学校生活は楽しい

 そしてボクの学校生活が始まった。

 寝ている間は性転換の魔法は作動していないので目が覚めてすぐのボクは男の体になっている。ボクはベッドの横に置いてある魔法剣に触れて性転換の魔法を発動し、女の体に戻ってから起きる。

 ベッドから出て腰に魔法剣を身につけリビングに入るとミネが朝ご飯を作ってくれていた。


「おはよう、ミネ。」

「あ、おはよう、リョウ。……寝癖すごいよ? 顔も洗ってきてね。」

「うん。」


 ボクは顔を洗って服も着替えた。この服は先週ミネと一緒に買いに行った服で、久しぶりのショッピングらしいショッピングは楽しかった。スカートも買えばとミネには言われたけれど、元の世界でもボクはいつも私服はズボンでスカートは学校の制服くらいしか持ってなかったので買わなかった。

 全身が見える鏡に映ったボクは当然だけど女の姿だ。服に変なところが無いかどうかチェックする。寝癖も整えて、顔全体や目元や口元も確認する。今度ちょっと化粧もしてみようか。元の世界でもボクはやったことなかったけれど、ミネはいつも軽く化粧をしているのをボクは見ていた。ミネに教えてもらおうかな。


「ほら、リョウ! 時間無いよ! はやく食べて仕度して!」

「わかってるって!」


 ボクは急かされて慌ててミネの作ってくれた朝食を口に突っ込むと、魔法学校に持って行くカバンを引っさげて部屋を飛び出した。



 魔法学校での授業は座学と実習が半々くらいだ。

 ボクは入学したてだったし、この世界の文字もスラスラとは読めないので座学の授業には苦戦していた。魔法の体系についての授業はボクの魔法の経験や実感と結びついて理解ができた時に知識が自分の一部になったように感じられて嬉しい。それとは違い、魔法の歴史や法律についての授業はあまり興味が湧かなくて詰まらなかった。


「リョウさん。わからないところがあったら何でも言ってくださいね。」


 隣の席の、ボクよりも一ヶ月早く入学したというカミエラ・クウォーターがボクを突いてこそりと言った。授業中は私語厳禁だから小声だったけど、ボクが眠気でウツラウツラとしていたので気を遣って声をかけてくれたみたいだった。


「ありがとう、カミエラ。ボクはまだなんとか食らいついてるよ。」


と言ったけれど、次の瞬間には意識がなかった。この教室には、眠りの魔法がかかってるんじゃないだろうかと思う。


「……リョウさん。次はほら実習ですよ。」

「え、あ……。ボク、寝てた?」

「おそらく。」


 カミエラはこの東の国出身で、両親は国の重要なポストに就いているといういわゆるお嬢様だ。そういえば他の国とは違ってこの国の人は名前の意味にはあまり興味がないと聞いた。その代わりに家ごとに名字があって家の名前の方を大事にしているらしい。ボクも初めてクラスで自己紹介をした時に名字を聞かれた。


「ほら、行きましょう。今日は校庭でホウキの乗り方ですって。」

「すごいね。やっぱり魔法使いってホウキで飛ぶんだ。」

「いえ、私もこの学校に入って初めて聞きました。なんでも校長先生の発案だとか。この学校は魔法学校の中でもとびきり個性的な教育方針で有名なんですよ。杖をステッキのように使うのも校長先生以外に見たことありません。」

「へえ……。」



 ボクは校庭に出ると軽くストレッチをした。もうクラスのみんなは先生の周りに集まっている。


「さあて、楽しい実習の時間だね!」


 正直ボクは実習の方が向いていた。ボクの魔法力は他の魔法使いの子よりも桁違いに強い。だから誰にも負けないし、転生者は魔法陣を使わなくても魔法が使えるから、ボクもイメージをするだけで教えてもらった魔法を思い通りに使いこなすことができた。


「リョウさん、すごい!」


 ボクは先生が見せてくれた通りにホウキにまたがるとビューンと空に飛び上がり、校庭を二周して、更に宙返りもして見せた。


「あはははは! こんなの簡単だよ!!」


 この学校ならボクは思い切り魔法を使えるし、使える魔法もどんどん増える。ボクはホウキで飛ぶ魔法に先日覚えた雨を降らす魔法を組み合わせて空に虹をかける。下の方からわぁと歓声が聞こえる。最高じゃないか!


「すごかったです!」


 地上に降りたボクに一人の女の子が話しかけてきた。


「君は、えーっと?」

「私はリリエ・グリーンフィールドです。リョウさん、カミエラさんとよく話してますよね。私はカミエラさんとは入学前から友達で。」

「そうなんだ。よろしくね。」

「はい!」


 ボクとカミエラとリリエは、学校の帰りにカミエラのお奨めのカフェで寄り道してクレープを食べた。あー、楽しい!



「ただいまー!」

「おかえり、リョウ。」


 部屋に帰るとミネが出迎えてくれる。


「今日はホウキで空飛んだんだよ。」

「ホウキで? よくわかんないけれど楽しそうね。」

「ははは、楽しかったよ。」


 ミネが晩ご飯の仕度を始める。ミネは台所の方を向いている。


「あのね、リョウ。私、仕事探したんだけどね……。」

「仕事? 生活費は学校から貰えてるじゃん。」

「そうだけどね。やっぱりリョウが学校行ってる間も家にずっと居るわけにもいかないから。」

「そっか。それでどんな仕事?」

「……それが、この国では魔法が使えないとなかなか雇ってもらえないみたいなの。」

「そうなの?」

「……うん。」


 ボクはその時やっとミネの声に元気がないことに気付いた。


「でも、ミネだったら大丈夫だよ。ミネは何でもできるから。魔法ができなくても、きっと仕事見つかるって。」

「うん。もうちょっと探してみるつもり。」


 ボクは少しでもミネを元気づけようと晩ご飯を美味しいと褒めたり、学校での楽しかった話をしたりした。ミネはボクの話で笑ってくれていたし多分大丈夫だと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る