義足のボーイ・ミーツ・ガール
霜花 桔梗
第1話 転校生は可愛い
朝、わたしは目覚まし時計を見るとニ十分も早く起きた。辺りを見渡すと日射しが部屋の中を明るく照らしている。起き上がり外を見ると空が青かった。
しかし、今日は寝不足である。
眠れない日に限って、朝早く起きてしまった。わたしはダルイ体に麦茶を飲み水分を補給してスマホに目を通す。曜日を確認して朝の支度を始める。
今日は体育があるな……。わたしは少し憂鬱になる。そうそう、黒猫のリーダーにエサをあげて……。名前は分かりやすくと思いリーダーと命名したのある。リーダーは元気良くカリカリのエサを食べるのであった。
おっと、アサガオにも水をあげないと。今年の夏は何を勘違いしたのか、アサガオを育てている。それは純粋な気まぐれであった。
庭に向かうと、淡いピンク色のアサガオが咲いていた。せっかくだ、わたしはスマホで写真に遺すことにした。
カシャ、カシャ。うん、綺麗に撮れた。
ジョローに水を入れて適当にアサガオに水を与える。黒猫のリーダーは茂みに向かって歩いて行く。きっと散歩にでも行くのであろう。
リーダーを見送って部屋に戻るのであった。
そうそう、日常の続きである。鞄の中に真っ白い体育館シューズを入れる。わたしは事情により体育の授業に出た事はない。
その事情とは左足首から先が無いのである。交通事故に合い左足首を切断した。普段は義足で生活しているが激しい運動は出来ないのである。メガネをかけるように義足を付けて部屋を出る。
「健治、ご飯だよ」
洗面所で寝ぐせを直していると母親の声が聞こえる。わたしは返事を返してダイニングに向かう。
「おはよう」
「あら、寝不足?」
「そんなところだ」
簡単な会話をして椅子に座り朝食を食べ始める。この時間はスマホでニュースと天気予報をチェックするのであったそう、最近はテレビを見る機会がめっきり減った。ニュースと天気予報のチャックを終えると時計を見る。
イカン、まったりし過ぎた。わたしは急いで家を出るのであった。向かう先は『清水館高校』である。この町はド田舎なので水田の中に校舎が建っている。
そう言えば、この田舎町に先週から転校生が来ていたな。いつの間にか、このクラスに入ったので存在感ゼロであった。教室内でも席が遠く、このまま話す事も無く終わりそうだ。
そんなことを考えながら夏の太陽を感じてバス停に向かって歩く。しかし、生きる事が憂鬱だな。簡単に説明すると、わたしの人生は今、挫折の中にある。
中三の夏に事故で左足首から先を失い。今にして思えば本当に大切なのは高校受験であった。高校受験の勉強はリハビリでとんざして、入れたのは偏差値の低い公立であった。
T大を目指していたわたしは挫折という感情に支配されていた。朝、起きると無意味な毎日の始まりである。田舎の公立なので大学受験のカリキュラムは無い。だからと言って塾で巻き返す気力は無くなっていた。
バスに揺られて、ただ生きていることの難しさを挫折の中で感じていた。ようやく、高校に着くと昇降口に体育教師が立っていた。昇降口での声掛けは当番で決まっているらしい。
そして、今日の当番は体育教師という訳だ。
「オッス」
その体育教師に勢いよく声をかけられる。ホント今日はついていない。この体育会系のオッサンは苦手だ。
「お、おはようございます」
小声で挨拶を返すがムスっとした表情が返ってくる。ここでビクつくと悪循環だ。少し背筋を伸ばして、わたしは逃げる様にして校舎内に入るのであった。
教室に入ると自分の席に座る。ホームルームまで時間があるな。眠たい目をこすりながら鞄から小説を取り出す。
「隣、大丈夫かな?」
セミロングの艶やかな黒髪にナチュラルメイクの姿は美人と言える女子が声をかけてくる。おやおや、噂の転校生であった。
「あ、はい」
わたしは少し緊張した面持ちで場所を譲り距離をとる。しかし、転校生の女子は、もじもじと何故か距離が近づいてくる。その距離感で感じたのはシャンプーの甘い香りであった。基本女子に免疫のない、わたしには刺激的な距離である。
「わたしの名前は神崎沙織、さおりんと呼んで」
そのさおりんがわたしに何用だ。
「健治くんだったよね、学校の成績が良いみたいだから、わたしに勉強を教えて欲しいの」
この腐った人生だ、この片方無い左足首が疼かない程度に教えてあげるか……。
快諾してさおりんに勉強を教える事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます