もう一人のドラゴン

 男性はコウタと名乗った。


「じゃあ……、ここは異世界で、僕はその王女様の魔法で呼ばれてきたってことなのか……。」


 マリンがコウタ……さんに憑依術とこの世界について一通りの説明を終えると、割とすんなりとコウタさんは受け入れたみたいだった。


「あー、そういえば目覚めた時、僕に何か大変なことが起こっていたような気がしてたんだよ。ボヤッとしてるけど、きっとそれが魔法の影響だったのかな?」


 コウタさんはマリンに魔法でひらっとした服を出してもらって着ている。首筋にウロコが残っているのはボクと同じだった。


「ボクはリョウです。ボクもコウタさんと同じように日本からこの世界に呼ばれてきたんです。だいたい一年くらい前に。」

「そんなに前から? へえ、先輩だねえ。」


 コウタさんはボクらをマジマジと見てからこう言った。


「それでなんで僕は呼ばれたんです?」

「え? えーっと……。」


 そういや、コウタさんがこの世界に転生させられた理由って特に無いんだよな……。


「あ……あの……コウタさんは……、元の世界ではどのようなお仕事をされていたんですか……?」


 マリンもボクも何も答えられないでいると、ティアラさんが小さな声でコウタさんに聞いた。


「仕事ですか? んー、車って言ってわかりますかね? それの部品の設計をやっていたいんですよ。」

「設計……、技師ですか……?」

「技師? まあこの世界ではそういう呼ばれ方をするんですかね?」


 ボクは異世界転生者同士の会話が出来そうでちょっと嬉しくなった。


「あ! この世界にも車あるんですよ! ボクも最初ビックリしたんですけど、魔法で動くんです!」

「へえ! 魔法で!? それは見てみたいなー!」


 体力が回復したルカが口を挟む。


「ねえ、一度街に戻るんでしょ? 早くしましょ。日が暮れるわ。」

「そうですね。それでは飛行車に合図を送りますね。」


 マリンが草原の入り口に止めておいた飛行車を呼ぶために杖を振って合図を送る。


「ミネも大丈夫?」

「うん。さすがに今日は疲れたよ。」


 ボクはミネの手を引っ張って立ち上がるのを助けた。

 みんなと同じように立ち上がろうとしたコウタさんが少しよろけたのでティアラさんが肩を貸した。


「すみません。なんかフラフラしてて……。ティアラさん……でしたっけ。最初僕はあなたを見た時にこの世とは思えませんでした。」

「……どういうことですか……?」

「あ、いえ、こんなに美しい女性がこの世にいるのかと……。」

「……美しいって……そんな……。」


 ん? 今聞こえた会話は何? ボクはコウタさんとティアラさんの方を見た。コウタさんは頬を赤くしてティアラさんを見ている。ティアラさんもじっとコウタさんの顔を見ていた。


「飛行車を呼びましたから、さあ乗ってくださーい。」


 マリンが少し離れたところから手を振っている。二人の様子がおかしいことに気付いたのはボクだけだったのだろうか? 気になったけれど、ボクも疲れていたので気のせいということにしてそのまま飛行車に乗り込んだ。



 街に着くとマリンは今日はここに宿をとると言った。この街は北の草原と王墓とのちょうど中間地点になるらしい。


「すごい! この世界はこんなに発展してるんだ!」


 コウタさんは街に着くなりキョロキョロとあちこち見ては都度驚いていた。観光地に来たみたいに全然落ち着きがなくて、目を離したら迷子になってしまいそうだ。


「ちょっとあっちの方に行ってみてもいいですか!?」


 コウタさんが目を輝かせて街の賑やかそうな通りの方を指さしている。


「……ティアラ。一緒についてあげなさい。」

「……あ、はい……。」


 マリンがティアラさんに指示を出した。


「あの二人、行かせちゃって大丈夫なの?」


 ボクは思わず聞いた。


「ティアラも大人ですから、コウタさんの気が済んだらちゃんと連れて帰ってきますよ。」

「いや、それはそうだろうけど……さっきあの……。」

「それよりも! 明日の打ち合わせをしましょう!」

「……うん。」


 こうして二人は別行動になり、ボクとマリンとミネとルカはそのまま宿まで移動した。ミネは途中の屋台で何か食べ物を買っていた。美味しそうな匂いがしている。

 まあ、気にしすぎかな。

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