第60話 絵画
サーナに連れられやってきた場所は何の変哲もない民家だった。
中に数人の人の気配がする。たまにサーナが口走る『爺や』がいるのだろうか?
「みんな~!ただいま~!」
「ん?おお、サーナお帰り。おや?そのお二人は?」
サーナが家のドアを開けると、ドアの近くにいた男性が迎える。見た目からして『爺や』だろう。
「あ、爺や!ただいま~。この二人は昨日話した並んでた時に仲良くなったお友達!どうしてもお礼がしたくて連れてきたんだけど、ダメだった?」
「ほうほう、お礼をすることはいいことだ。婆やに頼んで今日はご馳走にしてもらおう」
「わーい!」
どうやら彼が爺やで間違いないようだ。
サーナは爺やの許諾に大喜びして家の奥に入っていった。『婆や』にご馳走を頼みに行くのだろう。
「さて、自己紹介がまだだったね。私の名前は『カル』。サーナからは爺やと呼ばれているしがない老人だ。よろしくな」
「俺の名前は鳴海。こっちはレンゲ。冒険者をやっている。聞いてるとは思うがサーナとは並んでる時に出会った。よろしく」
「……よろしく」
サーナに爺やと呼ばれ『カル』と名乗った男と自己紹介を交わす。彼はサーナとよく似た尻尾と耳があり、同じ獣人族なんだなと思わせた。
しがない……か。優しい笑みを浮かべてはいるがその目は一切警戒を解いておらず、その立ち姿にはほとんど隙は見えなかった。
まぁ、家族の友人と言われてもあったばかりの人を警戒するのは当たり前か。
「立ち話もなんだろう。ささ、家に入りなさい」
「じゃあお言葉に甘えて、お邪魔します」
カルさんに連れられて家に入ると、テーブルとイスが置かれてあるリビングらしき場所に案内される。
部屋の中には特に変わったものは見られないが、三枚だけ並べて飾られた絵が気になった。
「あれは……」
「ああ、左側のは私が、真ん中のはサーナが、右側のは『婆や』が、つまり私の妻が描いた絵だ。私は軽く教わっただけであまり上手くないが、妻は一時期それを生業にしていた程の腕だ。素晴らしい絵だろう?」
「確かに、右側の絵は背景の奥行や色の使い方が圧倒的に上手な気がする」
絵に関する知識はほとんどないのでその程度しか言えないが、確かに右側の絵が他二つと比べて圧倒的に上手だった。
あまり上手くないと言ってはいるがカルさんの絵も十分上手だと思う。
そして真ん中の絵は、丸い円の顔に棒でできた体と変な形の木々が書かれている典型的な子供の絵だった。
「それはサーナがまだ三歳……いや、四歳だったかな?その時に描いた絵だ。妻の横で一緒に絵を描いている様子は何度見ても可愛らしくてな。今でも時々妻に教わりながら描いてるのだよ」
「へぇ、皆さん仲がいいんだな」
「……ん、仲良し」
「いえいえ、親馬鹿……いや、孫馬鹿なだけですよ」
そんな雑談をしながら少しの間その絵を見ていると、サーナの絵と右側の絵に共通点を見つける。
「あれ、もしかして真ん中と右側の絵は同じことを描いてたり?」
「お、よくわかったな。その通り二人で同時に同じ絵を描いたものだ。この時も妻の隣で絵を描いていたらしい」
左側のカルさんが描いた絵は森を描いただけの風景画だが、真ん中と右側の絵は森を背景に二人の男女が中央に描かれていた。
「これはサーナの両親を描いた者でな、私たちの娘とその婿だ。今は私たちと彼らは別居しているが、今も二人は平和に暮らすているはずだ」
「そうだったのか……。因みにいつから?」
「今から丁度五年前だ。あの日も今日みたいに祭りで騒がしかったのを覚えてる。あの子があの祭りにドハマりしたのはそれが影響してるのかもな」
カルさんが少し懐かしむように語る。サーナの両親と別居した理由を聞けるほど彼らと仲は良くないので聞かないが、彼らにもそうせざる負えない理由があったのだと理解するには十分な表情をしていた。
「お待たせしました~!今日はとっても豪華ですよ~!」
「ふふ、今日のサーナはいつにも増して元気ねぇ」
するとそこにサーナが両手にお皿を乗せて部屋に入ってくる。どうやら準備ができたようだ。
サーナの後ろにはお盆にお皿を乗せて持っている女性がいた。
「婆や!あの二人がさっきも言ったお友達だよ!」
「どうも、俺の名前は鳴海で、こっちはレンゲ」
「……(こくっ)」
「はい、ナルミ君とレンゲちゃんね。話は聞いているわ。私は『ドミナ』と言います。サーナとお友達になってくれてありがとうねぇ。この子はいつも家に居てばかりだから友達ができるのか心配してたのよ」
「ちょっと婆や!?」
「しかもまさかお礼に家に連れてくるなんて……私にずっとくっついてたサーナも成長したわねぇ……」
「も~!私だっていつまでも子供じゃないんだからね~!」
よよよ、と明らかな嘘泣きをしながらドミナさんは器用にお皿を並べる。
全くサーナ達が反応しないのを見るにドミナさんの嘘泣き芸(?)は日常茶飯事なのだろう。
「これで最後っと。婆や、全部運び終わったよ~」
「はい、じゃあサーナも座りなさい」
「は~い」
「では、代表して……自然と食材の命に感謝を……」
「「感謝を」」
カルさんに二人も続く。
獣人族の文化だろうか。彼らは両手の指と指を胸元で交差させて握る。拝むような姿勢だ。
神ではなく自然に感謝を捧げるのが獣人族っぽさがあった。
「ああ、すまない。これは獣人族の習慣でね、無理にマネしなくて大丈夫だ」
「そうですか?では、いただきます」
「……いただきます」
俺は手を合わせてそう言った後、料理に手を付ける。いくつか見たことのないが良い匂いがする料理があったので興味がそそられた。
「ふむ、ここらではあまり聞いたことない文化の挨拶だな。鬼人族の挨拶かな?」
「……鬼人族はあんまりそういった文化は無い」
「俺の故郷の文化の挨拶だ。レンゲも俺にならってる感じだな。あ、これって何ていう料理なんですか?」
「ほほう、やはりいくつになっても知らないことは沢山あるな」
「ふふ、これは『寒ぼか焼き』と言ってね、手づくり饅頭に特製のタレをかけた料理で……」
「レンゲさん!これ、私の好物なんで食べてみてください~!」
「……ん、わかった」
そんな雑談をしつつ、俺たちはドミナさんたちの手料理に舌鼓を打ったのだった。
♦♦♦♦♦
『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!
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