第5話『……うん、そうしよう 都島区桜町商店街』


大阪ガールズコレクション:5


『……うん、そうしよう 都島区桜町商店街』  





 おお 大阪にもトシマ区があるんだ。




 思わず笑いそうになった。


 ちょっとブルーな気持ちで『次は天神橋筋六丁目 天神橋筋六丁目 谷町線 阪急線はお乗り換えです……』のアナウンスを聞いていた。


 扉の脇に立っていた大学生風の二人が、路線図を見て天六の次の駅を「としま」と読んだのだ。


 景気づけに天六で降りようと思っていたけど、この二人が『都島』の正しい読み方を知ったら、どんな顔をするだろうかと、そのまま我が町である都島までは下りないことにした。


 都島駅が間近になって車内放送が『次は都島(みやこじま)……』と告げるんだけど、さっきの大学生二人は反応しない。


 おそらく、彼らの関心は次はどこへ行くとか昼ご飯とかの観光客のそれ移ってしまって大阪の『トシマ』には興味を失ったんだ。


 駅に着いて降りる時に「ほんとうはミヤコジマって読むんですよ」とか言ってやりたい気もしたけど、やりません。行儀よく道を開けてくれた二人に微かな会釈をしてホームに降りる。わたしの会釈に反応はない。同じドアから五人も降りたんだから気が付かない……というより、見についた東京のマナーで道を開けただけだから、わたしの会釈など気が付かないだろう。


 やっぱり天六で降りておけばよかった。


 天六には、うちの商店街が失った活気が、まだ十分すぎるくらい残っている。


 商店街の賑わいの中、人の流れを見ながらお茶でもしようと思っていた。今日で最後の運動部みたいなバッグをコインロッカーにぶち込んでね。商店街の賑わいは元気をくれるから。




 我が街は、都島の駅を上がって表通りを東へ二分、ポキッとわき道に入った『桜町商店街』。


 名こそ、隣の天六商店街と同じだけど、規模がね。天六は南北2.6キロもある日本一の商店街。我が桜町商店街は、おおよそ100メートル。天六の1/26しかない。半分ほどは閉めたままなので、1/50といったところだろうか。


 うちは、戦後すぐからの『百合美容室』……だった。


 今でも看板は掛けてるけど営業はしていない。


 アーケードに入ると、子どもたちのさんざめきが聞こえる。


 スーパー横の駐車場に保育所の仮園舎があるんだ。近所の保育所が全面改築されるので、それまでの仮園舎。


 え?


――保育助手募集――


 胸が高鳴った。思わず、そのまま入り口のインタホンを押すところだ。


 時給千円で、園内の掃除や給食の手伝い、保母さんのお手伝い。


 でもね、やっぱわたしは美容師にならなくちゃ。


 首を90度曲げると、我が家の『百合美容室』の看板が見える。


 二代目のお婆ちゃんに万一の事があったら、叔母ちゃんたちとお母さんとで分割相続。


 25坪の店舗兼住宅、分割なんかできない。売ったお金を分けるしかない。そうなったら百合美容室はお終いだ。


 やっぱ、美容師になろう。


 今日で最後と思った美容学校のバッグを揺すりあげる。


 叔母ちゃんたちも「ユッコが四代目になるんやったら、相続放棄してもええねんよ」と言ってくれてる。


 お母さんと折り合いの悪い叔母さんたちだけど、わたしのことは可愛がってくれた。




 ……うん、そうしよう。




 家までの残り50メートルほどをスキップした。




 ※ 桜町商店街は架空の商店街です 


 

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