第61話 秘密




「えへへ~、見てくださいレンゲさん!これは村の近くの滝の絵でして~」

「……上手」


 夕ご飯を食べ終わり、これ以上居ても迷惑かなと思い感謝を告げて出ようとしたが、サーナがもうちょっとと止めてくるので少しだけ休むことになった。


「すまないな。うちのサーナがわがままを言って」

「いえ、特に急いでるわけでもないので」

「ならいいんだが。……久しぶりにあの子があんなに笑っているのを見たな。いや、もしかしたら初めてかもしれん」


 カルさんはレンゲと戯れているサーナを微笑ましそうな、されど悲しそうな眼で見つめる。

 俺はそんなカルさんに少し気になったことを訪ねる。


「それってもしかして、サーナが先祖返りであることが関係していたり?」

「!?なぜそれを!?」

「彼女自身から聞きました」


 カルさんは俺を驚きで見開いた目で数秒間見つめ、眉間を押さえて目をつぶって溜息を吐く。


「まったくあの子は、あれだけ秘密だと……。いや、あの子なりに信用できると思ったのか?……先祖返りにについてはどれぐらい知っている?」

「サーナから軽く教わって、先祖返りには二種類あってサーナはあまりよく思われてないとかなんとか」

「なるほど……」


 カルは少し思案した後、覚悟を決めたようにこちらを見ながら話し始める。


「あまり詳しくは言えないが、私たちはただの『犬人族』ではなく少し特殊で且つ歴史のある種族で、あの子の両親はその種族の長なんだ」

「へぇ……つまりカルさん達は先代の長?」

「ああ、彼らにサーナという娘が生まれ、私達もそろそろ年だからと長の地位を彼らに譲ったんだ。……そしてその直後、サーナが先祖返りだとわかった」


 カルさんは楽しそうに笑うサーナを見る。一瞬顔が緩むがすぐに少し悲しそうな、さびしそうな顔になる。


「その昔……いや、今でも少なからず存在するが、私たち獣人族は魔力をほとんど持っておらず魔術もスキルもまともに使えない無能な存在として差別を受けた。勿論、その差別に私たちは抵抗した。その結果、差別は基本的になくなり今では獣人と異種族が結婚するなんて話もよく聞くようになった。しかし……」

「……」


 突然獣人族に関する暗い話をされて驚くが口を挟まずに黙って聞く。差別が無くなったことはいいことだが、まだ続きがあるようだ。


「……多くの私たち獣人は、特に種族の長等の獣人族を支える高齢の者たちが魔術を毛嫌いするようになった」

「……なるほど、だからサーナの先祖返りは良く思われていない、と」

「その通りだ」


 どうやらサーナの言っていた昔の獣人族も身体能力で~の奴は所謂『表の理由』らしく、先祖を敬いましょう的な感じのようだ。

 カルさんが言ったのは『裏の理由』で、表の理由で覆い隠すことで自分たちが他の種族の様に差別意識があるというのをごまかしているらしい。


「そういった理由であの子は一歳にも満たない頃から他人との交流が遮断され、私たち以外に話す相手もおらず友人も居ない。文字通り箱入り娘になったという事だ」

「なるほど。そういわれると箱入り娘っぽいところもあったなぁ」


 一番最初の突然オタクトークをぶちまけたのも人との距離がわかってなかったり?……いや、あれはただ語りたかっただけだな。


「冒険者ならこの街を出ることになると思うが、この街に居る間はあの子と仲良くしてもらえると助かるよ」

「ああ、勿論」


 それから少しした後、俺たちはサーナ達の家を出るのであった。





 次の日、流石に今日はもうギルドも落ち着いたようで人だかりは無くなっていた。

 それでも少し人は多いが気にすることは無いだろう。


 今日も忙しそうな受付嬢さんから依頼を受けて門に向かう。流石に今日はサーナと会うことは無かった。


「……今日は?」

「えっと、グレーウルフ討伐とハイグレーウルフ討伐だ」

「……上位種?」

「ああ、ホブゴブリンと一緒で親玉的な奴だな」


 まあグレーウルフが一回りデカくなっただけだが、それでも群れのボスをするだけの強さを持つ魔物だ。油断はできないだろう。


 レンゲなら大丈夫だろうけど一応、俺が事前に手に入れておいた情報を共有していると……。


「ちょちょっ、君たち!」

「うおっ!?な、なんですか?」

「す、すまない。突然で申し訳ないが少し私と話を合わせてくれないか?な?ちゃんとお礼もするから頼まれてくれないか?な?!」

「わ、わかったから落ち着いてくれ!」


 本当に突然、目の前の曲道から女性が飛び出てきて俺の肩を掴んで至近距離で頼み込んでくる。

 俺を掴んでいる腕を振り解き……解き……いや、力強くね?!


「く、来る!?よし、頼むぞ」

「わ、わかったけど……って、ええ?!」

「……不思議」

「なぁそこの君達!ちょっといいかい?」

「へ?あ、なんですか?」


 謎の女性が手に付けた指輪に魔力を入れた瞬間、彼女の髪の色も髪形も目の色もつけている装備も肌の色さえも全部一気に変わり、全くの別人に変わった。


 そのことに驚いていると謎の女性が曲がってきた曲がり角からさ数人ほど鎧を着た人達が現れて話しかけてくる。見た目的にこの街の騎士だろうか?


「すまないが、ここを誰かと通らなかったか?」

「いえ、誰かと言われましても……」

「特徴を教えてくれないとわからないな」


 変装した謎の女性が少し強気でしゃべる。いやあんたこの人たちから逃げてるんじゃ?


「ああすまない。その人物は女性で黒髪で目の色は緑に近い。丁度君ぐらいの身長だが肌はもう少し白かったか?まあそんな感じだが見ていないかい?」

「すまない。見覚えがないな」

「お、俺もないです」

「……私も」

「そうか、すまない。時間を取らせてしまったな。では」


 騎士はそういうと軽く会釈して後ろの騎士と一緒に行った。どうやら何とかなったようだ。


「……ふ~、何とかなったな。すまない助かった。これを受け取ってくれ」

「え?ありがとうございます……。って、あんたは何をしてあの騎士?に追いかけられてるんだ?」


 女性は俺の手に何かを乗せて去ろうとする女性にすかさず問いかける。


「ん?あぁ、なんというか……自分で言うのもなんだかこれでも少し立場がある人間でな、この街の領主に呼ばれてるのだがちょっとな……まぁそんな感じだ。じゃあもし機会があれば今度ゆっくり話そう。ではな!」

「ああ、また……」


 そういって謎の女性は期限がよさそうに騎士たちとは真逆の方向に歩いて行った。

 騎士たちは別に焦っているわけでも緊迫しているわけなかったので犯罪者でもないだろうがあの人を助けて大丈夫だったのだろうか。


 少しの間、呆然としているとそういえば女性に渡されたものを思い出す。


 手のひらを開けるとそこには……白銀貨一枚(百万円)があった。


「え……ええええええ!!!!???」


 突然の報酬に俺は驚いて叫ぶしかできなかった。


「……只者じゃ、ない」


 そんな俺を横目に、レンゲはもう見えなくなった女性の方向を見つずけていたのだった。




 ♦♦♦♦♦


 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!

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