第14話『都島区 毛馬水門』


大阪ガールズコレクション:14


『都島区 毛馬水門』     





 新任にして四年二組の担任になった。




 本来なら三年生から受け持って持ち上がるんだけど、前任の香住先生が転勤になってしまい、急きょ四年から受け持つことになった。


 初の担任でオロオロしている間に十一月。


 学期末の成績処理を除けば耐寒ウォーキングだけが大きなイベント。


 実施要項を見て「あれ?」っと思った。


 ゴール地点が『毛馬水門』となっているのだ。


 場所に問題はない、自分が小学生だったころも耐寒行事のゴールはここだった。


 コースの半分以上が淀川の堤防道で、見晴らしはいいし、交通事故の心配もないし、学校からの距離もほどほど。


『毛馬水門』という呼び方に違和感がある。


 学年主任の門田先生に聞いてみると「いらん連想する子ぉがおるからねえ、こんなことでもこじれるとセクハラとか言われるし、まあ『毛馬水門』いうのが正しい表記やしねえ」という返事。


 ま、いいや。


 新卒のペーペーだし、何事も勉強。それ以上の異議はさしはさまず本番を迎えた。




「うっわ!」「ええ!?」「おもしろー!」「あはは」「きゃはは」「ハズーーっ!」




 予想通り、一時間かけて到着すると、あちこちから驚いたり面白がったりする声が上がる。


 だって、水門の門扉に『毛馬こうもん』と大書してある。


 小学生と言うのは下ネタが大好きだ。


 主に男子が騒いで、女子は眉をひそめながらも面白がっている。


 振り返ると門田先生のクラスでも騒ぎかけたが「セクハラ発言はいけません!」と押さえ込んでいる。


「みんな『こうもん』って、漢字で書けるう!?」


 と言うと、ペチャクリながらも集中する。


「書ける!」「わから~ん」「せんせ、下品!」「どのこうもん?」


「じつは、先生が知ってるだけでも、これだけあるぞ!」


 兼て用意のフリップを掲げる。




 校門 黄門 口問 肛門 閘門 後門 坑門  




「これ、ぜんぶ『こうもん』なんだぞ」


 へえ!?


 自分たちが話題にして盛り上がった意外にもあるので関心は大きい。


「では『毛馬のこうもん』のこうもんはどれだ!」


 ハイハイハイハイ!


 三回外れが出て四回目に正解。


 正解が出ただけでは終わらない。


「じゃ、ここに書いた『こうもん』の意味分かる人!」


 校門がすぐに分かって、次に黄門、あとは「字の意味から考えて」と言うと、オボロながらも正解が出る。


『前門の虎後門の狼』なんてのも教えてやって、我がクラスは『こうもんブーム』になる。


「せんせ、手すりに掴まって水見てると船に乗ってるみたい」


 女子がロマンチックなことを発見する。


「えらい! 発見したんだね、みんなもやってみ」


 手すりは子どもの目の高さほどもある鉄製で、船に乗っているような雰囲気がある。


 自分が小学生の時にもやって、ちょっとえらい目に遭った。


「う、酔った……」


 ほんの十秒で酔ってしまう。小学生の時から進歩がない。


 子どもたちは平気だ。


 まあ、たまに弱点を見せるのもいいよね。


 真っ青になった私の顔を見て、意外に男子が心配してくれる。


 芝生の上に横になり、見上げた青空は自分が小学生だった頃と同じように青かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大阪ガールズコレクション 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ