第53話 コンプリートリカバリーの真実
「くっ!間に合いませんでしたか...。」
「いまのはなに?」
「転移魔法でございます。」
「転移魔法!?」
そんな便利な魔法もあるんだ。
さっきいた冒険者のお爺さんかな?
「メリィお嬢様はすでに王都にいらっしゃるはずです。なんとかこの話し合いで止めたかったのですが...。」
ジョンさん悔しそうに唇を噛みしめる。
それなら私にも教えてよ。
一緒にメリィちゃんを止めたのに。
「ん?」
後ろから服の袖を引っ張られたの振り返る。
マリーちゃんが苦しそうな表情で私の袖をギュッと握りしめている。
「チカお願い。一緒に王都にきてほしい。」
「マリーお嬢様!!」
「ごめん。ジョン爺。お姉ちゃんをほっとけない...。」
「マリーちゃん。気持ちは分かるけどそんな状態じゃ無理だよ。今も苦しいんでしょ?」
「ん...。大丈夫。魔力回復ポーションを飲めばしばらくは落ち着く。」
それ大丈夫なの?
そもそもそのポーションの過剰摂取が原因のはずだよね?
「マリーお嬢様いけません!!本当に死んでしまいますよ!?」
「ん...。でもさっきお姉ちゃんを止められなかった私が悪いから。」
マリーちゃんは猫耳パーカーのポケットから魔力回復ポーションの瓶を取り出す。
慌ててマリーちゃんの腕を掴んだ。
「ごめんマリーちゃん。それは私も賛成できない。飲ませるわけにはいかないよ。」
「でもこのままじゃお姉ちゃんが...。」
突然、右肩を軽く叩かれる。
「んんーっ!!」
シィーが口を尖らせて不機嫌そうにジッーと私を見つめている。
あっ...。すっかり忘れてた。
「わ、わかったよ!今から二人に説明するからもう少しだけ待ってて。」
マリーちゃんは不思議そうに私を見つめて首を傾げる。
「チカ。さっきから誰と話してるの?」
「私も先ほどから気になっておりました。」
きっと二人とも驚くよね。
妖精はめずらしいみたいだし。
どこから説明しようかな...。
「二人とも驚かないで聞いて...」
『もう我慢できねえの!!ぜんぶチカが悪いの!」
「「えっ!?」」
シィーは私の右肩から飛び立つと、頬を膨らませながら私の言葉を遮った。
二人は表情が凍りつき、目をパチパチさせて空中を浮遊するシィーを見つめている。
ジョンさんなんか口が開きっぱなしだ。
アージェさんと同じ反応だ。
もう精霊魔法まで解除してるみたい。
「ぷっ。アハハハっ!二人ともおもしろい顔なの!」
シィーは二人を指差しながらお腹を抱えて笑い転げている。
なるべく二人を驚かさないように、説明しようとしてたのに台無しだよ...。
「チ、チカ様。この方は...?」
「おー!すごい。妖精?初めてみた。」
二人にはアージェさんと同じように加護と神気のことは伏せて経緯を説明をした。
まだ誰かに本当のことを全て話すのはこわいからね。
「そんなことがあったのですか。妖精祭のことは存じておりましたが、まさか妖精が本当に村にいるとは...。」
「ずっといたわけじゃないの!お祭りのときは見てて楽しいし、果物もたくさんくれるから遊びに行ってただけなの!」
「そうだったのですね...。」
ジョンさんは興味深そうにシィーの話を聞いている。
私も知らなかった。
あの村にずっといたわけじゃなかったんだ。
「チカ。はやく王都に...。」
「マリーちゃん!?」
マリーちゃんは足元をふらつかせて床に膝をつく。
慌ててマリーちゃんに駆け寄る。
「やっぱりこんな身体で無茶だよ。」
「ん...。でもお姉ちゃんが...。」
メリィちゃんのことが本当に大事なんだね。
姉妹っていいなあ...。
ふと元の世界にいる妹のことを思い出す。
舞は元気にしてるかな...。
シィーは何かを思い出したかのようにハッとして目を見開く。
「思い出したの!大迷宮にいってもスクロールなんてないの。無駄なの!」
「なっ!シィー様。それはどういうことでしょうか?」
「こういうことなの!」
シィーが小さな手を軽く上げてマリーちゃんに向けてかざすと、淡い光がマリーちゃんを包み込んでいく。
包み込んでいた光が消えるのと同時にマリーちゃんが何事もなかったかのように立ち上がる。
「マ、マリーお嬢様?」
マリーちゃんが後ろに控えていたジョンさんの方に振り返る。
「ん。すごい。治ったみたい?」
「おおおおっ...。」
ジョンさんの瞳から涙が溢れる。
ハンカチを取りだして涙を拭いながらマリーちゃんのそばまで近づいていく。
私まで思わず目が潤んじゃったよ。
でもシィーはなにをしたの?
「ふふふっ!私に感謝するといいの!」
「ん!妖精さんありがと。」
シイーは得意げに胸を張る。
ジョンさんはシィーに深々と頭を下げた。
「シィー様。ありがとうございます。ですが今のはいったい...?」
「これがコンプリートリカバリーなの!」
「えっ!いまのがそうなの?」
「そうなの!精霊魔法のひとつなの。だからスクロールなんてそもそも存在しないの!」
「なっ!」
私は驚いて思わず目を見開く。
じゃあメリィちゃんが大迷宮に行く必要はなかったってことだよね。
「なんでもっと早く私に言ってくれなかったの?言ってくれてたらメリィちゃんを止められたのに。」
「私のせいにするんじゃねえの!ぜんぶチカが悪いの!」
「えっ!それはどういうこと?」
シィーは呆れたように大きく溜息をつく。
「私は魔法の話が出たときにチカに声をかけたの!でもチカが話を聞かなかったの!」
「あのときかあ!!てっきりジッとしてるのが我慢できないのかと思ってたよ。」
「そんなわけねえの!チカは失礼なの!」
シィーは腕を組んで頬を膨らませながらそっぽを向いた。
私に教えてくれようとしてたのか。
ちゃんと最後までシィーの話を聞いとけばよかった...。
「反省したほうがいいの!」
「うっ...。ごめんね。」
マリーちゃんがゆっくりと近づいてくる。
私の手を握りながらニコっと微笑んだ。
「ん。チカのせいじゃない。気にしないで?私を治してくれてありがと。」
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