第12話『グーグルアース・馬場町・3』


大阪ガールズコレクション:12


『グーグルアース・馬場町・3』  






 これと言って趣味の無いわたしがハマってしまった。




 VRですよ、VR、ヴァーチャルリアリティですよ!


 日本橋で友だちと待ち合わせ。


 ドジな私は、時間を間違えて一時間も早く着いてしまったので、ウィンドショッピングで時間を潰す。


 そこで出会ったのがプレステVR。


 体験会をやっていたので、列に並んで、サメとかジェットコースターのVRをやらせてもらった。


 これはスゴイ!


 感激したんだけど、体験会なので、その場では買えない。


 SONYのお姉さんに販売スケジュールを聞いて、二週間後に数量限定の販売があることを確認。


 当日は年休をとった上で、前の晩から難波のホテルに泊まって(家から電車の乗ったら間に合わない)夜明け前から並んだ。


 行ってビックリ、コアなファンや再販で儲けようと言う転売屋と思しきオッサンたちが並んでいて、初心なわたしには無理かと思ったけど、なんとかゲット。


 その後、もっとスゴイVRがあると知って、オキュラスに手を出す。


 買って愕然、わたしのパソコンはスペックが低くてオキュラスが見れないのだ!


 プレステVRならプレステ4に繋ぐだけで観れるのにヽ(`Д´)ノプンプン!


 


 オキュラスのすごいところはグーグルアースがVRでできることなんだよね。


 世界中のたいていの所に行ける。ニューヨークのタイムズスクエアにもパリのエッフェル塔やシャンゼリゼにも、エジプトのピラミッドにも、富士登山だってできてしまう。


 毎晩、世界のあちこちに飛んで楽しんでいた。


 一年もたたないうちにオキュラス・Sという新製品が出てそれもあっさりゲット!


 解像度が良くなって、画面が明るくなる。数字的に言うと20%ほど向上した。


 新製品に慣れてしまうと、もう一つ前の普通のオキュラスには戻れない。両方置いておくわけにはいかないので、古い方は箱に仕舞った。




 図書室当番に来た田中先生がパソコンを買い替えたいとおっしゃる。




 話をうかがうと、これが同好の士で、グーグルアースであちこち行ってみたいのだとおっしゃる。


 そこで「思い切ってゲームパソコンにしてもませんか?」と聞いてみる。


「いや、ゲームとかはしないから」


「いえいえ、グラボの性能が違いますから」


「グラボって?」


「グラフィックボードって言いまして、高画質の画像を楽しもうと思ったら必須です。グーグルアースだってサクサクできちゃいますよ」


 同好の士が居ると言うのは嬉しいもので、思わず布教してしまい、その場でオークションサイトで中古を見つけて差し上げる。


 女性の中には「中古はちょっと……」という人もいるんだけど、田中先生はお気になさらない。


 嬉しくなって「よかったら、これも使ってみてください」と、使わなくなったオキュラスを差し上げる。VRやらパソコン機材やらで足の踏み場もなかったので、喜んでもらえれば一石二鳥。オキュラスは本体のHMDの他にオキュラスハンマーと呼ばれるセンサーが二つもあったりで箱に戻しても特大のクリスマスケーキの箱ほどの大きさがあって持て余していたのだ。


 ネットオークションに出してもよかったんだけど、見ず知らずのオッサンなんかに使われたんじゃ、なんだか娘を身売りに出す親のようで、田中先生に使ってもらえたら嬉しい。


 布教の甲斐あって、田中先生はVRを喜んでくださった。


「いやあ、高校生の頃の通学路を発見しちゃって、懐かしく歩いているわよ!」


 先生は、女生徒だったころに憧れの先輩が居て、その先輩が乗る地下鉄の隣の車両に乗って後を着けていたそうだ。


「なんだか、そのころに戻ったみたいでドキドキしちゃって(;^_^A」


 女生徒に戻ったように頬を染める先生は、とても可愛かった。


「先輩は、NHK付属劇団の研究生をやってることが分かってね、スゴイと思ったの。ますます声なんかかけられなくなって、週に二度ほどね、馬場町のNHKの近くまで……あ、一応はね、松屋町の自分の家まで健康の為に歩くって、自分に言い訳してたんだけどね(n*´ω`*n)」


「アハハ、で、どうでした?」


「でって……あとを付けただけよ」


「いえ、VRで行ってみて、馬場町とかどうでした?」


「いや、それが……谷四の駅から先には、まだ行けなくって。なんたってVRってリアルでしょ、360度景色が広がってて、ドキドキだって、ほんとに昔のまま蘇ってくるんだもん……」


「アハ、まだ行けてないんですか?」


「う、うん」


「じゃ、図書室のパソコンで下見します?」


「え、図書室の?」


「むろんVRじゃないですけど、わたしもいっしょに居ますし、お茶でも飲みながら」


「う、うん、そうね、岩波さんが付いていてくれたら(n*´ω`*n)」


 とっておきの紅茶を淹れて、司書室のパソコンの前に並んで座る。


 それだけで、ポッと頬を染める先生は、司書室のガラスの向こうでマンガを読んでケラケラ笑っている現役の生徒よりも初々し少女になっていた。



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