第10話 ケース1 女子高校生失踪事件⑨

 私たちは、捕らわれの身となってしまった。

 住宅の二階にある六畳くらいの部屋に、私は縄でぐるぐる巻きに、来世さんは後ろ手に手錠をはめられ、地面に転がされている。

「大人しくしてろよ。あんたは高く売れそうだ」

 ゴリラみたいな男が、私の身体を嘗め回すように眺め、部屋を出て行ってしまった。

 扉が閉じられたとたん、耳に痛い静寂が支配する。

 部屋は、畳が敷き詰められているだけで、他には家具の一つもなく、電気もつけていないので真っ暗だ。窓から差し込む月の光で、ぼんやりとだけど、来世さんの姿が見えた。

 畳の匂いに混じって、血と汗の臭いがする。

 来世さんは、気を失っているようで呼びかけても返事がない。

 ……これは、まずい。

 嫌な感じの汗が、全身からにじみ出た。どうしよう。

 とにかく、身体をねじってみる……けど、全く縄は緩む気配がない。

「もう」

 イライラする。私はどうしていつもこうなのだろう? 考えなしに行動して、何度も友達に迷惑をかけてきた。今回は、来世さんにとても悪いことをした。

「ごめんなさい」

 そう呟いたが、意味なんてないことはわかっている。

 何とかして、脱出しないといけない。

「良いですか? 幸福の精霊に祈りを捧げるのです」

 んん? なんか、妙なセリフが隣の部屋から聞こえる。精霊って言ってるし、ゲームでもやっているのだろうか? ……違う、生身の女性の声だ。それに、

「我らは人の子。精霊様、精霊様、どうか私たちに幸福を」

 何十名もの若い女の声が、一斉に聞こえた。失踪した女子高校生たちだろうか? 学校でもよく唱和するけど、違う。上手く言えないけど、これは怖い唱和だ。

 ――精霊様、精霊様お救いください。

 個人らしさが感じられない、というのだろうか。全員が声を出しているのに、意思が一つしかないように思える。

「今日、あなた方は世界へ旅立ちます。様々なことが起きます。ですが、恐れないでください。幸福の精霊が、最後には必ずあなた方に幸福を授けます。私たちは、幸福に約束された者。世界の誰よりも幸福へ至る資格があるのです」

 ……すっごく反吐が出る。何それ? この女が目の前にいたら、絶対説教してやるのに。馬鹿、バーカ!

「くそったれな話が聞こえるな」

「来世さん! 目が覚めたんですね」

 もぞもぞと、来世さんが身体を起こした。

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