?」


「あい……」



 ◆◇◆◇



 結局あの後は特に重要な話もなく、少しゲームの話しで盛り上がった後ハート様は王城へ帰っていった。


 ゲームを楽しんでくれてるみたいでホッとしたよ。てかあれ絶対バレてたよね? 


 んー、まあいっか! なんで見逃してくれたのかは少し気になるけど、せっかくハート様が見て見ぬふりをしてくれてるんだし、お言葉に甘えることにしよう!


 それにしてもメリィちゃんはなんであんなこと言ったんだろ? 理由もなく思いつきだけで何かを決めるような性格でもないしなぁ……。


 私はメリィちゃんの方へ顔を向けた。


 メリィちゃんは真剣な表情でジョンさんと何かを話している。


 んー、真面目な話ぽいし、後にしたほうがよさそうかな?


「チカさーんっ!!」


 メリィちゃん達の様子を眺めていると後ろからアージェさんの声が聞こえてきた。


 後ろを振り返ると、アージェさんが目をキラキラ輝かせながら私の両肩をガシッと掴んだ。


「あんな親しげに陛下と話せる関係だったんですねっ!! さすがチカさんです!!」


「あ、ありがと」


「あぁ〜……。妖精との契約。王族との交流。大迷宮への冒険。そして悪い貴族との戦い! まるで幼き頃に読んだ勇者様の絵本の世界に迷い込んだ気分です……」


 うっとりした顔で遠くを見つめながらそんなことを言いだすアージェさん。


 まあ、その勇者様は最終的に王族に暗殺されてるんだけどね……? アージェさんは早く現実に戻って来たほうがいいと思う。


 アージェの様子をみて、チカは呆れ顔で大きな溜息をついた。


「チカ。ちょっと今いいかニャ?」


「あっ、うん。大丈夫だよ?」


「さっきはありがとニャ!」


「ありがとニャっじゃないよ!! 急に話を振られてすごく困ったんだからね!?」


「ニャハハハ! ごめんニャ! 陛下もチカのお願いなら聞いてくれると思ったのニャ!」


「まったくもうっ!! ……それで? なんであの人達を使用人に?」


「そんな勿体無いことするわけないニャ!」


「えっ? じゃあどうするつもりなの?」


「ふふふっ! 私にいい考えがあるのニャ! 全部私に任せておくニャ!」


 メリィちゃんはニンマリしながら得意げに胸を張ると、自分の胸をポンっ!と叩いた。


「あ、あのメリィさん!! 私にも何か手伝えることはありませんか?」


「おーっ! ちょうどよかったのニャ! 私からもアージェに頼もうと思ってたところニャ!」


「おーっ!! ぜひ私に任せてください! なんだってやり遂げて見せます!」


「さすがなのニャ! チカ! アイツらに私達の命令に従うように言ってほしいのニャ!」


「う、うん」


 私はメリィちゃんに言われた通り、首輪をつけた人達に二人に従うように命じた。


「さぁー!! アージェ教官! 私についてくるのニャ!」


「はいっ!!」


「き、教官......? ねえメリィちゃん! 本当に大丈夫なんだよね!?」


「もちろんニャっ!! チカは気にせずゆっくりしてるといいのニャ!」


「そうですよ! 私達に全部任せておいてください!」


 ふたりは私に笑いかけながらそう答えると、首輪をつけた人達を連れて意気揚々と食堂からでていった。


「本当に大丈夫かな……?」

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