リツイート

昆布 海胆

リツイート

「森下さん結構筋肉付いてきましたね~」

「でもお腹はまだポッコリしてますけどねハハ・・・」


俺の名は森下、何処にでもいる普通のサラリーマンだ。

学生時代は陸上をやっていた事もあり運動には自信があったのだが、社会人になってからは体重が増え続けていた。

これはイカンと数か月前からこのジムに通い体を鍛え直していた。


「後姿は結構決まってますよ!記念に撮影しておきましょうよ」

「え~そうですか~?」

「画像を見て理想の姿を思い浮かべる事で、体はもっと逞しくなるものなんですよ」


プロが言うのだから本当なのだろう、事実筋トレは未来の自分の姿をイメージしているかどうかで大きく結果が異なるってのも聞いた事がある。

俺は少し照れながらも記念撮影を行う事にした。

お腹はまだポッコリ出ているので後ろ姿を撮影する事になったのでボディビルダーが良くする『バック・ダブル・パイセップス』のポーズで記念撮影をする事にした。

両腕を曲げて力こぶを作って後姿を撮影するポーズだ。


「良いですね~そこで息を大きく吸って止めて下さい」


レントゲンかよ?って笑いそうになりながらも全身に力を入れたまま後姿を撮影してもらう。

少々恥ずかしかったが、スマホに残った画像を見て少々見惚れてしまった。


「うん、良い感じですね」


そう言われれば更に良い肉体だと錯覚してしまうのだから面白いものだ。

俺はトレーナーにお礼を言ってジムを後にした。


その日の夜、フトこの画像を誰かに見てもらいたいという衝動が俺に芽生えた。

幸い後姿だけだし、普段来ているスーツ姿からは想像も付かないだろうから特定される可能性も少ない。

そう考えて俺はロム専門だったTwitterに初めての呟きを投稿する事にした。

特に個人情報も掲載していないし、なにより他に投稿する事もないだろうからうってつけであった。

今後顔を隠して色々な筋肉画像をTwitterで掲載するのも良いかもしれないと考えながら俺は布団に潜って寝る事にした。




翌日


「ふわ~・・・ってぇ?!リツイートされてる?!」


朝起きて昨夜上げた呟きがリツイートされている通知が入ってて俺は驚いてしまった。

たった2人、だけど俺は嬉しくなってリツイートしてくれた人にお礼のメッセージを送った。

もういうモチベーションが上がる出来事があれば更にジム通いが楽しくなる、俺はテンション高めに仕事へ向かうのであった。



その日の夜、帰宅してスマホを見れば・・・


「リツイート8件?!」


初めての呟きでいきなり反響が増えていた事に驚き、俺は朝と同じようにリツイートしてくれた人にお礼のメッセージを送ろうとした。

そしたらリツイートされた画像に書かれたメッセージに目が留まった。


『左足首に指が写ってる』


俺の手が止まった。

あまりにも予想外過ぎた文字列に思考が停止したのだ。

そして、3回読み直して画像に視線をやり苦笑した。


「ははっこれ絆創膏だ」


そう、先日新しい革靴を買ったのだが靴擦れを起こしてしまい絆創膏を這っていたのだ。

写真を撮ってもらった時は剥がしていたのだが、粘着部分が残っていたのだろう。

俺はリツイートのお礼と共に、それが絆創膏の残りだと説明してコメントを残して布団に潜った。




翌日


「えぇぇ?!リツイート47件?!」


スマホが通知でいっぱいになっていたので確認したら、リツイートの通知が大量に入っていたのだ。

驚きつつも起きた時間が少し遅く、遅刻するかもしれないと考えた俺はお礼コメント返しは夜にする事にして家を出た。


そして、その日の昼に俺は怪我をした。

会社の階段を下りている際、考え事をしていた為に階段がもう1段あると勘違いして足に前のめりに体重をかけてしまい、左足をねんざしてしまったのだ。


「おいおい森下大丈夫か?」

「あっ先輩、すみませんちょっと捻っちゃって」

「う~ん、骨には異常はなさそうだけど、少し腫れてるから一応病院行った方が良いかもな」

「はぁ・・・でも」

「部長には伝えておくから安心して行ってこい」

「すみません、お言葉に甘えさせていただきます」


正直歩くのも辛い痛みだったので先輩の言葉は非常にありがたかった。

俺はそのままタクシーで病院に行って診察を受けた。

結果は軽い捻挫、無理をしなければ自然に治るだろうという事であった。


「はぁ・・・今日のジムは止めにしておくか」


無理はいけないとスマホで会社とジムに連絡を入れてこの日は帰る事にした。

そして、帰宅後アイスノンで左足首を冷やしながらスマホを開いて俺は目を疑った。


「えっ?!リツイート814件?!」


先程病院で見た時はこんな通知が来ていた形跡は無かった。

だが今確かに俺のスマホには通知が入っていたのだ。

何か違和感を感じながらも一人一人にコメントを残すのは無理だ、そう考えながら適当にリツイートしてくれた人の呟きを見てみると・・・


『左足首に手が写ってる!』


ドクンっと大きな鼓動音が聞こえた。

嫌でも視線は掲載されている画像に行く・・・

そしてそこには・・・確かに手が写っていた。

俺の左足をへし折っている様に握って曲げている人の手が・・・


「いっ悪戯だ!」


今の画像加工能力は本当に凄いと聞く、誰かが俺の上げた画像を加工して悪戯したに違いない。

俺は自分にそう言い聞かせ自らの考えに蓋をする。

捻挫をした部分が画像で曲げられていると言う事実を認めたくなかったのだ。

そして、俺は別の人のリツイートでまた目を疑った。


『右腕にも指写ってね?』


そう書かれたメッセージに呼吸が激しくなる。

へし折られている左足首に触れてない内容に汗がどっと拭き出す。

そして、俺は画像を確認した・・・


「う・・・そ・・・だ・・・ろ・・・」


そこに掲載されていた画像、左足首に手があり足をへし折って、右腕の肘にも指の様な物が写っていたのだ。

堪らず襲い掛かってきた吐き気にトイレに駆け込んだ。

そこから先の事は覚えていない、何とか気を落ち着かせて布団に入って寝入っていたのだろう。

だが、深夜2時・・・それは起こった。


「ピロン・・・・・・・・・ピロン・・・・・・ピロン・・・ピロン、ピロンピロンピロンピロンピロピロピロピロ・・・・」


スマホの通知音、それが一定時間置きに鳴り出したと思ったら壊れたかのように連続で鳴り続け出したのだ!

目覚ましのセットの為に音量を上げていたせいもあり俺は飛び起きた。

そして、目を疑った・・・


「り・・・リツイート1480件・・・」


心が拒絶しているにも関わらず俺の手が勝手に動き適当にリツイートした人のコメントを開く・・・


『この画像おかしくね?俺が今朝見た時左足は折られてたけど右腕は普通だったぞ?登校時間弄って再投稿してるのか?』


奥歯が震える・・・

見たくないと思うが視線は画像に移る・・・


「うっうぷっ・・・」


一気にこみ上げる吐き気、そこにあった画像の俺の右腕には手が在り、俺の力こぶを作っていた右腕が真逆に曲げられていたのだ。

吐き気が酷くスマホを放り投げて俺はトイレに向かおうとした。

だが・・・


「あっ?!」


ベットから降りようとした時に左足の捻挫の事を思い出させる激痛が走った。

体をベットから乗り出していたのに足が来ていない結果、俺の上半身は床へ向かって落ちていく・・・

慌てて体を支えようと俺は手を突き出した。

結果・・・


「うぎぁっ?!」


右腕が反った状態で床に到達し、そのまま体重を支え切れずに俺の体が上に乗っかる。

当然肘が無理やり逆に曲げられ骨が折れたのを感じ視界がチカチカした。


「がっがぁぁ・・・ああああ・・・・」


痛みに呻き声を上げ身動きが取れない状態のまま床をのたうち回る俺。

恐怖と痛みが嫌な汗を全身から噴き出させ悶絶するような痛みが絶え間なく襲い掛かる・・・


「ピロン・・・」


その音に気付き俺は無事な左腕を伸ばした。

そう、そこにスマホが在るんだ。

手に取ったスマホを操作して『119』番に電話を掛ける・・・

電話口に出た相手に、昼間左足を捻挫した事、先程右腕を骨折した事で身動きが取れないので救急車を要請した。

5W1H、社会人になって教わったWho(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)が初めて役に立ったと電話を終えた俺は痛む腕を押さえながら天井を見て苦笑いしていた。

この腕じゃ暫く仕事は無理だろうからゆっくり休もうと考えた俺、救急車が来るという安堵感から思考が巡り始めた。

そう、さっきの通知はなんだったのか・・・である。

見なければいいのに、身動きの取れない間痛みを紛らわす為に俺はスマホの通知を確認した。


「リツイート1件」


こんな深夜でも起きている人いるんだな、そう小さく笑いながら左手が勝手にそのリツイートを確認する・・・

そうしようとした訳ではない、体が勝手にそうしたのだ。

そして、俺はそのコメントに目を奪われた。


『おいっこの画像ヤバいって!昨日から見る度に変化してるよ?!本物の心霊写真じゃね?!今度は頭に指が写ってるよ!』


そして、俺の目は人生で一番開かれた事であろう。

俺の左足と右肘は手でひん曲げられ、俺の後頭部丁度耳の後ろ辺りに左右から4本の指が写っていたのだ。


「うっうわぁああああああああ!!!!」


錯乱する俺、だが直ぐに俺は気付いた、自分の呟きを消せば良いんだ!

左てだけで発狂しながら俺はスマホを操作して自分の最初で最後の呟きを削除した。



その後の事はよく覚えていない、後々聞いた話では部屋の中で絶叫を上げながら錯乱していた俺を救急隊員の人たちが気付き、ドアをけ破って助けてくれたのだとか・・・

寝ぼけて大怪我をして錯乱したのだろうと医者は診断し、俺は左腕にギブスをハメて3日後に病院を後にした。


「しっかし、寝ぼけてベットから落ちて右腕やっちまうなんて流石に驚いたよ」

「すみません先輩、助けてもらったその日にまた大怪我しちゃって」


捻挫が感知していない俺の退院に合わせて同行してくれた先輩にお礼を言いながら俺は久方ぶりの自分の部屋へ戻る。

少し遠かったのでバスかタクシーが必要だったのだが、飯を1回ご馳走するという事で先輩が助けに来てくれたのだ。


「そいや森下ここ数日Twitterで話題の画像知ってるか?」

「えっ?」

「いや、なんでもな物凄いバズりまくっている画像らしくてさ、最初に見た人の話では後姿でポーズを決めている男の画像だったらしいんだ」


ドクンっと鼓動が一つ大きく鳴る。


「でな、なんでもリツイートされる度に誰かが加工していってるのか、指とか手が写った画像に変わって画像の男の体がどんどん破壊されて行ったんだってさ」

「へ・・・へぇ・・・」

「っでだ面白いのがここからで、昨日最後にリツイートされた画像は真っ黒で、それと同時に今まで掲載されていた画像全てが真っ黒に変わってたんだってさ」

「・・・・・・」

「なっ?おもしれーだろ?」


それからも先輩が何かをずっと言っていた、だが俺の耳には届いていなかった。

聞きたくないと脳が勝手にシャットダウンしたのだろう。

幸いTwitterを削除してから俺の体に何も異変は起こっていない。

俺は助かったのだと自分を落ち着かせ最寄りのバス停で先輩の肩を借りて降りた。


「ピロン」


それは聞き覚えのある通知音、一気に血の気が引く・・・

病院に居た間は電源をずっと切っていた為に鳴る事は無かったスマホが鳴ったのだ。

電源を入れて直ぐではなく時間を置いて・・・


「ん?今の森下のスマホか?」

「た・・・たぶん・・・」


そう言って左手でスマホを取り出して見る・・・

見たくないのに体が勝手に動いたのだ。

そして、そこに出ていた文章が目に飛び込んでくる・・・


『緊急雨雲通知 今後の雨雲の動きに注意してください』


それは過去にインストールした急に天気が変わる時に知らせてくれるアプリの通知。

バクバクと言い続けていた心臓の鼓動が徐々に落ち着き、全て終わったのだと伝えてくれていた。


「しっかし、森下お前結構良い体してるんだな」

「あっ分かりました?実は数か月前からジムで鍛えてまして・・・」


そこまで話して俺は思い出した。

心臓が止めろと叫び続けている中、俺の左手はスマホを開いてそれを探す。

Twitterの投稿は削除したが、一番最初に撮影したあの元の画像・・・

口の中が渇く、心臓が破裂しそうに鳴り響く、左手に力が入り俺はその画像から目が離せなかった・・・


そこには、数多の手によって床に押しつぶされ肉片となっている俺の姿が・・・


「あぶなっ・・・?!」


先輩の声が聞こえた気がした。

ドンっと言う衝撃と共に視線が下へと落ちる。

あぁ、違う、あの画像の様に俺の体が潰れてるんだ・・・

そう理解した次の瞬間俺の意識は闇へと沈んだ・・・









『本日昼過ぎに都内のビルから落下した看板が下を歩いていた男性に直撃しました。男性は緊急先の病院に運ばれましたが死亡が確認され・・・』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リツイート 昆布 海胆 @onimix

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ