練り消し物語

暇な人

第1話 始まり

朝、いつもの様に目が覚める。

この朝が来なければ、と何度思ったのだろうか。

窓から差し込む光と温度、生温いそよ風は、昼だということを伝えていた。

(ああ、昼飯作らなきゃな…)

俺は黒水 硬(くろみず こう)

重い足取りで台所まで歩く。

壊れかけのまな板、刃がボロボロになった包丁で、なんとか料理を作る。

トントントントン…ザクッ!!

(痛っ…切っちゃった…)

野菜を切っていたら、指まで切ってしまった。歯切れが悪いからと力を入れていたせいで、第一関節が指と完全に離れてしまった。

硬はおもむろに台所から落ちた指を拾い上げ、くっ付けた。

手を開けたり閉じたりすると、普通の手になっていた。

驚くことはない

なぜならここは

『練り消しの世界』なのだから。

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練り消し物語 暇な人 @pinohamazioosii

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