第82話 デジャブ




 俺含めた三人は土煙で良くは見えないが、ベルクが吹き飛んでぶつかった壁を警戒を解かず見続ける。

 あの程度で倒せたとは思っていない。なんなら、今もまだその気配が消えていない。


 この今すぐにでも逃げたくなるドス黒い魔力は晴れていなかった。


 すると、ガラガラと音を立てて土煙からベルクは出てくる。その体からは大量の血が流れ、本来なら出血多量で死んでいてもおかしくない状況でベルクはなんともないように立ち上がった。


 ……いや、体がふらついている?


「……」

「……嫌な予感」

「ああ、隙だらけで今にも倒れそうなものだが……なんだろうなこの感じ。私も何故か少し鳥肌が立っている」

「……なっ!?何だこの感じ!?」

「……ナルミ?」


 その存在感は全く変わらないのに……むしろさらに存在感が強くなっているのにも関わらずフラフラと正気を感じない歩き方で歩くベルク。

 2人も何か違和感と嫌な予感を感じている様だ。


 俺も流石におかしいと思い即座に『魔力鑑定』をベルクに使う。そして気づく。ベルクの魔力がどんどん変質して言っていることを。


 それに気づいた俺は『魔力鑑定』だけでなく全ての力を使ってベルクを観察する。

 すると、今までのベルクの魔力の質感が『泥』出会ったなら、今のベルクの魔力は『闇』に変わっており、本物を見たことがないので感覚的に龍人族の魔力だと思っていたものが完全に消えていた。


 そしてその魔力の代わりに、全く未知で解析不可能の魔力に置き換わっていた。

 その魔力に関する情報は理解できなかった。だが、次の瞬間にそれがなんなのか俺達は理解させられた。


「ガ……ガァァァァァ!!!!」

「……うるさい!?」

「まさか、これは……!?」

「これは……魔王の魔力だ!」


 ベルクからさらに無限かと思えるほどに溢れ出す今までとは一線を駕す不快な魔力。明らかに人が生み出す魔力とは根本的に違い、ただあらゆるものを穢すためだけに生まれた魔力。それこそが魔王の魔力であった。


 その魔力を感じたのは一度、ベルクが『魔具』と言ったものを装備した時だけ。

 その時ですらその圧倒的な力はとてつもないものであったが、今のベルクはその力をいつの間にか龍人族の特徴が無くなった全身に纏い、鎧のように形成して行った。


 いつの間にか治った傷。いや、治ったと言うより塞いだ?そして正気はもうなく、まるで魔王の魔力に飲まれてしまったかのようにベルクは雄叫びを上げ続けた。


「なるほど、やつの魔力が変質した……。ナルミ君の特殊な攻撃と大ダメージの修復のために魔王の魔力に頼り、その結果として完全な魔王の魔力に飲まれてしまったと考えていいだろうな」 

「ああ、今なら貴方の聖属性魔術もかなり効くはず。ただ……」

「アッガァァァァァ!!!!」

「……恐ろしく強くなってる」

「来るぞ!」


 目にも止まらぬ速度で接近してくるベルク。だが、、目にも止まらないとはいえ感覚的には速度はそこまで変わっていなかった。しかし、ベルクが強化されたのは速度ではなかった。


「なんっってパワーだ!?」

「……『流鬼』!……重っ!?」

「ガァッ!」


 レミアクランが受け止めた攻撃をレンゲが横から攻撃の向きを無理やり変えることで今までしのいでいたが、それが全く通用せずレミアクランだけでなくレンゲまでも吹き飛ばされる。


 あの二人をしても攻撃を防げない!?『共振魔力衝撃波』は……ダメだ。魔王の魔力がを再現できないから使えない!


「グラァ!」

「っ!?」


 先程まで何となく見えていた戦いの技術らしきものは見当たらない。完全な膨大な力に振り回された暴力の化身となったベルク。

 だが、その力を使う器としての頑丈さは誰よりも高い。

 

 俺は何とかベルクの左振りの攻撃をそのまま右に勢いを逸らす。今のは運良く力を逸らせられたが……、次は無理だろう。

 

「グァァァ!!」

「ぐっ、ヤバっ!?」


 次こそは仕留めると言わんばかりに拳を振るう。次は明らかに一直線に俺のみぞおちあたりを狙う適当な構えの正拳突き。

 

 これは逸らさなっ……!?

 

「……ナルミ!」

「ラガァァ!!」

「……光の防壁よ、対敵を閉ざし、我が命を守れ『守甲障壁しゅこうしょうへき』!」

「「!?」」


 しかし、ベルクの拳は俺を貫かず半透明のバリアによって阻まれる。障壁は一撃で壊れてしまったが、完全に勢いを消して俺が逃げるだけの時間を稼ぐことが出来た。

 このデジャブ感と魔術……サーナの障壁魔術だ!


「ま、まだまだ行きます!……邪なる者、輝きにて封じる『聖域牢獄』」

「グァ?……ガハァ!?」


 ベルクの周りに突如として現れた魔法陣からベルクの速度を凌ぐ速度で輝く紐のようなもが現れ、ベルクを瞬く間にぐるぐる巻きにする。


 ベルクが突然のことに対処出来ないうちにさらに現れた紐と同じく光る障壁がベルクを囲うように何枚も現れて閉じ込めた。


「ふ、ふふふ……。この魔術は邪な者……つまり、魔王に近ければ近いほど強力な障壁を作る魔術です〜。これで完封……はさすがに無理ですけど、皆さんが休憩する時間は〜……ううっ!?」


 サーナが軽く魔術の説明をしている途中に、サーナの魔術からものすごい音と衝撃が発生する。明らかにベルクが暴れている音だった。


「じ、時間稼ぎもあんまり無理かもしれません〜……」

「いや、充分助かる。因みに、あとどれ位保てる?」

「30……いえ、一分閉じ込めてみせます!」

「流石だ。二人とも!彼女が与えてくれた時間で作戦会議だ!君も聞いておいてくれ」

「……「了解」!」

「は、はいぃ……」


 サーナがベルクを抑えて時間を稼いでくれている間に俺達はサーナの近くに集まってほんの少しの回復がてら作戦会議を始める。

 

「君の魔力はあとどれ位なんだい?」

「え、えっと……少し回復しただけなのでそこまでです……。この魔術に全部使おうと思ってたんですが〜……」

「なら、私達の作戦会議が終わったら今の魔術を解いてくれ。確実に君がこの戦いへの重要な勝利の鍵となる」

「私が……鍵……」


 サーナは感傷気味にレミアクランの言葉を復唱する。確かに、レミアクランも聖属性魔術という魔王に効く魔術が使えるが、サーナ程強力な技は使えないように感じる。


 それを考えると、あのベルクにとどめを刺すためにはサーナの魔術は確実に必要だ。


「さて、無駄な時間を省こう。私には作戦がある。君達は?」

「……ない」

「俺もない」

「よし、私の作戦で行こう。彼女が魔術を解いた瞬間に私が突っ込む。そこでレンゲは魔術を、ナルミはレンゲのサポートを。流れはその場の状況で自己判断。君は何時でも障壁を展開できるように。いいか?」

「わかった」

「……ん」

「りょ、了解です〜!」

「よし、行くぞ!君!」

「はい〜!」


 レミアクランが最低限の作戦を言った後、サーナに合図してサーナが障壁を解く。


 そして宣言通りベルクに接近するレミアクラン。そして魔術の詠唱を始めるレンゲ。

 作戦の詳細的な意味は分からないが、レミアクランを信じてレンゲとサーナを背にベルクを警戒するのであった。

  


 

 ♦♦♦♦♦



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 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!






 

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