第68話 消滅と絶叫
ブルードラゴンはチカが立ち上がったことに気がつくと、怒り狂いながら口を大きく開いた。
「また氷のブレスがくるニャッ!!」
「まずいの......」
「シィーちゃん?」
シィーは顔を恐怖に染めて身体をガタガタと震わせた。
「さっきチカの傷を治すのに力を使いすぎて、防御結界を張るだけの精霊力が残ってねえのッ!!」
「そんなッ!? なんとかできないのかニャ!」
「無理なのッ!!」
ブルードラゴンは体を大きく震わせると、凄まじい咆哮をあげながら氷のブレスを放った。
『グオォォォォ――ッ!!』
物凄い轟音とともに、氷の粒子がキラキラと光を反射させながら凄まじい嵐のように巨大な白い渦を巻いて、とんでもない速度で迫ってくる。
「マリーッ!!」
「んーッ!!」
「もう終わりなのーッ!!」
メリィはマリーを引き寄せて、庇うかのように強く抱きしめた。
その場にいた全員が死を予感し、目を強く瞑った。
────「だいじょうぶ。」
聞き慣れた声が聞こえた。
次の瞬間。全員の足元に魔法陣が描かれ、魔法陣から溢れるまばゆい光が天に立ち昇り、瞬く間に光の壁が周囲に形成されていく。
「ニャっ!?」
「こ、これは......!?」
氷のブレスが光の壁に触れた瞬間、光の粒子になって霧散し消滅していく。
「なっ......!!」
「シィーちゃんがやってくれたの?」
「ち、違うの。私じゃないのッ!! 触れた魔法が消滅する防御魔法なんて見たことも、聞いたこともねえのッ!!」
「じゃあ一体だれが......?」
「可能性があるとしたら......」
シィーは後ろを振り返りチカを見つめる。
「チカ。いま何をしたの?」
「ふふふっ。魔法でみんなを守ってあげたのよ?」
「あの魔法はなんなの? 触れたものを消滅させる魔法なんて......。そんな魔法が存在するわけねえのッ!!」
チカはニヤリと口元を歪める。
「ふふふっ。アハハハハッ!!
「なッ!? そ、そんなことが......」
シィーはその事実に驚愕し、顔を強張らせ言葉が途切れる。
ありえないの......。
人間にそんなことできるわけがねえの。
おもわず唾を飲み込む。
目の前にいる見慣れてるはずの猫耳パーカーを着た少女が、全く別の得体のしれないナニカに見えて仕方なかった。
「.....貴女は誰なの? チカじゃねえの」
「ふふふ。それは内緒♪」
チカは唇に指を当てて、悪戯っぽく笑いながらゆっくりとブルードラゴンのもとへ歩きだした。
『グオォォォォ──ッ!!』
ブルードラゴンは咆哮をあげながら、威嚇するように腕を振りあげて鋭い爪で地面をえぐる。
チカは氷のように冷たい眼差しでブルードラゴンを睨みつけた。
「うるさい」
そう言うとブリュナークの漆黒の刃をブルードラゴンへ向けてかざした。
次第にチカの周囲が光に満ち溢れていく。
光の粒子が光線を描きながら漆黒の刃に収束し、まばゆい光が周囲を明るく照らした。
「──もうさっさと消えて」
漆黒の刃が雷鳴ともに真っ白な閃光を発すると、巨大な光線がブルードラゴンへ向けて放たれた。
光の粒子と稲妻を周囲に纏わせながら、物凄いスピードでブルードラゴンを飲み込んでいく。
『ギュグボオォォォォ.......』
光がおさまるとポカーンと大きな穴のあいた迷宮の壁だけが残され、ブルードラゴンは跡形もなく消滅していた。
「なっ......。い、いまのはなんなの!? なんてデタラメな威力なの!?」
「チカ......?」
チカはシィーとマリーを無視して、ジェーソンとレオンの方へ向かって歩きだす。
ジェーソンとレオンは気を失って地面に倒れていた。チカは二人の頭を蹴り上げて目を覚まさせる。
「イテッ!! な、なんだ!? なにが起こったんだ!?」
「ぐっ! ここは? 一体なにが......」
二人は状況に戸惑いながら身体を起こして、辺りを見渡す。
「おい! クソガキ! なにがどうなってやがる!!」
「お、お前。なんで生きている? 確かに心臓を貫いたはずなのにっ!!」
ジェーソンはレオンの言葉にハッとして青ざめた表情でチカを見つめた。
「ふふふっ。おまえらこの子にこんな傷をつけて、タダで済むと思うじゃねえぞ?」
「あっ? な、何を言ってやがんだ?」
「ち、違う!! 誤解なんだっ!!」
チカはブリュナークの刃先を二人に向けた。
「ひっ!! やめろ何をするつもりだ!!」
漆黒の刃が真っ白な閃光を発すると、稲妻を纏った光線が放たれた。
「ぎゃぁああああぁぁッ!!」
「やめぇええええッ!!」
光線に触れた二人の両手足が光の粒子となって霧散し消滅していく。
二人はあまりの激痛に顔を歪めながら絶叫し、地面をのたうち回る。
チカは冷たい視線で彼等を見下ろしながら、口元をニヤリと歪めた。
「アハハハッ!! これから死ぬまでそうやって、地べたを這いつくばって生きていきやがれっ!」
「ぐぅぅぅ!! 絶対に復讐じてやるぅ!」
レオンは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、殺気だった目つきでチカを睨みつけた。
「ぷっ! アハハハハッ!!」
「笑うなぁ! 何がそんなにおかじぃんだぁ!!」
「言っとくけど、何をやってもアンタ達の手足はもう二度と再生しないわよ? そんな身体でどうやって復讐するつもりなの?」
「へ...? そ、そんなの嘘だッ!!」
「アハハッ!! じゃあせいぜい頑張ってみれば? ぜーんぶ無駄だけどね」
チカは馬鹿にしたように鼻で笑うと、レオン達から視線をはずしてシィー達のいる方へ歩きだした。
「ぞんなの嘘だあああぁぁぁぁッ!!」
レオンの絶叫と咽び泣く声が部屋中に響き渡った。
一部始終を見ていたシィーとマリーは微かに震えながら、怯えた表情でチカを見つめる。
「あ、あいつに言ってた事はホントなの? そんな魔法は存在しねえはずなの」
「ふふふっ。本当よ?
チカはニッコリと微笑んだ。
──コイツはあんなに残酷で凄惨なことを彼等しておいて、どうして笑えるの?
シィーはチカの微笑みに恐怖と嫌悪感を感じて、顔を引きつらせる。
「あ、貴女はこれから私達をどうするつもりなの?」
「ち、ちか......?」
「マリー。こいつはチカじゃねえの......」
そんな中メリィだけは怯えることなくチカを見つめていた。
「んー! 私はそんなに悪い感じはしないんだけどニャー。チカは無事なのかニャ?」
チカは嬉しそうにニコニコした笑みを浮かべながらメリィにゆっくり近づいていくと、肩を軽くポンポンと叩いた。
「ふふふっ......。この子のことお願いね?」
「ニャっ!?」
チカはそう言うと、意識を失ってメリィにもたれかかるように倒れ込んだ。
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