多色多彩の栞
飯田橋諭
第1話 大きな木の二人の物語
海が見える丘、そこにある大きな木。
木陰の下で本を読む。5月の心地よい草木の香り、読書が進む。
「あ、また本を読んでいるんですか?たまには身体動かさないと鈍っちゃいますよ」
少女が話しかけてくる、名前も知らない。本を読んでると必ず声をかけてくる。
でも、けっして悪い空気にはならない。
「本が好きだからね」
簡潔に返事をする。
少女の白いワンピースは青空と同化して雲の様に見え、空から語り掛けてくるように思える。
「私も何か読書始めようかな」
少女とのわずかな会話は、読書の中のルーティンワークになってきている。
「じゃあ私行きますね。お邪魔しました」
「ああ、また明日」
少女は軽く手を振ると去っていく。
本を読み始め、本の虫になる。
・・・・・
海が見える崖、そこには木が一本。
そこには本を読む彼が今日もいる。
「あ、また本を読んでいるんですか?たまには身体動かさないと鈍っちゃいますよ」
名前を知らない彼に話しかけるのにも躊躇がなくなった。
「本が好きだからね」
簡単な言葉だけど、温かみを感じる。
はじめてこの崖に来た時、私は消えようとしていた。
しかしそこには彼がいた、人の前で消える事は出来なかった。
その時も何か少しの会話をした気がする。
「私も何か読書始めようかな」
今日話せるのはここまでかな。彼の読書の邪魔は出来ない。
「じゃあ私行きますね。お邪魔しました」
「ああ、また明日」
本に目を落としている彼には見えないかもしれないけど、軽く手を振った。
彼との会話が日常になってきた。もう消えようとは思わない。
私は誰もいないところでまた小さくつぶやく。
「また明日・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます