第69話 家族




「あ、もしかして」

「ん?ああ!ナルミ君!レンゲちゃん!やっぱりこの宿に来てたのか!」


 俺達が宿に戻ると、そこには見覚えのある女性がいた。俺達に宿を紹介したエマさんだ。


 俺がエマを見つけたのと同時に彼女もこちらを発見し、笑顔で手を振ってくる。


「どうしてここに?」

「あれ?ここの女将さんに聞いてないのかい?」

「……そういえば変人家族だった」


 エマ達家族は宿が大好きで一年のほとんどと宿で暮らしているらしい。

 そう考えるとエマに紹介されたこの宿に居てもおかしくない……のか?


「ってことは、他の三人って 」

「エマの父だ」

「エマの母です」

「エマおねーちゃんの妹です!」

「もちろん私の家族さ!」


 人が良さそうな男性とエマにそっくりな女性二人。予想通り三人はエマの家族だったようだ。


「一応聞いておくけど、パーティの皆は?」

「別行動だよ。実はこの祭りは年に一度の家族と会える期間なんだ。だから依頼の時以外は家族と一緒なのさ」

「別にずっと居なくても良いのよ?仲間との関係も大丈夫なんだから」

「え〜?私はおねーちゃんの話いっぱい聞きたい!」

「はっはっ!エマが一緒に居たいと言ってるのだからいいじゃないか、な?」

「皆さん仲がいいですねぇ」

「「「「でしょ?」」」」

「……似た者家族」


 俺とレンゲはそんなエマ一家に苦笑いする。


 家族……今更だが、俺もレンゲも家族に会えることはないだろう。

 親が亡くなったのではなく俺自信が事故で死んだので実感は薄れていたが、別世界に転生したので写真どころか痕跡すらもう見ることはできないのだ。


「……ナルミ?」

「ん?どうした?」

「……なんでもない」

「そういえばレンゲちゃん!すごい可愛くなってない?!お化粧までして、もしかしてファッションに目覚めた?」

「……あってるけど間違ってる」

「えぇ!?どゆこと?お話聞かせてよ!」


 そのまま誘い込まれる様に一緒に食事することになった。

 最初は家族団欒に混じるのはどうかと思ったが、それもまた宿屋の楽しみだと言うのでエマ達が満足するまで話をするのであった。



 そこから数時間。外も真っ暗になり、エマの妹さんがテーブルで寝てしまったのを機に解散という流れになった。


「これ以上は引き止めるのは流石に明日に響きかねないからここで解散だ。まぁ、全員同じ宿で泊まるんだがね」


 そういうことで俺達はそれぞれの部屋に戻った。

 俺とレンゲが一緒の部屋に入る時に黄色い悲鳴(小)が聞こえた気がするが気の所為だ。


「じゃあさっさと今日は寝ようか。おやすみ」

「……ちょっと待って」

「どうした?」


 もはや慣れてしまったレンゲとの同衾。上着や装備をしまって寝心地は普通のベットに倒れ込む。


 しかし、レンゲはベットに入らずベットの位置からは中が見えない部屋に入った。


 少し待っていると、服を寝巻きに着替えて化粧を落としたいつも通りの見た目のレンゲが現れる。


「ああ、そっか。買ったばかりの服を着て化粧をしたままじゃ寝れないよな」

「……ん」


 そしてレンゲはいつも通り俺の右腕を枕にするように一緒のベットに入った。

 因みに、角は絶妙な位置にあって痛かったことは一度もなければ傷もない。


「……ナルミ」

「どうした?」

「……ナルミの家族は?」

「……やっぱり、レンゲには敵わないな」


 たった一瞬の無言で俺が家族について考えていたと見抜くその洞察力は流石としか言えなかった。


「そうだな。俺はもう、家族とは会えないんだ」

「……亡くなったの?」

「いや、少し違うんだ。ちゃんと生きている筈だ」


 俺と同じように事故ったり病気になったりしてないなら生きているはず。それも俺には確認するすべはない。


 教会で女神様に聞けば分かるかもしれないが……。今の俺にとって無駄な未練になってしまうかもしれない。それは避けたかった。


 そろそろレンゲにも話すべきか。例え異世界だろうと「異世界から転生してきた」なんて言ってもそう簡単には信じて貰えないだろう。


 レンゲなら俺の言葉を信じて受け入れてくれるかもしれない。

 だけど、俺はまだ自分の目的すら教えていない。なのに自分の秘密を、孤独を共有する為だけに話していいのだろうか。


 それは無責任……いや、不誠実なのでは無いのだろうか。


「詳しくは今は言えないけど、俺の家族はとても遠くの場所にいるんだ。それも、一生会えないぐらいに」

「……そう。家族と会いたい?」

「会いたくないって言えば、嘘になるな」


 きっと俺がごまかしたことぐらいレンゲは簡単に見抜いているだろう。しかしレンゲはそれ以上深く問わなかった。

 いつか俺から話してくれるのを信じてくれているのだろうか。


 何度も心に決めた誓い。強くなろう。魔王を倒せるぐらいに。今のままでは魔王を倒す、なんて胸を張って言えない。


 レンゲはモゾモゾと動いて俺の頭よりも上に行ったかと思えば、俺の顔をギュッと抱きしめた。


「……おやすみ。ナルミ」

「ああ、おやすみ。レンゲ」


 偶には、俺も甘えよう。

 レンゲのあの強さからは想像もつかない小さく柔らかい体を抱きしめ、俺は眠りにつくのであった。




 そして夜が明け、ついに待ちに待った『美魔身祭』が始まったのであった。


「「「昨夜はお楽しみでしたね!!」」」

「やかましいわ!」





 ♦♦♦♦♦



 たまにはこういうベタなネタもいいよね。


 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!

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