王位継承の試練
ボクは騎士たちに付けられた傷をマリンの魔法で癒してもらってからミネが持ってきてくれた服を着て、忌々しい魔法陣のある建物だから出た。目に映る空の青い色が愛おしい。危うくこれが二度と見られなくなるところだった。
「私たちはここの事務局でリョウさんの憑依術の手続きをしてきます。戻ったら朝食にしましょう。その後に王墓に向かいます。ルカさん、リョウさんたちをお願いしますね。」
そう言うとマリンとティアラさんはボクらを残して一際大きな神殿のような建物に続く階段を上っていった。
ボクとミネとルカは階段の下に残された。さっきからミネはずっとボクから離れないようにしている。
「そういえば、まだ今日は何も食べてなかったよ。ミネは?」
「私も……。リョウが連れ去られたって聞いて慌てて来たから……。」
「そうだったんだ。……ミネ、助けてくれてありがとう。まだお礼言ってなかったね。」
「ううん。私、ずっと不安だったよ。……もう離れないようにしよう?」
「うん……。ごめんね。」
ボクは隣にいるルカの方を見た。
「ルカもありがとう。助かったよ。」
ボクとミネを頬杖ついて眺めていたルカは呆れたような顔でため息をついて言った。
「ハァ……、あなたお人好しね……。」
「そうかな?」
「まあ、それはあなたの長所なのかもしれないけどね。」
ルカは優しい笑顔を見せてそう言った。
「さっきマリン王女は王墓に向かうって言ってたけど、王墓って?」
ボクはルカに聞いてみた。ボクはまだこれからの予定について聞かされていない。ボクの力が必要な理由も。
「マリンは王位継承の試練を受けると言っていたわ。この国の最初の王は竜の王……、ドラゴンを使役したと言われているの。だからきっとドラゴンの力が必要になる試練があるんだと思う。」
「へえ。」
「一昨年、国王が亡くなりその後王位は空席のまま……。アダム王子が代理を務めていると聞いたけれど、この国の様子はだいぶ変わったみたい……。マリンがそんなことを考えるなんて余程ね。」
ボクらが待っていると、マリンが少し怒ったような感じで戻ってきた。
「少し予定変更です。朝食のあと私たちは北の草原のドラゴンのところに向かいます!」
「ドラゴンって?」
「この国の最後のドラゴンです。そいつに憑依術を使いに行きます。」
「ん? どういうこと? ドラゴンって、ボクは?」
ミネも不安そうに聞く。
「リョウのことは大丈夫なんですか?」
「リョウさんのことは大丈夫です。手続きは終わりました。なのに教会のやつら、自分たちの怠慢の尻拭いを私に押しつけて! もう一人憑依者を作ってこいだなんて!」
「なんでそんなことに?」
「……教会のしきたりで、年に二回憑依術を使うことになっているのです。それを今年はまだ一度もやっていないと……! リョウさんの憑依術を認める代わりに、残りの一回の憑依術も私がやるようにと言ってきたのです!」
ルカが聞いた。
「それでなんでドラゴンなのよ?」
「本当はどの魔物でもいいのですが……、私だってドラゴンに魔法で打ち勝てると見せてやろうかと。それにドラゴンがいなくなればお兄様も困るはず!」
マリンはだいぶ怒りで興奮しているようだった。
正直ボクは引き気味になっていたけれど、それを察したのかマリンがボクに向かって言う。
「そういえばこの後の説明がまだでしたね。北の森でドラゴンに憑依術を使った後に王墓に向かいます。王墓で私は王位継承の試練を受けるつもりです。そこにリョウさんには同行してもらいます。……試練を終えた後、正規の憑依者として登録されたリョウさんには中央王国の国民としての地位を与えます。」
「えー……、でも、そのドラゴンがいてもボクは必要なの?」
「ちょ、ちょっと、リョウ! 何いってるの!」
慌てたミネがボクの服の袖を引っ張った。うーん、ミネの言いたいことはわかるけれど、ボクは何か嫌な予感が……。
「リョウさん、ミネさん! 試練で活躍するのはもちろんリョウさんですから安心してください。ドラゴンの力、期待してますからね!」
マリンは両手の拳を胸の前でグッと握って見せたあと、善は急げとばかりにさっさと先に行ってしまった。
「よかった! ……リョウ、頑張るしかないよ! 王女は約束は守ってくれる。身分を手に入れなきゃ、リョウはこの世界で生きていけないんだから!」
ミネもホッと一息ついてからボクに期待の眼差しを向けてそう言ったあとすぐマリンの後を追っていった。
「えぇ……。」
この勢いのままで行っていいんだろうか……? 取り残されたボクの背中をルカがポンポンと叩いた。しょうがないとでも言うように。
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