第23話 買い物



 鳴海とレンゲはリラちゃん達に教えて貰った通りに地図を見ながらも服屋に向かった。


「え〜と、確か服屋を四軒スルーして……お、ここかな?」

「……ん、ここっぽい」


 その店の見た目はさっき見た四軒に比べて少し地味というか落ち着いた感じだった。


 他のお店は大きく派手な看板を付けていたり、大きな窓から店内を見せることで気になる服を外から見つけることができるようにしていたり、とにかくカラフルな装飾をしていたりと、とにかく目立つようにしている店が服屋だけではなくほかの店にも見られた。


 しかしこの店はそういうものが一切なく、小さな看板に「テリーヌの服屋」と、書かれているだけだった。


「よし、入るか」

「……ん」


 扉を開けて中に入る。建物の中は服屋さんらしく沢山の服があり、ちゃんと服屋さんだなと少し安心した。


 お会計をするであろうカウンターの所にも店員さんがおらず、周りを見渡しても人がいないので少し心配になる。


「すいませ〜ん。誰かいますか〜?」

「はいは〜い!」


 誰かいないかと少し大きな声で呼ぶ。すると少し声の高い女性の声が聞こえた。

 すると壁越しに少し慌てたように足音が聞こえたかと思うとカウンターの奥の扉が開く。そこには茶髪の女性が立っていた。


「いや〜、ごめんね?この時間帯にお客様が来るのは久しぶりでさ〜」

「な、なるほど」


 この時間帯は一番人が来そうなもんなんだが……。

 まあ、店が開店し続けてるってことはそれなりに儲かっているのだろう。


「実は『雨宿り亭』のリラちゃんからここをおすすめされまして」

「え、そうなの!?そっかぁ、リラちゃんからかぁ。いや〜やっぱり知人から自分の店宣伝してもらうのって嬉しいですね〜。あ、そうだ!フェナさん元気にしてる?最近寝込んだみたいだけど?」

「ええ、元気にしてましたよ」


 フェナさんとはリラちゃんのお母さんのことだ。行動する時間がちょうどお互いに忙しい時間帯なのであまり喋れていないが、たまに聞こえる声や仕事ぶりはまさに元気いっぱいという様子だった。


「そっか〜、良かった良かった。最近忙しくて会いに行けなかったけど、元気なら大丈夫だね!」


 そのまま機嫌が良さそうにテリーヌ(?)さんは鼻歌を歌い始めた。


「……服」

「あ、そうだった。あのー機嫌良さそうなとこ悪いんですけど、そろそろ服を買いたいんですけど……」


 彼女が元気の良さに押し負けて本来の目的をすっかり忘れていた。


「あ、そうだったそうだった!いや〜、すっかり忘れてたよ!なはは!」


 いや忘れるなよ……と、思うが自分もお客の癖に忘れていたので何も言わない。


「じゃあ改めて。いらっしゃいませ!ここは『テリーヌの服屋』さん!そして私がテリーヌ!店の名前に捻りはないけど、うっさいお客さんを捻り潰すのは得意だよ!なはは!」


 いや、捻り潰すなよ……と、言ったら捻り潰されそうなので辞めておく。


「で、君たちは何を買いに来たんだい?」

「あ、そうですね。まずは自己紹介しときます。俺の名前は鳴海、こっちはレンゲ。まだまだ若輩だけど冒険者やってます。今日は主にレンゲの服を、ついでに俺のも合わせて下着を買いに来ました」

「……(コクッ)」

「おっけーおっけー、ナルミくんとレンゲちゃんね。え〜と、女の子用の服はこっちだよ♪」

「……っ!?」


 そう言ってカウンターから出てきたテリーヌさんは強引にレンゲの手を取って女の子用の服の場所に向かった。


「あっ!」


 余り自分が気にしないので忘れていたが、レンゲは顔が見られたくない且つ鬼人族に関しては秘密だった。


「ふふん♪まずはそのあんまりセンスが良くないローブはバイバ〜イ!」

「……っ!?」


 テリーヌさんはローブを目にも止まらぬ早さでレンゲから剥ぎ取る。


「へ〜、鬼人族かぁ。いいね!」

「へ?」

「……え?」

「ん?二人ともどうしたの?」


 余りにごく自然に受け入れたのでびっくりした。冒険者ギルドのララさんでさえ驚愕して少しの間固まっていたのに……。


「えっと、テリーヌさんはレンゲが鬼人族ってことに何か思わないんですか?」

「ん?そりゃあ思うわよ。『いいね!』って」

「いやいや、そういう事じゃなくてですね……」

「……怖くないの?」


 テリーヌさんが的はずれなことを言うのでレンゲが恐る恐る聞く。


「怖い?……あ〜ね、そりゃあ怖がる人もいるわね。でも私は色々あって色んな種族の人と交流があるの。そのうちに鬼人族もいるわ!しかもレンゲちゃんより何倍もでかくて厳ついやつ。だから怖がるわけないのよ!」

「な、なるほど。色々ですか」

「そう、色々」


 テリーヌさんはなんでもないように言うが、鬼人族は現在はとても少ない種族。それも口調から考えるに鬼人族レベルの少数種族に何人もあってる様子。テリーヌさん……何者なんだ。

 レンゲもこんなに早く鬼人族を怖がらない人が見つかって呆気に取られているようだった。


「さーて!そんなことよりレンゲちゃんの服選びよ!ナルミくんも手伝いなさい!って、レンゲちゃん?なんで顔を隠そうとしてるの?」

「……顔を見られるのが苦手」

「え〜?なんでなんで?そんなに可愛いのに〜」


 レンゲはふと思い出したように脱がされたローブで顔も隠す。


「すいません。レンゲは顔が見られるのが苦手で鬼人族である事も隠してるので出来れば顔を隠すことが出来る服をお願いします……」

「え〜?しょうがないなぁ……。え〜と、フード付きの服で鬼人族である事も隠せる服ねぇ……」


 テリーヌさんは顔を隠そうとするレンゲの手をまた無理やり取ってレンゲの似合いそうな服を探し始めた。

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