第70話 始まり
「いや〜、ついに来ましたね〜!美魔身祭初日ですよ〜!まぁ、私達が入れる時間はあと数時間後ですけどね」
「ああ、楽しみだな」
「……依頼に行く?」
「いや、もしもの事があったらダメだし辞めておこう」
遂に待ちに待った美魔身祭。サーナほどではないが俺達もワクワクしていた。
心なしか会場の方向からの歓声が聞こえるこの街で時間をつぶしながら俺達は道を歩いていた。
「ちなみにナルミ三体はこの祭りが終わった後の事とか考えてたりするんですか~?」
「そうだな。とりあえずこの国の王都に行った後、この国を出て他の国に行こうと思ってる。他の種族の国にも行ってみたいし、俺の目的の場所は人族の国じゃないんだ」
「へ~……。目的ですか?」
「ああ。あまり他言はできないが、なかなか困難な目標なんだ。それを達成するために旅をしてる」
「なるほど~。レンゲさんもですか?」
「……私はナルミに着いて行くこと。それと強くなることだけ」
まるで強くなることがついでの様な……。まぁ、レンゲがそれでいいなら別にいいんだが。
「……サーナは?」
「へ?」
「……サーナは何か目標、ある?」
まさか自分が聞かれるとは思っていなかったのか、サーナはレンゲの問いに数回の動揺と逡巡を繰り返した。
「私の目標ですか……。そう言われるとあまり考えた事なかったですね~。あえて言うなら……認められたい、ですかね」
「……」
「それってやっぱり、家族の事か?」
サーナのおじいさんから聞いた話を思い出す。やはりサーナも自分が住んでいた家や村を出ることに少なからず思うところがあったのだろう。
「はは~、やっぱり聞いてましたか。そうです。私は迫害とまではいかないものの、あまりいい扱いをされませんでした……。あ、家族は愛してくれましたよ~?愛してくれなかったのは、私の住んでいた国そのものです……」
魔術という概念そのものへの差別。この世界で生まれた生物である以上、多少は魔力は持ってはいるとは思うがそれでも許せるものではないのだろう。
「私はまだ恵まれてる方です~。こうやって国の外に出られましたし、お友達もできましたから~。でも、獣人の国に一定数、私と同じ境遇の人がいて、国から出ることもできず今も苦しんでます。それをいつか私が認められることで解消される……なんて、子供っぽい考えで鼻で笑っちゃいますよね~……」
サーナは自虐的に苦笑いしながらそう言う。きっと口できくだけではわからな、本人にしかわからないつらい出来事もあっただろう。
それでも自分以外を思う考えを馬鹿にすることも、鼻で笑うこともできるだろうか。
「そんなことは無い」
「ナルミさん……」
「俺は自分の故郷を追われるような経験はしたことはないけど、もし俺がサーナと同じ境遇になったら国をただただ恨んだと思う。なのにサーナは他人のことも考え、その国を自分で変えたいと考えてる。それはなかなかできることじゃないさ」
「……ん、サーナならできる」
「そ、そんな!買い被りすぎですよ~!私なんてただの夢見がちな寝坊助わんこです~……」
「確かにな」
「……それはそう」
「ちょっ?!そこは『そんなことない』って言ってくれるとこでしょ~!?」
俺とレンゲは笑い、その様子を見てサーナはほほを膨らませた。どうやら不満なようだ。
俺達はこれ以上暗い話はせず、会場に入れるまで楽しく街をぶらつくのであった。
わぁぁぁぁぁl!!!!
まるで剣が自分の意志で避けているかのように人と人の肌の隙間を通り、華麗な衣装を着た女性は飛び交う剣など気にせず自由に踊る。
その隣ではピエロの様な格好をした彼がボールの上に立ち、カラフルな棒をジャグリング?をしているだけでなく、その棒の軌道を魔法陣の様にして魔術を使っていた。
更にその隣では紳士の様な見た目の男性数人が剣術を披露しており、全員が一糸乱れず動いたかと思えばスキルか何かを使ってカラフルな蝶を作っていた。
全組が披露し終わると大きな拍手が会場を包んだ。全員が引けを取らない素晴らしい演出が続き、一切飽きることなく観客は楽しんだ。
勿論、俺達も例外ではない。
「いや~、やっぱり何度見ても飽きないですね~!あ、ちょっと感動で涙が……」
「ああ、どの組もクオリティが高くて目が離せない。これはここまで有名になるだけあるな!」
「……剣筋が全くブレてない。すごい」
想像以上に完成したその技術を披露する彼らに、俺達は感心したり感激したり納得したりしていた。
「実はいつかこの祭りに出ようとコツコツ練習したりしてるんですが~……やっぱり実際に見ると彼らには敵いませんねぇ」
「お、いいじゃないか。いつか見せてくれよな」
「え?!や、やっぱり恥ずかしいから遠慮しときます~……」
「……優柔不断」
「ぐふっ……」
ズバッとレンゲに言葉の刃で斬り裂かれるサーナを見ながら次の人たちを待つ。そろそろだろうか?
『お待たせしました!次の演者が入ります!っと、その前に!ついにこの時がやってきました!』
ざわざわっ……!
司会の魔法道具で拡張した大きな声が響く。そしてその含みのある言葉に会場がざわついた。
「おおお!やっぱり私の予想通り来ましたか……!」
「これは多分。いや、確実にそうだろうな!」
「……Sランク」
『さぁ、皆さん!ご注目ください!彼女こそが世界最強の冒険者の一人であり、剣と魔力に愛された天才少女!!!Sランク冒険者・『レミアクラン』その人だぁ!!』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
会場が揺れるほどの今日一の歓声が会場に鳴り響く。流石すべての冒険者の夢でありロマンであるSランク冒険者というべきか。
その人気ぶりに本人も少し驚いた様子を見せつつ、すぐに気を取り直して手を振りながら会場の真ん中に向かった。
「ん?どこかで見た事が……あ!?あの時の!」
「……あ、思い出した」
「え!二人とも会ったことあるんですか!」
「いや、なんて言うか……」
「……通りすがった」
「まぁ、そんな感じだな」
そう考えると、白銀貨なんて何枚でもすぐに稼げるSランク冒険者なら簡単に白銀貨を渡してきたのに納得がいった。
「皆、声援ありがとう!その声援に応えるために全力を尽くすよ!」
『では、お願いします!!』
そういうと、スピーカーの様な魔法道具のノイズが止まり、彼女は剣を抜いて構えを取った。
あれだけ騒がしかった会場に静寂が訪れる。皆、彼女の剣技を目に焼き付けようとしているのだ。
そして始まる彼女の剣舞。ゆっくりと遠目からも業物とわかる剣を振り上げ、鳥肌が立つような綺麗な剣筋で振り下ろす。
その瞬間、会場は未知の爆音に包まれた。
♦♦♦♦♦
『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!
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