探索者

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

私はある日の夜中にふと頭に思い浮かんだ物があった。それは私にとって大切な物であり、他人には決して見せるわけにはいかない程の代物だったことを覚えている。

どこにしまったのか、どんな色でどんな形だったのか、そういった大切な事を何も覚えていない。ただ大切だったということだけが記憶に残っているのだ。

「大切な物だと……ここか?」

勉強机の下にある引き出しを開ける。そこには私が大切だと思った物や、大事にしまっておきたいと思った物が沢山入れられている。

一旦物を全部外へ出してみる。

昔仲が良かった子から貰ったプレゼントや手紙、それから好きだった作品のグッズなど、色々な物が出てきた。

しかし私の探しているものはその中には無かった。何も知らないはずなのに、何故かそこにないというのがわかったのかは私にも分からない。これが直感というものなのだろうか。

それから私は部屋のいたるところを探し回った。違う引き出しやクローゼットの中、本の間や机・ベッドの下など、“ここにあるのではないか”と思ったところを探した。

しかし、それはどこにもなかったのだ。

ずっと変な体勢をしていたのが悪かったのか頭が痛くなってきたので、私は台所へ水を飲みに行った。

グラスに水を注ぎそれを流し込む。

よっぽど喉が渇いていたのか、水が喉を通り胃に入っていく感覚がよく分かった。通った部分が一瞬だがひんやりと冷たくなった。

注いだ水を飲み干すと「…っはぁ」と息をつき、私はまた部屋へ戻って探索を再開した。

次はまだ見ていなかったタンスの裏や机の隅などを探してみる。ありそうなところに無いのならば、次は無さそうなところを探す他ない。

だがそれでも探し物は見つからかなった。

なので一度、何を探しているのか真剣に考えてみることにしてみた。それさえ分かってしまえばきっと探しやするなる、もしかしたらしまった場所を思い出せるかもしれないと、そう考えたのだ。

すると頭の中に何かが浮かび上がってきた。

その色は白く、形は縦長の長方形であった。

中央に何か文字が書かれているように見えるのだが、何が記されているのかまでは分からなかった。だが形状からして、手紙かなにかなのは分かった。それが分かっただけでも大きな進歩と言えるだろう。

私は早速手紙がしまってありそうな場所でまだ見ていないところを考えてみる。

大切な物を入れる引き出しの他に入れるところというと、やはり別の引き出し以外に心当たりはなかった。だがそこらは既に見ているからそこではない。私はさらに考えてみた。しかし頭が痛くなるだけで何も思い浮かばない。

もやもやした感じが心に残るが、もう寝てしまおうと思い、ベッドに横になる。枕の形が少し崩れていたのでそれを戻そうとしてサイドを少し叩く。すると“くしゃり”と、何かの音がした。なんの音かと思い、もう一度叩いてみる。どうやらこの音は枕から出ているようで、この枕のどこかに何かが入っているようだ。

上にはそれらしき物はない。ならば裏にあるのではと思い、枕をひっくり返してみると、そこには確かに何かがあった。縦長の長方形をした何かが枕と枕カバーの間に入れられている。

手を入れてそれを出してみると、そこには“自分へ”と書かれた封筒があった。これはきっと私の字だろう。筆跡がよく似ている。

封を開けると中には手紙が入っていた。



____________________


〜この手紙を見つけて読んでいる私へ〜


これを見つけたということは、きっと探すのを諦めて寝ようとしていたのではないでしょうか?そして部屋は散らかってしまっているのでしょう。あとでちゃんと片付けて下さいね?

それにしてもよくこの手紙の存在を思い出してくれましたね。ありがとうございます。

私がこれを書いたのは単純な理由です。

貴女は…いや、私は今誰かに狙われています。

この先殺されることは無いでしょうが、これを書いている自分自身の事を忘れてしまうかもしれません。もしそうなってしまった時のためにこれを書いています。

ですが一番最初に書いたようにしてこの手紙を見つけたのなら、きっと私は記憶が消されています。なので現時点で記憶が無い状態の私に知っておいて欲しい事をここに綴ります。


____________________



その手紙には、私が裏稼業の者だったこと、とある仕事を引き受けた際に知ってはならない情報を手に入れてしまい、ある組織から命を狙われるようになってしまったことが事細かに記されていた。またそこには私が疑問に思いそうなことまでもが記されていたのだ。

どうやらこの時の私は仕事が出来るようだ。

しかしこれを読んで思ったのだが、私はまだこうして生きている。その“ある組織”とやらはきっと私の記憶が戻る前に始末しようと考えるに違いない。だとすれば私に残された時間は少ないと考えるのが妥当だろう。


“ガコン”と、ポストに何かが投函された音が静かな室内に響いた。こんな夜中に郵便が来るはずがない。私は恐る恐るポストへ近付き、蓋を開けて中を見てみる。

そこには1つの茶封筒と1つの石が入っていた。どうやら投函主は私に早くこれを読めと言いたいらしい。差出人も宛名も書かれていないそれは、誰が出したのかが分からなかった。

とりあえず開けてみると、そこには手紙が入っていた。“あぁ、また手紙かぁ”と思いながらも、折られている紙を広げ綴られた文章を黙読していく。


差出人は“ローグ”という人らしい。

内容を要約すると、私を狙っていた組織の人等は既に片付けられていて、現在は私が所属していた組織が私の記憶を戻そうと頑張ってくれているという。

正直この手紙の内容を信じてもいいのかが私にはわかり兼ねるが、今の私にはこれを信じる以外に道はないのだ。




私は、探し続けている。

それがなんなのかは分からない。

過去の記憶か、身近な物なのか____


それは私にも分からなければ、他の誰かに分かるような物でもないだろう。




その“何か”を見つけるまで、私は今示された道をひたすらに歩み続けて行く。



ところで……


あなた達の探し物は見つかりましたか?

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