いざ、王墓

 翌日王墓に向かうために出発したボクたちだったが、昨日のことがあったのでみんなコウタさんのドラゴンの性質を意識していてコウタさんと距離を取っていた。

 コウタさんはティアラさんから避けられていることで相当へコんでいるようだ。


「あいつ、連れてく必要ある?」

「コウタさんを連れて教会まで戻る時間はありません。」

「さっきの宿に置いてくればよかったのに。」

「それはそれで危険ですので……。」


 特にルカのコウタさんに対する態度は露骨だった。

 ボクもドラゴンなので気持ち少し居心地が悪い。ミネだけが隣にいてくれている。


「いったい何がどうなって、二人はああなっちゃったんだろう?」

「大人の世界だよね……。」


 ミネがしんみりと言う。



 王墓は岩山に登る道の先にあるらしく、ボクらはそんな感じでバラバラになりながらも一時間くらいの登山で目的地に着いたのだった。


「ここまで誰にも会わなかったね。」

「ここには王墓しかありませんから。」

「いつも警備とかも誰もいないの?」


 ボクの質問にマリンは答えない。

 岩で出来た門をくぐると、ガシャンガシャンと何かが動く音が聞こえてきた。


「……ガーディアンです。」

「あ、ずっと動いてるんだ?」


 ボクらはマリンの指示で物陰に隠れて様子を覗う。

 ちらっと見えたガーディアンの姿は鉄でできたゴリラみたいなロボットだった。大きさはボクのドラゴンの姿と同じくらいだ。思ってたよりも大きい。


「あれを魔法陣から出せば動かなくなるのか。でも今動いてるわけだから……、魔法陣ってどこなの?」

「やはり……。」

「ん?」

「やはりガーディアンは魔法陣の外でも動いているようです。先代の王……私の父の時の試練にも言い伝えと違いガーディアンは止まらなかったと聞きました。」

「それってどうすればいいわけ?」

「破壊するしかないですね……。」

「えー、話が違うじゃん……。」

「とりあえず、先に竜の王の試練に向かいましょう。」


 ボクらは王墓をグルグルと警備するように回っていると思われるガーディアンが向こうに行ってしまった隙をついて竜の試練の方に向かった。



 竜の試練は竜の石像の前に置かれた小さな魔法陣にドラゴンが触れて魔力を流し込むことで鍵が開くということだった。

 ボクは竜の石像の前の魔法陣に触れて魔力を流し込んだ。すると魔法陣が光って目の前の竜の石像が動き出した。これで試練はクリアだろうか?


「これでいい?」


 ボクはみんなの方を振り返った。するとマリンが驚いた顔をしてボクの頭上のあたりを見上げている。


「どうしたの? この竜の石像?」


 ボクも上を見上げて先ほどの竜の石像を目をやると、さっきまで石で出来ていたと思っていた竜の像がガーディアンと同じように鉄のような表面になってボクの方を見ていた。


「あ、あれ?」


 なんとなくこれはヤバイ気がしてボクはすぐにドラゴンの姿になる。と同時に竜の像はボクに炎を吹きかけてきた。危ない!


「こんな仕組みは聞いていません。この竜の像が動くなんて!」


 ボクは竜の像がみんなの方を攻撃しないようにと竜の像の体を押さえるように体当たりをした。


「リョウ! どうしよう!?」

「これは一回戻って作戦を立て直した方がいいよ!」


 ボクが竜の像を押さえつけている間にみんなが王墓の入り口の門へ向かおうとした時ミネの声が聞こえた。


「ああ! ガーディアンがこっちに来てる!」

「えええ!?」



 ティアラさんが剣を抜き行く手を阻むガーディアンのゴリラに向けて剣を振るう。しかし、ゴリラの表面に少し傷がついた程度でビクともしない。ルカが魔法を使って大量の氷の矢を浴びせるとゴリラはその猛攻に動きを止めた。


「ボクだけじゃ無理だよ!」


 ボクは竜の像を押さえるので精一杯だ。


「コウタさん! コウタさんもドラゴンになってください!」


 マリンがコウタさんに向かって言った。

 ボクはコウタさんの方を見た。コウタさんはゴリラと対峙するティアラさんの元に走っていった。


「ティアラさん!!」

「……コウタさん……!」

「ティアラさん! この戦いが終わって無事に戻れたら、僕と結婚してください!」

「……え……? ……あの……?」


 コウタさんはティアラさんの手を握ってティアラさんの目を見つめる。ティアラさんもコウタさんの目を見つめている。しかしティアラさんは答えを迷っているという感じだ。


「あなたたち、状況をわかっていますか!?」


 マリンが叫ぶ!


「ティアラ! どう答えればいいのか、わかっていますよね?」


 ティアラさんは、そう言ったマリンを見てからまたコウタさんを見て答えた。


「……ごめんなさい。……結婚はできません……。」

「そんなあああー!!」


 コウタさんの姿がドラゴンに変わっていく……。そのドラゴンが纏う雰囲気は暗い悲しみに包まれていた……。コウタさんは失恋の悲しみの感情によってドラゴンに変わったのだ。


「ああ……コウタさん……ほんとにごめんなさい……。」


 ティアラさんはコウタさんだったドラゴンを前に手で口を覆い涙を流していた。


「よくできました! コウタさん! さあ! その絶望をガーディアンにぶつけてください!」

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