第2話:この素晴らしい偽善者に祝福を(前編)
前回までのあらすじッッ!!
必殺の秘策により、田植えレース優勝を見事果たしたハードボイルド私立探偵の
凱の知らぬ所で蠢く影とは…どうなる第2話!!!!
✩
「どうされました?もしかして、まだ傷は痛みますの…?」
「あ、いや…俺は
もうありのまま起こった事実を飲み込もうと、彼は苦し紛れに自ら名乗ることにした。
「これはこれは…私ともあろう者が、紹介が遅れましたわね。私の名はアルテシア。アルテシア・H・ローランドと申します。親しい者は皆、私をアルと呼ぶので以後お見知り置きを」
戸惑いながらも
彼が聞く所によると、ここはアネモネの村と言うらしい。先ずそんな地名が日本にある筈がないため、ここが日本では無いことに肩を竦めるしかなかった。
次にこの村の名産は野菜だと言うことぐらいだ。この時期はトウモロコシが名物らしく、土いじりが好きなアルから鼻息混じりに語られた。
住人同士の諍いも少なく、のどかな場景が平行線で続く平和な町らしい。
「なあ、アル。俺はどうやってここに来たんだ?」
アルテシアはその一言にきょとんとした顔を彼に向けた。
「どうやってと言われましても貴方…4日も前に家の御屋敷で倒れていましたのよ。正直、此方が聞きたい所ですわ」
誰かに連れてこられたのだろうか…ここまで歩いて来た記憶のない
「それもそうだよな…とりあえずありがとう。状況が分かっただけでも御の字だ。」
何処か寂しげに俯く彼の顔を見て、アルテシアはパンっと手を叩いた。
「そうだ!目も覚まされたことですし、外の空気でも吸われませんか。こうして話し込んでも、気は晴れないでしょう?」
見知らぬ土地に飛ばされたのなら、実際に知ってもらえばいい。せめて故郷の良い所をひとつでも知って貰えればと、彼女は楽しげに提案した。
「なんか気を遣わせちゃったな。君さえ良ければ、差し支えないよ」
彼が快く承諾すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、では先ず着替えませんとね。着替えは此方をお召しになって下さい。無理を言って執事に用意させましたの」
ここまで至れり尽くせりなのは、正直申し訳がない気持ちが勝って仕方がない。だが、それで善意を無下にするのも返って失礼だ。一旦彼女に退室してもらうと、悠は新品のワイシャツに袖を通した。
日本は真冬であったのに、この村では気の早いセミ達が鳴いていた。日本特有の湿気も少なく、本格的に日本ではないことに焦りも覚えかけた。
彼女に言われた通り、気の晴れぬまま屋敷の外に出ると、門の前で日傘を差したアルテシアが日傘ごと手を振っていた。彼女の髪色と同じ白いワンピースが夏風に揺れ、さながら一枚の絵を見ているようだった。
空いた手にはバスケットを握っており、どうやら病み上がり相手に大冒険を始めるようだ。
「もう、待ちくたびれましたわよ。案内が終わる頃には日が暮れますわね、きっと」
余程楽しみにしてくれていたのか、ストローハットの下から膨れた頬が見える。
「ああ悪い。アルがあんまり忙しないから、台風でも通り過ぎたんじゃないかって屋敷中持ち切りだったんだ。」
「貴方、すっごくいい性格してますわね…」
ようやく自分の落ち着きのなさに気がついたのか、恥ずかしさで赤くなった顔を隠そうと彼女は背を向ける。だが、次第に笑い話しで飛ばせるようになったのか、屋敷から村に着く頃には彼女の顔も笑顔に変わっていた。
この時、悠の頭に詰まった泥は、少し彼女に掬われた気がした。
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