同郷者

「おやおや〜、浮かない顔してますねぇ。ドラゴンさん。」


 店を辞めたショックで部屋に帰る気にもならず街の広場でボーッとしていたボクに、先日ボクを襲った魔法使いの少女たちのうちの一人、プリンが声をかけてきた。


「なんだ? ……まだこの街にいたのか?」

「あれあれ? 私たちも同じ宿に泊まっていたんですよぉ。気付いてなかったんですかぁ?」


 イラっとさせられるしゃべり方だ。ドラゴンにならないように気持ちを落ち着かせる。


「まだボクになんか用なのか?」

「いやいや〜。もう私たちはドラゴンさんを狙わないって約束しましたからぁ。」


 プリンはニヤニヤとボクを見ているだけで、ボクの前からなかなか動こうとしない。



 ……こいつが居なくならないならボクから去るだけだ。ボクはプリンから離れようと思い腰を上げた。


「今日は、ドラゴンさんにちょっとしたアドバイスを、と思いましてぇ。」


 ボクがプリンを無視して広場から出ようとすると、引き留めるようにプリンは話しはじめた。


「まったくぅ、この間もぉ、ルカちゃんに杖を返してしまうなんて平和ボケ過ぎますよぉ? これだから最近の日本の若者はぁ。」

「……日本の?」


 ボクは思いも寄らなかったその言葉を聞いて、プリンの方を見た。

 プリンはいやらしい笑みを浮かべて言った。


「実は、私も転生者なんですよぉ。ドラゴンさんのセンパイなんですぅ。」



 プリンがボクと同じ転生者? 日本からこの異世界に来た?


「どうやって!?」

「ドラゴンさんと同じように憑依術でこの世界に転生させられましたぁ。……と言っても、私は中央王国で生まれた正規の転生者ですがねぇ。」

「いつから!? 元の世界に戻りたいって思わなかったの!?」

「戻りたい? 思ったこともなかったですねぇ。あの世界での私の生活は最悪でしたぁ。私はぁ、この姿でこの世界で、第二の人生を生きるって決めたんですよぉ。」


 この世界の方が元の世界よりも良いと思ってるってこと? そうか、そういう人もいるのか……。この少女は今は異世界で明るく振る舞っているけど、元の世界では酷い目に遭っていたのかもしれない。ボクはあまりそこを深く聞いたら可哀想な気がして元の世界の話には触れないようにしようと思った。



「元に戻る方法は知らないの?」

「知らないですぅ。興味もなかったのでぇ。」

「そうか……。」

「ドラゴンさん、元の世界に戻る方法を知るために中央王国に行くためのお金が必要なんですよねぇ。簡単にお金を稼げる方法、私が教えてあげましょうかぁ?」


 プリンは、指で丸を作ってボクに見せた。


「お金を稼ぐ方法?」


 もしもそんなものがあるならば知りたい。仕事も失ってしまったし、ボクはいつまでもこの世界にいたいとは思っていない。はやく元の世界に戻る方法を得るために中央王国には行けるならすぐに行きたかった。


「実は、あなたは高く売れる物をもう持ってるんですよぉ。」


 プリンは人差し指をボクの口元に向けた。


「ドラゴンの唾液は裏社会では媚薬の材料として高額で取引されてるんですぅ。」

「唾液!?」

「そうですぅ。それ、私が買ってあげますよぉ。」

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