第87話 歓声


「『裏の勇者』ですか?」

「ああ。勿論引き受けるかはナルミ君次第だけどね」


 レミアクランは三人分の椅子を俺が寝ているベッドの横に置き、それぞれにレンゲ達が座っていく。

 どうやらレンゲとサーナは事前に説明しているようで、特に口を挟むようなことはせず口を閉じていた。


「何、別に特別なことをしろという訳じゃない……。いや、勇者である時点で特別か……。君には自分が勇者である事を隠して今後とも活動して欲しい」

「勇者ということを隠す……?いや、別にそれは大丈夫ですけど……何故ですか?」


 レミアクランが出した提案は本当に特別な事ではなく、寧ろ今まで通りしていてくれと言う提案で何をそこまで頼み込む事なのか分からなかった。


 そんな俺を見て一瞬ポカンとしたレミアクランは、チラッと横目でレンゲを見る。そしてレインはその視線を感じて何故かドヤ顔をした。まぁ、殆ど表情は変わってないが、雰囲気的にドヤ顔をしている感じがする。


「なるほどね……。詳細を話すとすると、君には勇者である事を隠しながらもう一人の勇者のように各地を周り、魔族の手から善良な市民を守って欲しい。いずれはバレるだろうが……それまでは勇者が居ない場所を狙う者の不意を突けるかもしれない」

「つまり、その有名さ故に本来の勇者では手が出せない相手を俺が倒せってことですか?」

「ああ、そういうことだ。魔王を打ち倒すには魔淵の使徒の討伐は欠かせないからな」


 確かに、魔淵の使徒はわかりやすく言えば四天王みたいなものだ。四人しかいないのかは知らないけどね。

 そいつ等を事前に倒しておかなければ、いざ魔王と戦う時に戦いに介入してくるだろう。ならば、倒しておくべきだ。

 

 レミアクランは一度話を区切り、少し恥ずかしそうに頭の後ろを搔きながら話す。


「Sランク冒険者ということで、よく物知りと思われるけど実際はそうでも無い。実は私は勇者と言うものを見たことがなかったんだ。だから、私にとって勇者といえば君だ、ナルミ君。今後の活躍にも期待してるよ」

「わかりました。レミアクランさんの期待に添えるように頑張ります!」

「ははっ、そんな硬っ苦しい呼び方と話し方はよしてくれ。命を預けあった仲だ、三人とも私のことはタメ口でレミアと呼んでくれ」

「い、いいのか?なら、レミアと呼ばせて貰うよ」

「……ん、レミア」

「わかりました!レミアさん!」

「うむ、やはり友ができるというのはいい気分だね!」



 

 その後、俺達はレミアから色々な話を聞いた。


 魔族の事について。他の国の事について。Sランク冒険者について等など。


 自分は物知りでは無いと言っていたが、やはりSランク冒険者と言うべきか俺達がそう簡単に行けないような所の話等色々と知っていたし、今後強くなる為の情報等色んな事を知っていた。


 師匠の受けよりだと言うが、それも立派な知識なのだから誇っていいと思う。


「さて、そろそろ時間のようだ。明日にはこの街を出なければならないから、私はもう帰るよ。三人とも、またどこかで会おう!」

「ああ、今度は俺達がレミアに色々話せるぐらい経験を積んでおくよ」

「ははっ、楽しみだ。またな!」

「……じゃあね」

「またどこかで〜!」


 やはりSランク冒険者となればこんなことがあってもすぐに移動しなければならないほど多忙なのだろう。


 日がほとんど沈み薄暗くなった頃、レミアは別れの挨拶をして病室を出ていく。また会える日を楽しみにしておこう。

 

 レミアが出ていった後、俺達は今後についての話を始める。


 俺は体調に問題は無く今日中に退院しても大丈夫らしいので宿に戻る事を決めつつ、何時までこの街に滞在するかも話し合った。


 レミアクランの話を聞いて海外にも行きたくなったし、この国を出るのも良いなぁ。まぁ、その前に武器を整えないと行けないが。


「なぁ、サーナは今後どうするんだ?」

「え……わ、私ですか?」

「ああ、いつか美魔身祭に出たいんだろ?なら何かしらで魔術を極めないとな。まぁ、こんなことがあったから祭りが再開するのは何時になるか分からないが」

「そう……ですね」

「……」

 

 俺の問いにサーナは深く考え込む。俺から提案するのもありだが……ここはサーナ自信が決めるべきだろう。

 俺と考えが一緒なのか、レンゲも何も言わなかった。

 

「私は〜……」

「失礼する。サーナ、やはりここにいたか」

「っ!?爺や!?」

「貴方は……カルさん!どうしてここに?」


 サーナがなにか言おうとしたタイミングで扉が突然ノックされる。そして扉を開けて現れたのはサーナの祖父である『カル』であった。

 婆やの方は居ないので一人で来たのだろう。


「いやいや、帰りが遅い孫が心配だったからな。まさかあんな事に巻き込まれるとはな……。よく無事だったな、サーナ」

「爺や……。うん、ナルミさん達が居たから何とかなったんだ〜」

「そうかそうか。二人とも、サーナを守ってくれてありがとう。感謝する」


 カルはサーナを慈愛の限り優しく抱きしめ、俺達に感謝を伝える。そこから感じる確かな家族愛に、何となく俺達は懐かしい気持ちになった。


「それはそうと、爺やはどうしてここがわかったの?まだ家に帰ってないからここの場所は知らないはず……」

「ふっ、忘れたのかサーナ。爺やと婆やの情報収拾術を」

「あ、そうだった!お二人共聞いてください!爺やと婆やはとっても耳が良くて、超レア情報だってすぐ手に入れてきちゃうんですよー!」

「そ、それはすごいな」

「……前に言ってた『嫌な予感』も?」


 そういえば確かに初めてサーナと出会った時も「爺やが〜」と言っていた記憶があるな。

 サーナは思い出すのに数秒要した後、やっと思い出したように手を叩く。


「あ〜、あれはですね。……爺や、あれって?」

「いや、サーナは知らないのかよ」

「えへへ〜」


 はい可愛い。って、誤魔化されないからな?

 

 そんなサーナの問いにカルは少し困ったように答える。もしや特殊な力とかではない感じか?


「それはただの勘だな。所謂、年の功と言うやつだ。情報収集は時に危険を伴うからな。気がつけば嫌な予感がよく当たるようになったんだ」

「へー!じゃあ私もそのうち着くかなぁ?」

「サーナも情報収集したいのか?なら、徹底的に技を教えてやらないとな」

「げっ、爺やは厳しいから婆やがいいかなぁ……」

「ほう、怒ったら一番怖い婆やに頼るか」

「うぐっ……や、やっぱり爺やがいいかなぁ?」


 少しの間、サーナとカルの家族の会話が続く。この二人の会話にわざわざ入り込むというのも野暮と言うやつだろう。


 気を使って積極的に話に入らなくなった俺達を見て察したカルは少し恥ずかしそうに頭をかいた後、思い出したように話を変える。


「おっと忘れていた。君達に会いに来たのはお見舞いだけではなく、とある場所に誘おうと思っていたんだった」

「とある場所?レンゲさん、何かありましたっけー?」

「……いや、聞いてない」

「多分、意図的にサーナ達には隠されてたからな。ナルミ君は動けるのか?」

「隠されてた?……ええ、大丈夫です」

「わかった。じゃあ着いてきてくれ」


 俺はレンゲの力を少し借りつつベッドから立ち上がり、カルの後を追って外に出る。


 外は昨日と同じぐらいの時間で、少し薄暗くはなっていたがまだまだ人がいる時間……なのにも関わらず、人がほとんど居なくなっていた。


 勿論誰もいない訳ではないが、それでも今までなら二十人は居たであろう大通りの十字路に今では一人か二人しかいない。

 どうやらこれは本当に突然の現象らしく、さっきまで外に居た筈のレンゲとサーナも驚いていた。


「え?え?え?なんでこんなに人がいないんですか〜!?」

「レンゲ、やっぱりさっきまでとは違うのか?」

「……ん、さっきまでは今まで通り」

「フッ、まぁ着いてきてくれ」


 余計なことは言わないとばかりにカルはそれだけを言って歩き出す。俺達も慌ててカルの後ろを着いていくと、段々と見覚えのある建物が近ずいてきた。


「あ、あそこって……」

「美魔身祭の会場……だな」

「……ん、でも今は工事中のはず」

「だよなぁ……」

「……」

 

 俺達がどこで何をするのかを話し合っていても、カルは俺達を無視して足を進める。話す気は全くないのだろう。

 

 不気味なほど人が減ったこの街の雰囲気と、無言になったカルにちょっとだけ不安になってきた俺達は、ついに会場の入口にまでたどり着く。


 周りには沢山の瓦礫が置かれていた。会場の中の瓦礫を全て撤去したのだろう。


「さぁ、着いたぞ。後はここを真っ直ぐ直進すればいい」

「え、爺やは行かないの?」

「爺やは後から行く。さぁ、人が待ってるぞ」


 そう言ってカルは俺達の後ろに周り、背中を押して急かしてくる。

 何があるか全く分からないが、ここまで来たからには最後まで行くことにしよう。流石に危険なものは無いはずだ。


「人って言ってたな。誰かがいるのか?」

「……分からない。人の気配が全くしない」

「うへ〜……。まさかこな会場で二度も怖い思いするとは思いませんでした〜……」


 ちょっと楽しくなってきている俺といつも通り冷静なレンゲ。そして雰囲気に飲まれてるサーナは薄暗い通路を抜け、最後の扉の前に立つ。


 もし誰かがいるとしたこの先、俺達が戦った会場の広場のはず!


「行くぞ!」

「……ん」

「あ、ちょ、心の準備が」

 パンッ!!

「「「「ウワァァァァ!!!」」」」

「「「!?」」」

 

 俺がドアを勢いよく開けた瞬間、まるで風船が弾けたような音とともに耳をつんざくような歓声と眩しい光が俺達を照らした。


 な、なんだ!?さっきまで人の気配なんで全くしなかったのに大量の人が!?


『さぁ、皆さん!歴史に残る戦いの最後にして最大の立役者の登場です!大歓声でお迎えしましょう!!』

「「「「「ウワァァァァ!!!」」」」」

 

 会場の中でも溢れ返った観客達に俺達はわけも分からず大歓声を浴びるのであった。



 ♦♦♦♦♦



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 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!






 

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