次の目的地
ボクは気付いたら中央王国の城下町の宿屋で寝ていた。王墓で疲労で倒れてそのまま運ばれたらしい。ボクが起きた時、隣にはミネがいてくれていた。この宿はシュンさんが取ってくれたということだった。
もうマリンの用事はすべて終わっていた。ボクらはこれからは自由にしていいということでお城から解放されたのだった。
翌日、ルカが訪ねてきた。ルカはマリンの使いでボクに王国民の証を届けてくれたのだ。
「これで晴れてボクもこの世界で生活する資格を得たってわけだね。」
「すごいよ、リョウ! 中央王国民には簡単にはなれないんだから!」
ミネは自分のことのように喜んでくれた。
「ルカもいろいろありがとう。」
ボクとミネはルカにお礼を言った。
「ルカはこれからどうするの?」
「私は汽車に乗って東の国に行くつもり。魔女の契約も無くなったし新しい仕事を探さないとね。母校に行って求人情報を探すわ。」
「へえ、魔法の学校かあ。」
「東の国の魔法学校なら中央王国の憑依者に奨学金が出るわよ。」
「無料で勉強できるってこと?」
「そうね。」
ボクは元の世界なら本当はまだ学校に通っている年齢だ。今後のことを考えると魔法学校で勉強をしておくのもいいよな。
「ねえ、ミネ。あのさ、ボク、魔法の勉強がしたい。」
「うん。そうだね。リョウは魔法が得意だし魔法学校を卒業して魔法使いになるのもいいかもしれない。私は賛成だよ。」
「ありがとう、ミネ。」
よし、次の目的地が決まったぞ。東の国か。魔法が発達している国だったっけ。ちょっと楽しみになってきた。
「ルカはいつ出発するの? 一緒に行ってもいい?」
「ええ、いいわよ。出発は三日後ね。」
「わかった。じゃあミネ、それまでにこの国の街を少し見て回ろうか。」
「うん。そうしよう。」
ルカが中央王国の城下町を案内してくれた。建物は西の国と比べると一気に近代化したような印象を受けるが中央王国の城下町は閑散としていて、道も広いのに魔法車はあまり走っていないし、いろんなお店があったと思われるが今は空き家が多い。王墓に行く前に寄った街とは全然雰囲気が違う。ルカはこれが今のこの国の実状なのだと言った。
「あ、あれって……。」
道の向こうから二人の男女が歩いてくる。女性の方は……ティアラさんだ。
「ティアラさん。」
「……あ……。」
ティアラさんは相変わらず口下手の様子だ。代わりに男性の方がボクたちに話しかけてきた。
「君たち! 無事だったんだねえ! 僕も気付いたら寝かされていて何が起こったのか憶えてなくてビックリしたよー!」
「え?」
ティアラさんと一緒にいた男性はよく見るとコウタさんだった。でも髪が緑色じゃない。黒い。雰囲気もなんとなく違っている。うまく言えないけれど、存在がしっかりしているというか……。
「コウタさん!? どうしたんですか? それ、なんか雰囲気が……。」
「あ、これ? いやあ、なんというか恥ずかしいんだけど、僕はこの世界でティアラさんと生きていくことに決めたんだ。この世界の人間としてね。もうドラゴンにはならないよ。」
「それって……、えー……。」
コウタさんとティアラさんの距離が以前よりもずっと近くなっていることにボクは気付いた。つまり……それって……二人は……そういうこと?
「なんかそういうあからさまな変化を見せられると生々しいわね……。」
ルカがボソリと言った。
「リョウくん、ちょっといいかい?」
コウタさんはボクと憑依者同士の話があると言って少し離れたところに移動した。
「リョウくんも中央王国民の証をもらったんだろ?」
「あ、はい。」
「これから憑依者ユニオンに行くのかい?」
「憑依者ユニオンって?」
「違うのかい? この世界に呼ばれた憑依者たちの組合だよ。僕はそこでいろいろ教えてもらったよ。この世界での生き方についても。」
「生き方?」
「うん。リョウくんはこの世界に来る前は西暦何年だった?」
「西暦……二千十九年でした。」
「僕もそうだったよ。西暦二千十九年。でも、僕とリョウくんとではこの世界に来るまでに一年の差があったはずだよね。」
「……そうですね。」
「実はこの世界に呼ばれた憑依者たちはみんな西暦二千十九年の日本から来てるんだ。」
「え? どういうことですか?」
「十年前にこの世界に来た人も、二十年前に来た人も西暦二千十九年。なんならね、百年前も二百年前も、みんな西暦二千十九年なんだよ。」
「ええ!? 二百年前の人も?」
「そうなんだ。それってどういうことだと思う?」
どういうことって……、同じ時代の人間が選ばれているということなのか?
「憑依者ユニオンでは一つの仮説を立てていた。それはね、この世界と元いた世界では時間の流れが全然違うということさ。つまり、この世界で何百年経とうが元の世界ではほとんど時間は経っていない。」
「時間の流れが……違う?」
「うん。だから憑依者ユニオンで僕はこう言われたんだ。まずはこの世界の生を全うしてみよう。元の世界に戻る方法を探すのは焦る必要はない。時間は待ってくれる。もしかしたらこの世界での死が元の世界に戻る方法かもしれないが、それを試すのはこの世界で充分生きてからでもいいんだ。ってね。」
「なるほど。」
「だから僕はこの世界でティアラさんと生きていきたいと思う。ティアラさん騎士辞めたんだ。これからは僕がしっかり支えなきゃ。リョウくんもミネちゃんを悲しませるようなことはしないようにね。」
「あ、はい。」
「それだけ言いたかったんだよ。」
こうしてボクらはコウタさんたちと別れた。二人には幸せになってもらいたいな。
さあ、次は東の国だ!
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