私、月島礼が君を見つけると断言しよう
聖堂天音
序 一歩戻る(前)
最近、学校で流行ってるスマホアプリがある。どうも審査とかをきちんと受けていない野良アプリらしく、スマホの機種によってはダウンロードができないようで、そのアプリで遊べる人と遊べない人がいるらしい。
グループの違うクラスメイト達が休み時間にそれで盛り上がっていたのをなんとなく耳にしただけで、正確なところはまったくわからないけれど。
そのアプリはいわゆる、スマホのカメラで撮った写真を編集加工して遊ぶ系の面白アプリであること。
その加工した画像をアプリを経由して他のユーザーと共有できる機能があること。
共有した画像に込められているメッセージがクイズの問題みたいになっていて、投稿主に問題の答えを送り、正解するとポイントが得られ、そのポイントを使うと加工編集に使う機能が拡張できること。
『この問題、マジでムズいんだって!』
クラスメイトの一人がそう言って画面を同じグループの人に見せる。
クラスメイトが解こうと躍起になっているのはいわゆる『ここはどこでしょう?』というタイプの問題だった。
町中のよくわからない場所を撮影し、場所を示すヒントと、この場所に何があるのかを書いているらしい暗号めいた問題文。
『ささぬかきのぎいるみせ (一歩戻る)』
暗い顔をしながらクラスメイトが暗号部分を読み上げた時、その時口に含んでいたお茶を吹き出してしまった。
へ? なぜ、そんな簡単な暗号がよめねーの?
思わず素で突っ込んでしまいそうになった。こんな小学生が考えたような簡単な暗号でそんな暗い顔をするか……?
問題文にくっついてる写真はおそらく学校の近所だと思う。確証は無いけど。
『お茶吹き出すってことはこれ、わかるの!?』
クラスメイトが私のリアクションに気づき、スマホの画面を見せてくる。
私は小さく頷き、答えを言う。
私の答えに目を丸くするクラスメイト達。
『え? なんでそーなるの!?』
いや、私こそ聞きたい。高校生が小学生レベルの暗号が解けないことに。一応うちの学校、県内ではレベル高いほうなのだけど。
『一歩戻る、がどういう意味か考えたら簡単だよ?』
そうヒントを出すと、いきなり後ろに一歩下がるクラスメイト。
あ、ダメだ、こいつ。
そう思ってしまうのは仕方ないだろうか。なぜ自分がその場で一歩下がるんだよ。一歩戻るってそういう意味じゃねーから!!
『50音表を検索して画面に出して』
もうヒントではなく、暗号の解き方を丁寧に教えることにした。
50音表を使って暗号の言葉を一歩戻って変換する。
『なるほど~。お前、頭いいな!』
いや、私はこの学校の平均的な学力を有する生徒だから。そんなに賢くないから! むしろ、なぜこの程度が読み解けない人がこの学校に通ってんの?
そんな言葉をぐっと飲み込み、へらっと弱々しく笑っておく。素の口の悪さは表に出してはいけない。
昔から口の悪さが原因でよくトラブルになったからね。
問題の答えが分かったクラスメイト達はすっきりしたのか、スマホを操作し、答えを投稿主に送ったようだ。
あの問題、撮った場所も答えたほうがいいタイプのクイズのような気がするけど、正解の報酬であるポイントは貰えるのだろうか。
☆ ★ ☆
数日後、朝礼で担任から警告が出た。
要約すると、今話題のアプリで撮影された場所を探しだそうとする生徒を狙った犯罪が起きているかも知れないということ。
そのアプリで上手く誘い込まれ、事件に巻き込まれた可能性があるのだという。
アプリで撮影された場所を探し当てたから今から行ってくると言ったクラスメイトが数日経っても家に帰ってこないことを不審に思った家族と学校がクラスメイト達に聞き出してアプリに疑いを向けているらしい。
おいおい、あんな露骨な誘いに乗ったんかい。
え? これ、答えを教えた私に疑いが向けられるのか?
そんなよくわからない状況に頭を抱えた。
結局、その日は授業に身が入らず、板書された内容をノートに機械的に書き写すだけになってしまった。
放課後、私は一人で教室にいた。理由は簡単。クラスメイトのことが気になったからだ。そもそもきっかけはクラスメイト本人にあるのだが、その迂闊な行動の後押しをしてしまったのは私だから悩んでいるのだ。
あんな幼稚な、クイズと呼ぶのも抵抗があるレベルの投稿を警戒しろというほうが無理があるのかも知れないけどね。答えと解き方を教えたことに責任は感じている。
とりあえずどうするべきか行動の指針すら立てられない。深いため息をつきながらぼうっとクラスメイトの席に目線を向ける。
あまり会話をしたことはないのでクラスメイトに関する詳しいことは知らない。ただ、明るくて前向きな性格の人間だったというイメージはある。あの問題が解けないほどのバカだったとは思わなかったが。
ただ、だからと言ってバカだから犯罪に巻き込まれて当然とは考えない。
そこまで考えた後、また深いため息をつく。
気は乗らない。だが、私がやらねばならないのだろう。
行方不明になったバカを探しに行くか。
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