第60話 メリィの災難
マリーメリィ商会
従業員兼執事:ジョン視点
「マリア。チカ様をお部屋に案内してもらえますか?」
「かしこまりました。チカ様。2階のお部屋へご案内致します。どうぞこちらに」
「うん。マリアさんありがと!」
マリアはチカ様を連れて階段を上っていった。
二人の背中を見送り、後ろにいるマリーお嬢様の方へ振り返る。
「マリーお嬢様。大丈夫ですか?」
「ん......。少し一人にしてほしい」
「かしこまりました......」
マリーお嬢様は思い詰めた表情で階段をゆっくりと上がっていった。
ジョンはギルドでの出来事を思いだしておもわず溜息をついた。
「はぁ...。大丈夫なわけがないですね。もう少し気の利いた言葉をかけるべきでした」
窓から外を眺めながらメリィお嬢様のことを考える。
中層を攻略するなら大規模なパーティーを組む必要があることはメリィお嬢様もご存じのはず。......そうなるとやはり転移トラップにかかり救助を待っている可能性が一番高い。一緒にAランク冒険者達を連れてるのがなによりの救いか......。
「食料のことを考えると、もう一度ギルドに行って日程の交渉をする必要がありそうですね」
旦那様に続いてメリィお嬢様まで失うわけにいかない。もうあんな想いはたくさんだ。
念のためマリアに書き置きを残して、私はは冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドの受付の女性に依頼の報酬金額を上げることを伝える。
これで早く捜索隊に参加する冒険者が集まるといいのですが......。
「お待たせ致しました。しかし本当によろしいのですか?通常の捜索依頼の2倍の報酬になりますが......」
「もちろんです。メリィお嬢様の命にはかえられません」
「かしこまりました。冒険者が集まり次第すぐに知らせますね」
「はい。どうかよろしくお願い致します」
ギルドから外にでると辺りはすっかり暗くなっていた。
夜風がそっとジョンの肌を撫でる。
「帰ったらマリーお嬢様に報酬金額の件をお伝えしないといけませんね」
私は真っ直ぐ拠点に戻ると、マリーお嬢様の部屋に向かった。
—— トントン。
「マリーお嬢様。少しお時間よろしいでしょうか?」
ドアを叩いてみるも反応がない。
お休みになられたのだろうか?
「いや、まさか!? ......失礼致します」
私は嫌な予感がしてドアをそっと開けた。
布団の中にいるマリーお嬢様の膨らみが視界に入って、ほっと胸を撫で下ろす。
静かにマリーお嬢様の部屋をでて居間のテーブルに腰掛けると自然に溜息が漏れる。
「ジョン様。おかえりなさいませ」
「ただいまマリア。マリーお嬢様の様子はどうでしたか?」
「はい。チカ様と早めの夕食を食べられた後にすぐお休みになられました」
「そうでしたか。ふむ......。念のためマリーお嬢様が一人で無茶をしないように部屋の前で見張っておきましょう」
「ジョン様は無理をしすぎです......。旅の間も見張りであまり寝てないじゃないですか」
「しかし......」
「私が見張っておきますので、どうか今日はお休みください。ジョン様まで倒れてしまったら、もっと大変なことになりますよ?」
マリアは心配そうな表情で温かいコーヒーが入ったマグカップを私に差し出す。
「ふぅ......。マリアの言う通りですね。ではお言葉に甘えて、私も今日は休ませてもらいますね」
「はい! ぜひそうしてください」
マリアはそう言うとにっこりと微笑んだ。
メリィお嬢様......。すぐに助け行きます。どうかそれまで無事でいてください。
———
漆黒の大迷宮 -71層-
メリィ視点
魔道具でテントの周りに結界を張って、救助を待ってからすでに3日。冒険者達をこれからどうすべきかずっと揉めていた。
「もう食料も残り少ない。上の階層を目指すべきだ!」
「俺もリーダーに賛成だ!ビビってる場合じゃねえぞ!」
「いえ救助を待つべきです!! どんな危険な魔物がでてくるか分からないんですよ!? 私達だけじゃ無理です!!」
いま私達は決断を迫られていた。
このままここで救助を待つか、階層を上って転送魔法陣のある部屋を守護している魔物を倒して帰還するか。
「はぁ......。まさかこんな事になるとはニャ」
メリィは焚き火の前に座って暖まりながら、ぼーっとブルーに彩られた洞窟の天井を見つめた。
私はここで死ぬかもしれない......。そう考えただけで身体の震えが止まらない。
「もう一度マリーに会いたいニャ......」
——遡ること3日前。
転移魔法で王都にきた私は王都のギルドで冒険者達と合流して、その日のうちに漆黒の大迷宮に向かった。
「ここもくるも久しぶりだなあ! 今の実力でどこまでいけるのか、今から楽しみで仕方ないぜ!」
ジェーソンは大迷宮の入り口を見つめながら豪快に笑う。
「ふ、ジェーソン。君は依頼のことを忘れてないかい? 今回の目的は伝説のコンバートリカバリーのスクロールだ」
「わかってるよ! だが本当にそんな物がここにあるのかあ?」
「さあ? だが依頼は依頼さ。メリィ嬢。私達は中層間際まで探索すればいいんでしたよね?」
レオンは前髪を弄りながら爽やかな笑顔で私をを見つめる。
「その通りニャ! 私は転送魔法陣のある部屋を攻略した時にでる宝箱が怪しいと考えているニャ!」
「ふぅ。確かにそれが一番可能性が高いでしょうね。じゃあさっそく行きましょうか」
「おう! 腕がなるぜ!!」
迷宮の攻略は順調に進んでいった。
さすがAランク冒険者パーティの砂漠の風だ。マリー待ってるニャ。すぐお姉ちゃんが治してあげるニャ......。
「さてそろそろ10階層の守護者のいる部屋ですね。メリィ嬢は退避して見ていてください。」
「了解ニャ!」
守護者のいる部屋に入ると、中央の地面に魔法陣が浮かびあがり、黒色の狼が姿を現した。
「グルルル!!」
「ふぅ。なんだブラックウルフか。カノン魔法で援護を頼む。いくぞジェーソン!」
「おうよ!」
「わかったわ! 援護はまかせて!」
私は危なくないようにブラックウルフから一番遠い壁まで下がった。壁に寄り掛かりながら砂漠の風の戦闘を見つめる。
カノンが後方から炎魔法でブラックウルフの進路を妨害し、ジェーソンとレオンがブラックウルフを左右から切り裂く。
「キャンッ!!」
ブラックウルフが悲鳴をあげて地面に倒れると、光の粒子になって消えていった。
「あっという間に倒しちゃったニャ! さすが砂漠の風ニャ!」」
再び中央に魔法陣が浮かびあがり宝箱が出現する。
これで出てくれたら楽なんだけどニャー......。
—— 次の瞬間。
「ニャッ!?」
突然、メリィが寄り掛かっていた壁が消失。メリィは背中から地面に勢いよく倒れた。
慌ててカノンがメリィに駆け寄っていく。
「メリィさん! だ、大丈夫ですか?」
「いたたっ......。平気だニャ。けど一体なにが起こったのニャ?」
辺りを見渡すと、部屋の中央に宝箱が一つだけポツンと置かれていた。
「......まさか隠し部屋なのかニャ!?」
「はい。どうやらそのようですね。私もこんな小部屋があるなんて初めて知りました。」
レオンとジェーソンも守護者の部屋の宝箱を回収して、小部屋の中に入ってくる。
「おいおい!リーダー。こりゃ大発見じゃねえか?」
「ああ。こんなところにまだ隠された部屋があったなんてね」
「じゃああの宝箱にお目当てのスクロールがあるんじゃねえか?」
ジェーソンは宝箱に近づいていく。
カノンがそれに気づき慌てた様子で叫んだ。
「待ってジェーソン!
「うおっ!? なんだこりゃ!?」
「ニャ!?」
突然、地面に小部屋を覆うほどの巨大な魔法陣が浮かびあがり、目を開けてられないほどの激しい光に包まれた。
「お、おい!! みんな目を開けてみろ!!」
「こ、これは......」
レオン達の声に気づいてゆっくりと目を開けると、幻想的な光景が目の前に広がっていた。
洞窟の至るところにある青光石がブルーの光を発して、洞窟内を真っ青に彩っている。
「そんな......。転移トラップだったの?それもこんな階層見たことも聞いたこともないよ。まさか......最下層なの......?」
カノンが真っ青な顔で身体をガタガタ震わせながら消え入るような声で呟いた。
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