第14話 少女
尻もちを着いてこちらを呆然と見つめている彼/彼女に近づく。
「君、大丈夫かい?」
近づいてもまだ呆然と見つめてくる彼/彼女は、話しかけるとハッとしてしりもちを着いたま腕の力で後ずさる。
明らかにこちらのことを警戒してるので剣をしまい、しゃがんで目線の位置ををできるだけ下げて話しかける。
(もしかして腰が抜けてるのかな?)
「大丈夫。危害を加えるつもりは無いよ?」
できるだけ落ち着いて優しく語りかける。変に近づいたり触ろうとしてももっと警戒されるだけだろうと思い、相手からアクションを起こすまで「大丈夫」と、繰り返す。
……なんか、何となく思いついた方法を試してるけど、客観的に見たら男の大人が子供を誑かしてるようにも見えなくもないな……。
……考えないようにしよう。
見つめ合うこと約5分。鳴海の誠意が伝わったか話しかけてきた。
「……痛いことしない?」
「っ!……ああ、絶対にしない。」
一瞬、いきなり喋ったことや、凄く可愛い声だったことに驚いて思考停止してしまったが、すぐに返事をする。
少しの間見つめあったあ後、信じてくれたのか少し安心したような気配がした。
「……そっちに行ってもいいかい?」
彼/彼女……いや、彼女は一瞬警戒心をあらわにし少し考えるような素振りをした後、コクっと頷いな。
鳴海もあまり警戒されないようにゆっくり近づく。
もしかしたら自分の種族とか容姿にコンプレックスを抱いていたりする可能性があるので、フードを退けるようなことはせずそのまま頭を撫でた。
彼女は頭の方に手を移動させた時少し怯えた目をしたが、撫でられてすぐに気持ちよさそうな目をした。もしかしたら頭を叩かれると思ったのだろうか?
少しの間撫でていたがそろそろ話を進めなくてはならないので、撫でるのを辞め彼女に話しかける。
「君はどこから来たんだい?」
「……わからない。」
「わからない?」
もっと撫でて欲しかったのか、物欲しそうに鳴海の手を見ていたが、こちらの質問を聞くと俯きながらそう答えた。
「……変なおじさんに檻に入れられて馬車に乗せられてきた。」
(えっ?!それってもしかして奴隷ってこと?!確かにこの世界には奴隷がいるけど、確か犯罪奴隷だけだったはずだ。)
そう、この世界には奴隷制度がある。
しかし、犯罪奴隷だけであり、身売りによる奴隷や、差別による奴隷(獣人など)などは存在しないはずだ。
昔は存在していたらしいが、なんでも先々代の人族の王が「そんな文化はおかしい!古臭い!」などと言ったらしく、奴隷を禁ずる法律を取り決め、今は獣人などの種族の王達と人族の王が奴隷制度撤廃の契約を代々しているらしく、今は犯罪奴隷以外いない。
逆に、なんで犯罪奴隷はいるのかと言うと、奴隷によって成り立っていた経済や『永久奴隷追放』のような刑罰が存在していて、一部の有力な貴族達が奴隷制度の完全破棄を拒否し、この状態に落ち着いたらしい。
つまり、今の奴隷市場のどこを探したところで犯罪奴隷は存在しない。……表向きは。
目の前のこの子がそんな奴隷にされるような大犯罪を起こしたとは思えない。つまり、そんな法律を完全に無視し、国の目が届かない小さな村などから誘拐された奴隷。いわゆる違法奴隷なのだろう。
そして、誘拐され奴隷にさせられた違法奴隷達は闇市場的な場所で売られているらしい。
ちなみにこの知識は女神様から貰った知識の中で奴隷があったが、詳しくは説明されてなかったので気になってララさんに聞いた知識だ。
鳴海は奴隷制度のことを聞いて不快になったが、犯罪者しか奴隷にならないとわかって納得はできなくとも受け入れはした。
例え犯罪者でも人権が無くなるのはおかしいと思ったが、現在は王族や貴族たちの働きで奴隷制度に対して嫌悪する人が増え、さっきも言った『永久奴隷追放』なんて罪はそれこそ連続殺人犯のような大罪を起こした人では無い限りその刑罰が適応されることは無いらしい。
だがそれでも社会の闇は消えない。
この子のように違法な手で奴隷として捕まえ売りさばく人がいて、それを買う人がいるのもまた事実のようだ。
……この世界は魔物がはびこり、魔王がいる。前世の日本より圧倒的に人間の命の重さが軽いこの世界では簡単にこういうことが簡単に起こってしまうらしい。
国もそれを対処しようとしているが今は魔王への対応が最優先であり、そこまで完全には手が回らないのである。
「……馬車に乗せられてじっとしてたら、いきなり叫び声が聞こえて、馬車ごと倒れた。そしたら檻がこわれて、そこから逃げ出したら魔物がいっぱいいて、ゴブリンに追われた。それから頑張って走ってただけだから、馬車の場所がとこか分からない……。」
「なるほど。頑張ったな。」
そう言いながら鳴海は彼女を撫でる。長文を話すのは慣れていないのか、少したどたどしい口調で教えてくれた。撫でても抵抗しないあたり、信頼してくれたのかもしれない。
くぅ〜〜〜……
少し気の抜けた音が目の前から聞こえた。
少し恥ずかしそうにしながらお腹を抑えているので、彼女が鳴らしたのに間違いないようだ。
鳴海は少し苦笑いをしながら『アイテムボックス』から食べやすい木の実数個と水を出す。
「はい。食べな?」
「……」
女の子は「良いの?」と、言う感じに上目遣い(フードのせいで分かりずらいが)で無言で尋ねてきたので、無言で頷く。
すると女の子は両手で食料を受け取り、ゆっくり食べ始めた。
「あ、そうだ。君、名前なんて言うの?」
「(モグモグ、ゴクッ)……レンゲ。」
(……レンゲ!?え?
『日本語……わかるか?』
「……?どこの言葉?」
「いや、なんでもない。レンゲちゃんって呼んでいいかい?」
(伝わらない……か、つまりこの子の親が元日本人か遠い祖先が元日本人でその文化が受け継がれてるか、転生者とか関係なく自然に生まれた文化なのか……)
「……うん。いいよ。」
鳴海は試しに日本語で話してみるが伝わった様子もなく、レンゲちゃんが嘘をついてるようには見えなかった。
レンゲちゃんが食べ終わるのを見計らって、今後のことを聞く。
「レンゲちゃん。今後のことについて話そうと思うけど、大丈夫かい?」
「……うん。私も考えてた。」
どうやらレンゲちゃんも色々食べなが考えてたようだ。
「レンゲちゃんが今、住んでいたところに戻りたいのか、もしくは全く違うことがしたいかは分からないけど、とりあえず今は俺が拠点にしているところに行こうと思う。情報がないと君が住んでいたところも分からないし、したいことも見つからないだろうからね。」
「……うん。……私も……それが……いいと思……う……。」
「レンゲちゃん?」
口調が途切れ途切れでどうかしたのかな?と思い、レンゲちゃんの顔を見ると、ほとんど目は閉じられており、今にも寝てしまいそうだった。
もしかしたら、今まで溜まっていたストレスや身体的疲労が安心したことで現れてきたのかもしれない。
鳴海は優しくレンゲちゃんの頭を撫でながら、レンゲちゃんを背負って街に戻る準備をした。
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