第56話 王都に向かって出発するよ!②


 翌日。

 朝食を食べてから王都に向かって出発する。

 日が昇りきる前なので辺りもまだ薄暗い。


「ふぁ~。私はまだ眠いの。」


 シィーは眠そうに欠伸あくびをすると、私の猫耳パーカーのフードに潜りこんでいく。

 私の頭の上で寝るのホント好きだよね。


「ねえマリーちゃん。王都までどれくらいでつくの?」

「ん。3日ぐらい。」

「そっかー。」


 じゃあ王都までまだ遠いなあ。

 馬車の中にずっといると暇で仕方ないんだよね。

 加護で元の世界のゲーム機をつくれても電気の問題もあるしなあ~...。


「チカなに考えてるの?」

「ねえマリーちゃん。この世界に電池とかってある?」

「ん?デンチ?どうゆうの?」

「んーと...。」


 改めて説明するってなると難しい。

 電気が溜めてある小さい筒って言えばいいのかな。

 でもあれ筒ではないよね?


「電気が溜めてあるこのぐらいの大きさのものなんだけど。」


 指先で電池の大きさをマリーちゃんに伝えてみる。


「デンキって?」

「雷みたいな感じかな?」

「ん...。ごめん。聞いたことない。」


 やっぱりないか。

 魔力と魔石でどうにかしちゃってるもんね。

 この世界にないなら加護の力でつくれそうだけど、一個だけ電池があってもなんの役にも立たない。


「ん。そのデンチをつくりだすことはできそう?」

「できる思う。でも一個だけあっても仕方ないんだよね。」

「つくってみて?見てみたい。」

「ん?いいよ?」


 どうせならコンビニやスーパーでよく見かけるパックになってる物を思い浮かべてみるかな?

 ジュースのことを考えると、それでもいける気もするし。


 手のひらを広げる。

 手のひらの上に単3電池をつくりだすイメージで思い浮かべる。


 問題なく単3電池のパックをつくりだすことができた。


「おっー。これがデンチ!」


 マリーちゃんは瞳をキラキラ輝かせて電池を手に取って、色々な角度からまじまじと見つめる。


 初めて出逢った時のマリーちゃんみたい。

 あの時も私の服をずっと見てたもんね。


「んー...。二人ともうるせえの!いったいなんの騒ぎなの?」


 シィーは眠たそうに瞳を手で擦りながら、フードから顔をだす。


「ごめん。でもこれ見て?」

「おー!!それは何なの?初めて見たの!私にも見せるの!」

「ん!チカが作ってくれた。一緒にみよ?」


 二人は電池を見ながらまるで子供のようにはしゃいでいる。


「ねえチカこれもらってもいい?」

「ん?いいけど何に使うの?」

「同じものが作れないか試してみたい。」

「おー!それは私も助かるよ!それにできればコレに電気を貯めたいんだよね。」

「ん?どれ?」


 今度は両手を広げて私が持っていた最新の携帯型ゲーム機、充電ケーブル、ダンジョン探索を楽しむタイプのゲームソフトを思い浮かべた。


「おおー!!チカそれはなんなの!」

「ちょっと待ってね。」


 試しに電源ボタンをONにしてみる。

 おー!バッテリーも満タンだ。

 私が元の世界でゲーム機やスマホをこまめに充電するタイプだったからかな?


「すごいの!! 動いてるの!!」

「ん! これはすごい。それに綺麗。」


 二人は身を乗り出して、食い入るようにゲーム画面を見つめている。


 初めて見るとそうなるよね。

 小さくて覚えてないけど、きっと私にもこんな時期があったんだろうなあ...。


「ねえチカ!これはなんなの?早く教えてほしいの!」

「ん!私も気になる。」

「ふふふっ!これは私の世界にあった遊ぶ道具だよ!」

「どう遊ぶの!!やってみたいの!」

「ん!私からもお願い。教えて?」


 シィーは私の肩でピョンピョン飛び跳ねて大興奮だ。

 マリーちゃんは表情にはあまり出ていないけど、口調からワクワクしてるのが私にも伝わってくる。


「教えてもいいけど喧嘩とかしないで仲良く遊ぶんだよ?」

「もちろんなの!やっぱりチカについてきて正解だったの!」

「ん!約束する。」


 二人に遊び方と操作方法を教えてあげた。

 はじめは戸惑っていたけど、二人ともすぐ操作を覚えた。

 

「あっー!そっち行ったら危ないの!」

「ん。大丈夫。このアイテムを使う。」

「その手があったの!!マリーさすがなの!」


 相談しながらとても楽しそうに遊んでいて凄くかわいい。

 それに二人がずいぶん仲良くなった気がする。一緒に遊んでるからかな?


「あっ。あまり長時間遊んでると中の電気なくなって遊べなくなっちゃうから気をつけてね?」


「それは困るの!」

「それは困る。」


 うん。息までピッタリだ。

 だけど私にはどうしようもない。

 電気をつくりだす方法はなんとなくは分かるけど詳しいわけじゃないし、コンセントぐらいしか触ったこともないしね。


「チカ!!なんとかできないの!?」

「わわっ!」


 シィーが凄いスピードで私の目の前まで飛んできた。


「こ、このコードを使って電気をゲーム機に入れることができればなんとかなると思うよ。でもあまり強い電力でやると壊れちゃうから注意してね。壊れたら私じゃ直せないし。」


「ん。私が頑張る。電気は雷魔法で応用できるはず。」

「マリー待つの!その前に私がティターニア様にお願いして増やしてもらうの!」

「おっー。シィーちゃんいいの?」」

「当たり前なの!!絶対喜んでやってくれるはずなの!」


「えっ。シィーどうやって増やすの?」

「ティターニア様の精霊魔法の秘術でゲーム機を複製してもらうの!!」

「そ、そうなんだ。」


 いやゲーム機に秘術ってどうなの?

 二人とも目が真剣すぎて、なんだか怖いんだけど...。



 日も昇って辺りが明るくなってきた頃、馬を休ませるために一度休憩をとる。

 マリアさんが用意してくれた早めの昼食を食べているとジョンさんが私の方に近づいてきた。


「チカ様すこしよろしいですか?」

「ジョンさんどうしたの?」

「あれはよろしいのですか?」

「んー?」


 ジョンさんが指差した方向を見る。

 さっきまで食事を食べていたはずのマリーちゃんとシィーが、いつの間にか楽しそうにゲームで遊んでいた。

 二人の後ろで控えているはずのマリアさんまでこっそりゲーム画面を覗き込んでいる。


 あの二人なにやってるの!?


「あんなものこの世界には存在しておりません。秘密にされたいならチカ様も十分にご注意ください。」

「えっ!?なんでジョンさんがそのことを知ってるの?」

「その...。馬車の中での会話は運転席にいる私達にまで聞こえておりましたので...。」

「ええええっ!?」

「もちろん私達は口外するつもりはございません。ご安心ください。」


 ジョンさんにお礼を言ってから、二人には外でのゲーム禁止令をだした。


 誰が見てるか分からないからね!

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