第7話 移動
(超可愛い)
フラウダは目を見開いて己を見上げてくる二人の少女を陶然とした面持ちで見つめた。
一人は黒髪黒眼で幼いながらも意志の強い凛とした瞳をしている。もう一人は銀髪銀目で年相応のあどけなさを持ちながらも、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「マ、ママ? ママなの?」
銀髪の少女が問う。呆然と、どこか夢でも見ているかのように。
「そうですよ。今までよく頑張ったね。ニア、それにクローナ。これからはママが守ってあげるから、もう安心だよ」
フラウダが飛び込んで来いとばかりに広げている両腕を上下に動かせば、銀色の瞳から大粒の涙をポロポロと溢しながら少女がその胸へと飛び込んだ。
「うわぁああああん!! ママ! 会いたかったよ! ママァアアアア!!」
「おお、よしよし。怖かったよね。可哀想に」
己の胸で泣く少女の頭を優しく撫でるフラウダ。その紅い瞳がもう一人の幼子へと向けられる。
「どうしたんですか? クローナもおいで」
「あ、貴方はお母さんじゃ……い、いえ……なんでもないです」
偽りの母に抱かれて泣きじゃくる妹を見て、幼い姉は言葉を呑み込んだ。フラウダはそんなクローナの小さな頭をニアにしているのと同じように撫でた。
「ふふ。妹想いのお姉ちゃんですね。おっと、まだいたのか」
遠くから聞こえてくる軍犬の声。フラウダにひしりと抱きついて泣きじゃくるニアは気付いていないが、クローナの小さな体が緊張に震えた。
「子供二人に随分大袈裟……と言いたいところだけど、ここまで逃げてこれるあたり君達は凄く優秀なんだろうね」
「は、はい! 私は体術や剣術に自信があります。万全の状態なら大人の兵士にも負けませんし、一度読んだ本は完璧に覚えられます。妹は魔力と霊力を両方扱える得意体質で、その力も凄いんです。ですから、あの……」
唐突に現れた正体不明の
「そんなに焦って喋らなくても大丈夫ですよ。これから時間は沢山あるんだから、ゆっくり君達のことをママに教えてね」
「え? あの、は、はい。ありがとう……ございます?」
若干の躊躇を見せながらもクローナは素直にフラウダの手を取った。
「ん? あらら。静かになったと思えば眠っちゃったみたいだね」
絶対離すものかとばかりにクローナの首に腕を回したまま、ニアはスヤスヤと寝息を立てている。元四天王はそんな幼子を見てクスリと笑った。
「取り敢えずこのまま近くの街まで移動しましょうか。ママが運んで上げるから、クローナも疲れたら眠ちゃっていいよ」
「い、いえ、私は大丈夫です」
「そう? ふふ。クローナは頑張り屋さんですね」
「あ、ありがとうございます」
「でも無理はしなくていいからね。疲れたらちゃんと言うんだよ」
そう言ってフラウダは子供二人を連れて歩き始める。
「あ、あの。もっと急いだ方が……」
「大丈夫。あらかじめ種は蒔いておいたから」
「種……ですか?」
「そう。だから心配する必要はないよ。ほら、静かになったでしょ?」
言われてクローナが耳をすませば、追手の声はもうどこからも聞こえなかった。
「ね? ママに任せておけば何の心配もいらないから」
「は、はい。ありがとうございます」
「ふふ。いちいちお礼なんて言わなくていいんだよ。母親が娘を助けるのは当然なんだから」
「あ、ありが……は、はい」
クローナは自分の腕を優しく引いてくれる手を不思議そうに眺めるとーー
ギュッ、と繋いだ手に力を入れた。
ーー数時間後。同じ山の中ーー
「見失った? 一体どういうことニャ?」
報告にネココの柳眉が寄れば、黒髪ショートカットの獣人は申し訳なさそうに頭の猫耳を伏せた。
「そ、それが僕がフラウダ様の魔力を追っていたら、突然全ての痕跡が完全に消えたニャ。多分本気モードに突入ニャ」
「あの寂しがり屋でいい加減なフラウダ様が意味もなくマジになるなんてあり得ないと思うニャ。何かあったんじゃないかしらニャ」
金髪金眼の部下の言葉にネココは指を自分の頰に当てる。
「……やっぱり人間領への侵入で追跡が遅れたのが痛いニャ。フラウダ様の痕跡が消えた辺りには何かなかったかなニャ」
「あったニャ。帝国の兵士達が例の触手にやられていたニャ」
「ニャ、ニャんと? あれは今でも忘れられないわニャ」
金髪の獣人の顔が一気に赤くなって、女性として魅力的な肢体がブルリと震えた。それは他の獣人達も同じだった。
「と、とにかくフラウダ様を追うニャ」
リーダーのその言葉に赤髪赤目の獣人が首を傾げる。
「だが、どこを探すんだ? ニャ」
「僕はこれ以上不用意に人間領の奥に入るべきじゃないと思うニャ。危険ニャ」
「でもフラウダ様ならそれくらいのリスク平気で侵しそうだわニャ。任務は放棄できないわニャ」
このまま人間領を探索するか、あるいは一旦魔族領に戻るべきか、部下達の意見は分かれた。
自らの頰に触れていたネココの指がそっと離れる。
「皆、聞くニャ。一先ず人間領から撤退。境界線を超えて一番近い街を目指すニャ」
「「「了解ニャ」」」
そうして元四天王が子供の手を引いている時、闇を生業とするアサシン達もまた次の目的地へと移動を開始したのだった。
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